43告白2
…ドクン…ドクン…
…僕は真っ直ぐな美咲の視線から逃げる事が出来ないでいた…
美咲の言葉も気持ちも、向けられているのは僕ではないと分かっているのに…。
それでも小さな期待が僕の中で沸き上がる…。
「…その人に…告白はしたの?」
僕はそんな少しの期待を吹き消すかのように、美咲に尋ねた。
「まだしてないよ。これから告白するかどうか悩んでる。」
美咲があどけなく笑いながらそう答える。
…これから…?
僕は美咲の言葉の意味が解らなくて、美咲を見詰めた。
「…でもさ、その人には大切な人が居るし。私は本当は二人を応援する立場なのに…邪魔ばっかりしちゃうんだ…。」
美咲はそう言いながら少し悲しそうに笑った。
…僕の気持ちも一気に悲しくなった…。
…今の言葉から考えると、美咲の好きな相手は間違いなく僕ではなさそうだ…。
自分の中で勝手に膨らませてしまった期待感に、少し羞恥心を抱いた。
「…マコちんはどう思う?それでも好きでいていいのかな…?」
……。
美咲の質問に僕は喉を詰まらせた。
…その問いに対して僕は何て答えればいいのだ…。
…僕は美咲の恋を応援出来るのだろうか…?
「…止めちゃえよ…そんな恋…。」
…ほぼ無意識に言っていた。
「…周りにいくらでも美咲を大切にしたいと思ってる人は居るんだし…」
…少し口調が強くなる。
「…美咲にとっては恋愛対象外の相手でも、美咲を幸せにしたいと思ってるんだよ…。」
僕はそこまで言って美咲を見詰めた。
…美咲は…
…美咲は今にも泣き出しそうな顔をしていた…。
初めて見る美咲の顔に、僕は自分の言葉に酷く後悔をした。
「…ほら!智博だってさ…あいつ、アホだけど凄い美咲を好きだし。」
僕は無意識に並べてしまった自分の台詞を、自分の事だと気付かれたくなくて…
…そう付け加えてしまった。
美咲は少し遠くを見てから、僕に視線を戻すと
「…ごめんね」
と微笑んだ。
僕はその『ごめん』の意味を聞くのが恐くて、視線を美咲から外す。
…多分気付かれたのかもしれない。
…僕の気持ちに…。
…そう思うとどうにもならない程の悲しみが僕に襲い掛かる…。
「…マコちん!ほらもうすぐ順番だよ!」
美咲が重い空気を打ち消すかのように、明るく僕に話しかける。
気付けば僕たちの順番はすぐそこまで来ていた。
僕も精一杯美咲に笑いかける。
この気持ちを気付かれたくはない…。
「…はい、男性は後ろでお願いしますね。」
店員さんがそう言いながらゴムボートを渡してきた。
僕は滑り台にゴムボートを浮かべると、先にゴムボートへ乗り込んだ。
そして僕の股の間に美咲が座る。
…失恋した矢先にこのシチュエーションもある意味辛いものである…。
「合図と共に滑りますらかね。」
店員さんがそう言って、僕たちから少し離れた。
それと共に美咲が僕の方を少し振り向く。
「…ねえマコちん?…さっきの私の好きな人気付いちゃった?」
突然、美咲が先程の話を振り返してきた事に少し驚きながら僕は首を横に振る。
「はい!スタートしますよっ!」
店員さんが合図の掛け声をかけて来た。
それと同時に滑り始めたゴムボート。
「…だよっ!」
美咲が何か叫んだが、結構なスピードで聞き取る事が出来ない。
ゴムボートは滑り台のトンネルへと入っていった。
それと同時にあたりは急に暗くなる。
…突然の出来事だった…
顔に当たる冷たい空気が一瞬遮られた。
僕の唇に温かく柔らかい感触が襲った…。
…えっ…!?
…ドボンッ…!
その感触の理由を考える間もなく、僕らはプールに落ちた。
…僕は、プールから浮かび上がると顔の水しぶきを拭うのも忘れて唇を押さえる。
…何だったんだ…今の感触は…。
…まるでキス…されたみたいな…。
僕は水面から顔を出した美咲を見詰める。
美咲は濡れた前髪をかき上げると僕に視線を移した。
…そして僕に笑いかけると
「…マコちんだよ…私の好きな人…。」
…確かにそう言った。