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30/59

30喪失感

「行け!美咲!」



…パァン!


「やったぁ!」


笑顔で僕を見る美咲


「えぇ…?美咲ちゃん上手いよ…」


少しふて腐れながらピンポン玉を投げてくる智博



僕等は卓球場へと来ていた


くじ引きで男女ペアを作り、ビリチームは優勝チームに明日の昼ご飯を奢る事にしていた


…ちなみに僕は美咲とペア。只今対戦中の智博は元子と。そしてそれを笑いながら見る竜揮、由恵ペアだ


美咲も元子も、意外に運動神経が良いみたいでどんどんスマッシュを打ってくる


僕は卓球の経験はないが、美咲や元子に負けない位のスマッシュはたやすく打てた


…これで智博も上手かったらいい勝負になるのだが…


「もうー!トモ、足引っ張りすぎー!」


卓球場に響く元子の声…

元子は智博の足の引っ張り具合にホトホト愛想を尽かした様子だった…

それもそのはず…智博は昔から中学校、高校と続けていた剣道以外はあまり運動が得意な部類ではなかった



元子はかなり奮闘したが、点差はみるみる開いて行く


…そして…



「やったぁ!」


美咲のスマッシュが綺麗に智博の脇を擦り抜けると、美咲が声を上げた

僕は両手を胸の前で掲げて掌を目一杯開く

パチンッ

美咲が僕の掌に美咲の掌を合わせると

「やったね!」

と僕に笑いかけた



結局、僕たちチームは智博達に七点も差を着けて勝利する事が出来た



続く竜揮、由恵チームは竜揮が運動神経が良く奮闘したが、由恵が足を引っ張る形で僕たちが勝利した



「明日のご飯はゴチだね!」


美咲が僕に笑いかける


「美咲のおかげだよ!」


僕もそう言いながら美咲に笑いかけた



試合は、竜揮チームと智博チームが接戦を繰り広げている


僕と美咲は脇にある椅子に腰を下ろして試合の行方を眺めていた



「…由恵、可愛いね?」


美咲が由恵を眺めながら口を開く

由恵は跳んで来たピンポン玉にびっくりしてしゃがみ込んでいた


「そうだね。女の子って感じだよね」


僕はそんな由恵を笑いながら見て答えた

そんな僕の言葉に美咲が切な気な表情で



「由恵は女の子として見てるんだね…」


と答えた

いつもとは違う表情に僕はドキリとした


「…?美咲?」


僕はそんな美咲を不思議そうに見詰める


美咲は由恵を見たまま口を開く


「…今ね…凄く女の子らしく為りたい…由恵みたいに…」


それは感情の篭った切ない一言だった…


…僕はその言葉に全てを悟ってしまった

美咲が僕とのデートを断った理由…

僕と距離を置こうとした理由…

…そして…美咲の切な気な表情…



…美咲は恋をしているのだろう…



(…美咲、好きな人出来たの?)


…僕はそう問い掛けようとして言葉が出て来なかった


…美咲自身の口からそれを聞くのが怖かったのかも知れない

僕は男として見られてはいない事は分かっている

だが、智博や竜揮には向けられる事のない笑顔が僕には向けられている

…それが特別な事なのだと思いたかったのだ…

でも、美咲にはもっと特別な存在の男性が居るのだとはっきりと分かってしまった



…そして…由恵と唇を合わせてしまった自分にはそれに嫉妬心すら抱く権利もないのだ…


(…旅行の時に返事を聞かせて…)


あの時に言っていた由恵の言葉が頭を過ぎる


…僕は…僕はどうしたいのか自分でも分からなくなっていた


…でも、今の美咲の表情で気付いてしまったこの喪失感を消す事なんて出来なかった…



由恵への罪悪感。

美咲への喪失感。



どちらも消してしまいたい感情だった…



多分、何も考えずに由恵と付き合う事が、誰も傷付く事なく済む一番の方法なのだろう…


…でも…僕は自分の中から美咲の笑顔を消す事が出来ない…


…僕なんかには由恵は勿体ないのに…それでも美咲の側に居たいと思ってしまう僕は欲張りなのだろうか…


…ましてや美咲は恋をしているのに…


…由恵と付き合う事よりも美咲と友達で居る事を選ぶのか…?




「…マコちん?」


ふと覗き込む美咲の顔

気が付くと竜揮チームの勝利が決まった所だった


僕は覗き込む美咲の顔をまともに見る事が出来なくて、智博と話をする振りをして席を立った

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