54竜輝の勘違い
読者の皆様へ。沢山の評価やご意見ありがとうございます。作者自信や文章に対するご指摘なども参考にさせて頂いてます。メールでご指摘して下さった方々へ返信が出来ないので、この場をかりて御礼をしたいと思います。これからも『僕の宝物』を応援よろしくお願いします!〜バックハイ〜
…終わった恋愛…
その言葉が僕の言葉に陰を落とす。
美咲は竜輝の言葉に少し笑って
「私の事なんていいからさ。それより由恵と元子は?」
と、話題を変えた。
しかし、竜輝は空気が読めないのか
「二人はジュース買いに行ったよ。それよりさ、やっぱり美咲ちゃんの好きな人って昨日の先生?」
と、話を続けた。
その言葉に、僕の脳裏に昨日の美咲と先生の様子が浮かんだ。
美咲は少し驚いた様子だったが、すぐに声を出して笑いだした。
そしてそのまま言葉を続けた。
「松山先生はそんなんじゃないよ。…確かに昔は好きだったけど…とっくに振られてるし、もう結婚してるんだよ?」
美咲の言葉に、自分の胸の高鳴りが落ち着きはじめる。
…結婚してるんだ…
さっき、美咲は僕を好きだと言ってくれた。
直ぐさま取り消されてしまったけれど…
やっぱりどこかであの先生が気になっていたから…
…よかっ…
…バシっ!!
「痛いっ!何するんだよ!マコ!」
智博が頭を抱えて叫びだす。
まったく…せっかくホッと出来るシチュエーションだったのに
…隣でニヤニヤしてるから思わず頭を叩いてしまった。
「大体、何であの先生の話になるといつも妄想を始めるんだよ!?」
僕の言葉に智博は頬を膨らます
「別にいいだろ!?好きなんだよ!教師と生徒のシチュエーションが!」
「…好きなんだよって…
そんなに自信を持って話す事でもないだろ?」
僕も負けじと言い返す。
「あははっ!」
美咲の笑い声に振り返ると、美咲は楽しそうに僕と智博のやり取りを見ていた。
それが凄く可愛くて、僕は思わず見とれてしまう。
「美咲〜!」
美咲はその声に振り返ると席を立った。
由恵と元子が帰って来たのだ。
「はい、マコ。コーラで良かった?」
由恵が僕にコーラを手渡す。
僕は『ありがとう』と言って渡されたコーラの蓋を開けた。
「ようやく皆揃ったし、少し休んだらまたプール行こう?」
智博がテーブルに身を乗り出して皆にそう言うと、皆それに頷きジュースを飲んでからプールに戻る事にした。
※※※※※※※※※※※※
「なぁ、マコ?…相談があるんだけど…」
竜輝が小さな声でそう言ったのは、皆でプールへと歩いている時だった。
…竜輝が相談?珍しいな…
僕は少し不思議に思いながらも竜輝を見た。
隣に居た智博も、竜輝の言葉に身を寄せてきた。
竜輝は前を歩く女性陣をちらりと見ると、少し悩みながらも口を開いた。
「…さっきの話なんだけど…俺、あれから色々考えたんだ…」
…さっきの話?
僕は何の話かわからないまま竜輝を見つめる。
「…もしかして…美咲ちゃんの好きな人って…俺なんじゃないかな…」
…僕は思わず手に持っていたタオルを落としてしまった。
…智博も抱えているシャチを落としている…
竜輝はそんな様子に気付かずに一人で話を続ける。
「…俺なら元子が居るから、隠そうとする美咲ちゃんの様子も納得だし…でも、困るよ…俺は元子一筋だし…」
…全然困った様子でもない竜輝は、すでに固まって足を止めている僕達に気付きもせずに、一人でブツブツ言いながら歩いて行く。
…相談って…
…人がせっかく真剣に聞いてたのに…
僕はちらりと智博を見る。
智博も僕の方を見ながら固まっていた。
……
無言のまま目で合図する僕と智博。
そのまま竜輝の方へと走る。
…そして智博と二人で竜輝を抱える。
「…ちょっ!何するんだよ!離せって!」
竜輝がジタバタと動き出すが、僕達はお構いなしに竜輝を抱えて走り出す。
女性陣の横を走り抜けると、三人の笑い声が聞こえてきた。
でも、僕と智博はそれも無視してプールまで走る…
…そしてそのまま…
…ドボンッ!
プールへと飛び込んだ。
「何すんだよ!」
竜輝が水面から顔を出すなり叫びだす。
「うるさい!大体、タツが意味不明の勘違いをしてるから頭を冷やしてやったんだよ!」
智博も負けじと叫びだす。
僕は…
「…ゴホッ…ゴホッ!」
…鼻から入った水を出していた。
「…もう頭にきた!喰らえタッチャンスプリングー!」
竜輝が昨日の様に両手を広げて回転し始める。
途端に水びたしになる僕と智博。
智博も一緒に水を掛け始める。
…僕は…
プールサイドまで避難する
…と、美咲達が笑いながらやってきた。
「凄い楽しそうだね!」
元子がそう言ってプールに入る。
由恵と美咲もそれに続く。
「元子ちゃん、竜輝を止めてくれよ…」
僕がそう言うと、元子は『わかった』と言って竜輝の方へと向かって行った。
…しかし…
元子は竜輝の側に行くなり、両手で竜輝に水を掛け始める。
…ますますヒートアップする竜輝…
…まったく…
僕はプールをあがり、一人で歩き出した。
「マコー!どこ行くんだよ?」
後ろから智博の声が聞こえたが、僕は何も答えない。
そのまま智博が投げ捨てたシャチを拾うと…
プールまで一気に走りだす。
「わぁぁ!マコ!止めろっ!」
竜輝の叫び声が聞こえたが、僕はプールサイドから一気に飛び込んだ。
…バシャン!…
…凄い勢いで水しぶきがあがる。
もちろん全員水浸しだ。
「…トモ…マコを集中攻撃だ…」
竜輝が顔を拭いながら智博に合図する。
その途端に一斉に僕を囲む竜輝と智博。
…と元子と美咲と由恵…
…つまり全員からの集中攻撃…
それに反撃する僕。
皆楽しそうに笑いながら、水掛け遊びが始まる。
美咲も楽しそうに笑って智博に水を掛けていた。
それが凄く可愛くて…
僕は美咲の手を引っ張ると水中へと潜りこんだ。
急に僕に手を引かれ、水中に引きずられた美咲は驚いてジタバタしていた。
僕は、そんな美咲にそっと唇を重ねた。
…バシャンっ…!
水面にあがると、皆はまだ水を掛け合っていた。
美咲は唇に手を当てたまま立ち尽くしている。
それがめちゃくちゃ可愛くて…僕の鼓動が高鳴った。
「…さっきの仕返し。」
そう言うのが精一杯だった。