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55/59

55隙

…帰りの車内…


皆、それぞれ今日の話で盛り上がっていた。


そんな中、僕は一人後悔していた。



…何であの時、美咲にキスしてしまったんだろう…



美咲は相変わらず、そんな事などなかったかの様に振る舞っていた。


でも、僕に対する態度だけが妙にぎこちなくて…



隣に座る美咲をちらりと盗み見る。

美咲は窓に頭を寄せて、一人で黙ったまま外を見ている。


さっきまで皆と楽しそうに話をしていたのに…


…何か考え事でもしてるのだろうか…?


「美咲?今日、楽しかった?」


僕は、恐る恐る美咲に声をかけてみる。



…美咲は何も返事をしなかった…


僕の胸に急激に不安が広がる。



…トスン…



突然、美咲の頭が僕の肩へともたれ掛かってきた。



…美咲は寝ていた…



…寝てたのかよ…


急に笑いが込み上げる。


勝手に一人で不安になってる僕は相当な馬鹿だな…


美咲を起こさない様に横目で美咲の寝顔をのぞき見る。


無防備な顔で眠る美咲が凄く愛おしかった。


僕はそのまま、そっと美咲の頭を僕の膝の上に乗せた。


「美咲寝ちゃったの?珍しいっ!」


由恵が後ろから覗き込みながらそう言うと、元子も助手席から顔を出した。


「本当だ!男の人が居ると絶対お酒でも酔わないのに…」


確かに…


いつも、隙など見せない美咲が眠っていた。


「ちょっ!俺も見たい!」


竜輝があわてて車を端っこに寄せて停車させると


「いいから竜輝は運転!」


と、元子に怒られていた。


「…ねぇ、美咲が安心して眠れる理由って…これじゃない?」


後ろから由恵が言った言葉に僕は振り向いてみる。


…そこには…



…大きな口を開けて眠る智博…


「…ぷっ!確かに!竜輝は運転中だし、マコちんなら安心だもんね!」


元子が智博の様子を見て、笑いながら言った。

その言葉に


「…どういう意味だよ…」


と、竜輝が返す。


「そのままの意味だよ?」


元子の言葉に、由恵も思わず笑い出した。


「うわぁ…由恵ちゃんまで…」


竜輝がわざとらしくいじけて見せたが、元子も由恵も笑っていた。



僕は、膝の上で眠る美咲を眺めていた。


美咲が言っていた『一緒に居ると安心して隙を見せてしまう人』

…それは僕の事なのかな…


そんな事を考えながら、僕は美咲の唇をそっと指でなぞった。



************


「…ちん?マコちん?」


誰かの声にそっと目を開ける。


…そこにあったのは上から僕を覗き込む美咲の顔…



…僕はいつの間にか寝ていたようだ…


…あれっ!?



僕は慌てて跳び起きた。

僕が眠っていた場所は

…美咲の膝の上…



「…ご…ごめん!」


慌てて美咲に謝る僕。

美咲はクスクス笑っていた。


外を見るともう、僕たちの家の近くまで来ていた。


「マコも起きたし、次はトモだね!」


後ろで聞こえた由恵の声に振り向くと、智博はまだ眠っていた。


…しょうがないな…


僕は車内にあったティッシュペーパーを一枚取ると、細く捩ってこよりを作る。


もちろん、そのまま智博の鼻に差し込む。


智博は寝ぼけた様子で鼻を擦りだす。


しかし、そんな事は気にせず続ける僕。


「…へ…へっくしょん!」


大きなくしゃみと共に跳ね上がる智博。


…しかし、顔はぼーっと一点を見つめたまま動かない。


「智博!起きろ!もうすぐ着くぞ!?」


僕がそう声をかけると、智博は目を擦って眠たそうにしていた。


…僕にこよりを入れられた事は気付いてない様子だった。


美咲と由恵はクスクスと笑いだしていた。


「着いたぞ!」


竜輝がそう言って車を停める。

順番的に智博が最初だったようで、そこは智博の家の前。


智博はゆっくりと窓の外を見ると、まだはっきりしていない様子のまま車を降りた。


「じゃあ、気をつけてね。」


そう言ってゆっくり手を振る智博。

僕等も手を振り返す。


そのままゆっくり車は発進して行った。



次は由恵の家。

由恵は元気に車から降りると

「バイバイ」と、手を振った。


そして、次は美咲の番なのだが…


僕は竜輝に


「竜輝。美咲は僕が送るから、僕の家に行って!」


と言った。

美咲は驚いて僕を見ていた。


「えっ!?俺はいいけど…美咲ちゃんは?いいの?」


竜輝がルームミラーで後部座席を覗き込みながら美咲に聞く。


美咲はその言葉に

「…うん。マコちんの家に向かって…」


と静かに答え、車は僕の家へと向けて進み出した。

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