53終わった恋愛
「マコ!遅いよ!」
先程のテラスへ戻ると竜輝と元子が戻って来ていた。
…遅いよ!って…
今まで二人でどこかに行ってたくせに…
そう思いながらも視線は美咲を探していた。
「美咲ちゃんならジュース買いに行ってるよ。」
僕の行動を読んでる様に智博が口を挟む。
それが何だか恥ずかしくて、無言で椅子に座った。
そのまま首に下がった防水用の小物入れから煙草を取り出し火を点けようとして手が止まる。
テーブルの上に無防備に置かれている美咲の携帯電話。
…そこにぶら下がったウッドビーズで作られたストラップ…
僕は思わず携帯を手に取る。
「マコ〜人の携帯覗くのはいい趣味じゃないよ〜」
隣から智博がそう言って僕を覗き見た。
でも、僕の視線は携帯にぶら下がるストラップから目が離せなくなっていた…。
前に美咲に貰ったストラップと全く同じデザイン。
違うのは下に付いてる英語のロゴが(MISAKI)になっている事だけだった。
僕はそっと携帯をテーブルに戻し、点け忘れてた煙草に火を点けた。
「マコ〜何だよニヤニヤして。気持ち悪いよ。」
智博が口を挟む。
…ずっと見られてたのか…
僕は智博を睨みつけると煙草の煙を大きく吸った。
「マコ。私もジュース買いに行くけどマコは何か飲みたい?」
由恵が僕に声をかける。
僕は視線を由恵へと移して
「適当にお願い。」
と、答えた。
「わかった。元子も一緒行かない?」
由恵はそう言って元子の腕を引っ張る。
元子もそれに頷き、二人でジュースを買いに歩いて行く。
竜輝はそんな二人を見送ると
「なぁ、マコと由恵ちゃん何かあったの?」
と、向かいの席から身を乗り出して聞いてきた。僕は苦笑いで
「何もないよ。」
と答えた。
「嘘つけよ〜なんか由恵ちゃんの雰囲気変わってるぞ?」
竜輝は尚もニヤニヤしながら身を乗り出してくる。
「タツ。なんかあったのは俺かもよ?」
智博がそう言葉を挟んで、変な笑いを浮かべた。
…何かあったのか?
…美咲と?
思わず智博を見つめる僕と竜輝。
智博は尚も変な笑顔。
…何か…
…あるわけないな。
直ぐさま智博を無視して竜輝に視線を戻す。
竜輝もタイミングよく僕を見ると
「そう言えばマコ、欲しがってたCD買った?」
と、無理矢理会話を始めた。
「それがさ、なかなか見つからなくて」
僕も無理矢理、会話を合わせる。
…しかし…視線の先に飛び込んで来たのは智博の顔。
「ちょっと!無視しないでよ!」
無理矢理、僕と竜輝の間に入ってわざとらしくいじけて見せた。
竜輝はそんな智博に眉を寄せて、身を乗り出していた身体を背もたれに預けた。
「大体、嘘付くならもっとマシな嘘付けよ!ありえないだろ?美咲ちゃんが俺達の誰かと付き合う事になんてなったら…
この赤ビキニで駅前を歩ってやるよ!」
竜輝はニヤリと笑いながらそう言うと、僕の煙草を一本取って火を点けた。
智博はその言葉を聞くなり、ぐいっと竜輝に顔を近付けて
「言ったな!その約束忘れないでよ!俺じゃなくても赤ビキニだからな!」
…と、言うなり僕を見てニヤリと笑った。
「何?マコが?…それも有り得ないよ。マコには由恵ちゃんが居るだろ?」
竜輝は、鬼の首を取った様に勝ち誇る智博に驚きながらも、僕にそう聞いてきた。
僕はその言葉に少し戸惑いながら言葉を捜す。
「有り得ないよ。マコちんには由恵が居るでしょ?」
…後ろから聞こえてきた声に驚いて振り返る。
…声の主は
…美咲だった。
それを見て気まずそうにしている僕達を他所に、美咲は椅子に腰を下ろしながら言葉を続けた。
「大体、勝手に賭けの対象にするなんて失礼!私だって恋はするのに!」
美咲は竜輝を見ながら笑ってみせた。
「じゃあさ、美咲ちゃんはどんな男が好みなの?俺達みたいなタイプでは絶対ないでしょ?」
竜輝が開き直った様子で美咲に聞き返す。
…美咲の好み…
僕は、変な方向に話が向いてしまった事に動揺しながらも美咲が口を開くのを待っていた。
「…一緒に居ると安心して隙を見せてしまう人。…かな。」
少しの沈黙の後、美咲はそう言うと少しはにかんで見せた。
竜輝はその言葉を聞くなりニヤリと笑うと口を開いた。
「ほらな。やっぱり有り得ないよ。赤ビキニはなしだな。」
「何で?」
智博が不思議そうに口を挟む。
竜輝はそんな智博を笑いながら見ると
「馬鹿だな。今のはどう考えても好きなタイプじゃなくて好きな人の話だろ?
…つまり、美咲ちゃんはすでに好きな人が居るんだよ。」
と、続けた。
竜輝の言葉に先程の美咲の言葉が僕を指している気がして嬉しかった。
「じゃあさ、その好きな人が俺達の中の誰かって可能性もあるだろ?」
智博がそう言って美咲を見る。美咲は少し気まずそうに笑うだけで何も答えない。
代わりに竜輝が智博を見ながら口を開いた。
「だったら、あんなにはっきり有り得ないとは言わないだろ?もし俺達の中の誰かなら、それはすでに付き合ってるのを隠してるか終わった恋愛かのどっちかだよ。」
…終わった恋愛…
その言葉が僕の心に深く突き刺さっていった。