57諦め
「綺麗な髪なのに勿体ないですね」
美容師さんが、私の髪を撫でながらそう言った。
私は鏡に写る自分の姿を見て
「構わないです。お願いします。」
と言う。
美容師さんは私の言葉を聞くと、ハサミを取り出し私の髪に入れていく。
そう言えば、松山先生を好きになってからずっと伸ばしたままだったっけ…
…あの日から既に一週間が過ぎようとしていた。
夜になると、馬鹿みたいにいつも一人で泣き続けてた。
マコを忘れようと決めたはずなのに、あの日のマコの温もりが…
…プールでのキスの感触が
…なかなか消えてはくれなかった。
あれ以来、マコからの連絡はなかった。
代わりに、由恵からは何度も電話がかかって来た。
トモから話を聞いたのか、
「私の事は気にしないで!美咲はマコが好きなんでしょ?」
って、そればっかり言ってたっけ…
でも、私知ってるんだよ?
あの日、プールで元子の胸で泣きじゃくる由恵を…
私は何も言えないま買ったジュースを持って皆の元へ戻ったんだ。
由恵を一人で泣かせる事なんて出来ないよ。
それに、もうこれ以上マコの困った顔は見たくなかった。
「…これ位の長さでよろしいですか?」
美容師さんが、鏡に写る私を見ながら聞いてきた。
私はそれに頷くと、美容師さんに促されるままシャンプー台へと足を進めた。
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…さてと、次は何をしようかな…
私は行くあてもないまま、ぶらぶらと足を進める。
ふと、目に入ったブティックのウインドウ。
夏に向けてのふわふわのスカートで、由恵を思いださせる。
(…私はマコしか居ないのに!)
あの日、そう言いながら私を睨みつけた由恵。
(…やっぱりマコが好き…諦めたくない…)
そう言って泣いていた由恵。
(…頑張ったね)
隣でそう言ってくれた由恵。
…これで良かったんだ…
〜♪
不意に聞き慣れた着信音が流れ始める。
私は慌ててバックから携帯を取り出す。
着信は…
由恵。
「もしもし?」
「もしもし?美咲?あのね、明日休みでしょ?…久々に二人で買い物でも行かない?」
突然の由恵からの誘いにOKの返事をして電話を切る。
…よかった…
一人で家に居ると、どうしてもマコを思い出してしまう。
家に一人で居たくはなかった。
少しでもマコを忘れたい…
今は何も考えたくはなかった。
久々に、由恵と二人で出かけるのも楽しみだし…
そんな事を考えながら、手にしていた携帯をバックにしまおうとする。
…しかし、目に入ってきたのはウッドビーズのストラップ。
未だに外せないまま私の携帯にぶら下がっていた。
本当に色々な所に残っているマコとの思い出…
私は手にしたままの携帯をバックにしまい込むと、人込みの中を歩き始めた。