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56マコの告白

「じゃあな!気をつけて帰れよ!」


竜輝がそう言って車を発進させて行く。

僕は走り去る車に手を振ると、隣に立つ美咲に視線を移す。

美咲はその視線に気付いた様に、僕の方を見るとニッコリと笑った。


「…行こうか。」


僕はそう言って、駐車場へと足を向けた。

美咲も後ろを付いて歩く。


ポケットから車の鍵を取り出し、鍵を開ける。

そしてそのまま車に乗り込むと、美咲も助手席へと腰を下ろした。


僕は車を駐車場から出すと、そのまま美咲の家へと進めて行った。

前に家の前まで行った事があるから、道は覚えている。


僕はなかなか話を切り出す事が出来ないまま、車を運転していた。


美咲もずっと黙ったまま、外を眺めていた。


「…美咲?まだ時間とかって大丈夫?」


僕がそう尋ねると、美咲は僕をちらっと見てから

「大丈夫だよ。」

と答えた。


僕は、その言葉を聞くなり車の進路を変える。

目的地は美咲の家ではなく、夜景の綺麗な丘の上。


この辺りは高級住宅街が多く、夜景が綺麗に見える公園はちょっとしたデートスポットになっていた。



何台かカップルらしき車は停まっていたが、僕は気にせず車から降りる。

美咲も車から降りたのを確認してから鍵をかけ、公園へと歩き出した。


「夜景綺麗だね。」


美咲がそう言って、僕を見た。

僕は、夜景なんかよりも美咲にみとれてしまったのだが…

そんなキザな言葉を口に出せるはずもなく、黙ったままベンチへと腰を下ろした。


美咲も隣に腰を下ろし、夜景を見つめていた。


僕は、どんなふうに話を始めようかと言葉を捜す。

でも、上手く言葉が見付からなくて…


…時間だけが過ぎていった


「…マコちん…ごめんね。私があんな事言ったから、困らせちゃったんだよね?」


沈黙を破ったのは美咲だった。

僕はその言葉に、美咲を見つめる。


「…トモに怒られちゃった。マコちんを振り回さないでって…」


…智博が美咲を怒った?


その言葉に智博なりの思いやりを感じて少し嬉しくなる。


「前にね、由恵にも言われた。マコちんを振り回さないでって…」


美咲が続けて言った言葉に僕は黙って耳を傾ける。

美咲は少し悲しそうに微笑むと、小さく

「…ごめんね?」

と、僕を見た。



…僕は…

その表情に、自分の気持ちが溢れ出すのを止める事が出来ないでいた。


「振り回されるのなんて当たり前だろ?僕は…どうにもならない程に美咲を好きなんだから…美咲が悪い訳じゃないだろ?」



気付けば僕は、そう言いながら美咲を抱きしめていた。


…美咲の一言が僕を嬉しくさせる…

…美咲の表情が僕を悲しくさせる…


それが恋だと言うのに…


美咲に謝られたくなんかなかった。


 

僕が勝手に好きなのに…美咲を苦しめたくはなかった。



…美咲の身体がゆっくり離れる…



僕は美咲を見つめた。


美咲も僕を見つめていた。


夜空の下で、月の明かりに照らされてる美咲はいつもの何倍も綺麗だった。



…美咲が僕を見つめる大きな瞳から、一粒の涙が零れ落ちた。


美咲はそれを拭わずに僕を見つめたまま…


小さく


「…ごめんなさい…」


と、呟いた。


その瞬間、僕は何も言葉を発する事が出来なくなる。

こんなに明るい月明かりも、光り輝く夜景も…


…僕には届かなかった。



…美咲は僕から目を逸らすと、もう一度

「…ごめんなさい」


と呟いた。



僕は身体を正面に向け、大きく深呼吸をする。

そのまま上着から煙草を取り出すと、火を点けた。



…これ以上、出てくる言葉なんてなかった。


…美咲の涙に少しの可能性はあるのだろうか…


…そう聞きたかったが、何も言えないまま俯いた美咲の頭に手を乗せた。


「…美咲…付き合わせてごめんな?あと…困らせてごめん。…行こう?」


そう言って、吸った煙草を消すと席を立った。


美咲は俯いたまま涙を拭っていたが、ゆっくり立ち上がると僕の後ろを着いて来た。

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