49二次災害
僕と智博は二人で流れるプールへと来ていた。
もちろんシャチも一緒に。
「マコー。二人の事ほっといていいわけ?」
智博がシャチに掴まり流されながら聞いてくる。
「…僕が行ってもややこしくなるだろ?それに由恵が二人で話したいって言ったんだし…。」
そう言いながらも僕の胸の中では不安が一杯だった。
…はぁ…
…このタイミングで美咲と付き合えるのかな…
…むしろ、ここで呑気に美咲に返事をする訳にもいかいし…
…由恵の気持ちを切り捨てる事も出来ない。
「ところでマコ。次、その浮輪俺に貸してね。」
…人の気も知らずに呑気に言う智博…
そんな智博を睨みながら
「いやだ」
と言う僕。
僕は少し大きめの浮輪にお尻を入れてぷかぷかと浮いていた。
これが結構気持ちが良くて、智博は羨ましそうにながめていた。
「マコー!」
突然、プールサイドから名前を呼ばれ振り返ると、由恵が笑顔で走って来ていた。
後ろからは美咲も笑顔で歩いて来る。
…なんだかよく分からないが、二人共仲直りした様子だったので僕はホッと胸を撫で下ろした。
…結局、二人はどんな話をしたのだろう…
…僕が原因なのに完全にアウェーな感じで少し不安になるが…
僕からは聞かない方がいいと直感的に感じていた。
「やっぱりここに居たんだ!」
そう言いながらプールに入って来る由恵。
美咲もそれに続いて入って来た。
「智博がシャチに乗りたいって騒ぐからさ。」
僕は少し笑いながら言葉を返す。
「…ってか…由恵ごめん。僕の事押して?」
「押す?こう?」
由恵は静かに僕の浮輪を押した。
それと同時に前へ流れて行く。
「違う違う!僕の事を突き落として?…降りられなくなったんだよね…」
…浮輪にお尻を乗せて浮かぶこの体制…
浮かんでいる時は気持ちいいが…
乗り降りが意外と大変なのだ。
由恵は僕の言葉の意味が分かったようで笑いながら僕を突き落とした。
…バシャン!
同時にプールへ突き落とされる僕。
…やっぱり荒療治だったようで…鼻から水が入り込む。
「…ゴホッ!」
慌てて咳き込み水をだそうとする僕を楽しそうに笑う由恵。
僕はちらりと後の美咲へと目をやる。
…よかった…
美咲も智博と一緒に僕を見ながら笑っていた。
僕は胸を撫で下ろしながら、少し流された浮輪を拾って由恵に渡した。
「あはは!ありがとうマコ。」
由恵はまだ笑いが止まらない様子で浮輪を受け取る。
僕はそんな由恵に笑顔を向けた。
…でも本当は後ろに居る美咲が気になってしょうがなかった。
美咲は智博にシャチを借りて、楽しそうに泳いでいるが…
美咲達が戻って来てから、僕は由恵としか会話をしていない。
たったそれだけの事かもしれないが…
…僕の胸の中は不安でいっぱいになる…
…美咲はどんな時でも笑顔を作るのが得意だから…
「美咲!次、僕にシャチかしてよ。」
意を決して美咲に声をかけてみる。
美咲はシャチに捕まりながら僕の方まで流れて来ると
「マコちんシャチ虐めそうだから嫌だよー。」
と言ってそのまま前へと流れて行った。
…このやろう…
僕は笑いながら美咲を追い掛ける。
美咲は僕を見ながらバタ足で水を掛けてくる。
途端に水浸しになる僕。
…ならば。
僕はプールに潜り美咲の方へと泳いで行く。
シャチに捕まる美咲を発見すると、下からシャチを捕まえて顔を上げた。
隣には驚いて僕を見ている美咲。
「シャチ確保ー!」
僕が美咲に笑いながらそう言うと、僕から視線をそらす美咲。
…ん?
「…マコちん近いし…」
美咲が小さく呟き、僕は美咲と肩が触れる程の距離間だった事に気付き、慌てて離れた。
…やばい。
そう思いながらも僕の胸は大きく鳴っていた。
「なーんてね!バイバイマコちん!」
…バシャバシャ!
僕が離れた途端にそう言ってまたもバタ足で泳ぎだした美咲。
…もちろん僕はずぶ濡れ。
…あの悪戯娘め…。
僕は顔に掛かった水しぶきを拭いながら美咲を睨み付ける。
…でも口元は…
隠せない程に笑っていた。