26溢れ出す想い
「疲れたー。智博め…今度絶対、飯奢らしてやる…」
そう言いながらトモの自宅から戻り、タクシーに乗り込むマコ
「お疲れ。智博君も随分飲んだみたいだしね」
私はそう言いながらマコを見て苦笑いをする
「次は由恵か…」
マコが私の膝の上で眠っている由恵をちらりと見て苦笑いする
そして
「運転手さん、あそこの信号を右にお願いします」と運転手さんに由恵の家までの道を説明する
「マコちん、由恵の家知ってるんだ?」
私はマコをちらりと見て聞いてみる
「前に送って来た事があるんだ」
マコの言葉に、私は胸が張り裂けそうになる
それを必死で隠しながら
「そっかぁ」
と笑う
タクシーが由恵のマンションの前に止まる
由恵を抱えてマコが降りると
「美咲、部屋まで案内して」
と声を掛けてきた
私はタクシーに待ってて貰い外に出ると
「部屋は知らないんだ?」
と悪戯気に聞いてみる
マコは
「当たり前だろ!」
と苦笑いをした
私は由恵の部屋の前まで来ると、由恵のバックから部屋の鍵を取り出し部屋を開ける
由恵をベットに寝かしつけると
「マコちんも泊まりたい?」
と悪戯気に聞いてみる
「そんな訳ないだろ!」
少し顔を紅くしながらマコが答える
私はそれを見ながらくすくす笑うと部屋の外へと足を向ける
それに続きマコも外へと出て来た
「でも、美咲は酒強いんだな…」
エレベーターを待ちながらマコが聞いて来た
「本当は弱いよ?今日は男の人も居たから酔えなかっただけ…」
私はそう笑いながら答えると、開いたドアからエレベーターに乗り込む
マコも私の言葉に笑いながら一緒に乗ると
「…さすがだな」
と、小さく呟いた
私達はマンションの外へ出ると、待ってて貰ったタクシーへと乗り込む
運転手さんに私のマンションまでの道程を教えると、座席に寄り掛かりため息をつく
「美咲も一人暮しなの?」
私の方を見ながらマコが聞いてくる
「うん。まぁ、私は母親が高校生の頃に再婚したからさ…居づらくて…」
私は苦笑いをしながらマコを見る
「そっかぁ…変な事聞いてごめんな…」
「いいよ。気にしないで」
私はマコの言葉に笑って返事を返す
ふと、窓の外を見ると家の近くまで来ていた
私は久しぶりのマコと二人きりの時間が終わってしまう事に焦りを感じていた…
ちらりとマコの顔をのぞき見る
マコは前を見たまま何か考え事をしている様子だった
(…マコの気持ちを振り回さないで欲しい…)
由恵の一言が頭を過ぎる
タクシーが私のマンションの前に止まる
…ドクン…
「マコちん?少し、酔い覚ましにお茶でも飲んで行かない?」
私は、精一杯の笑顔を作ってマコに聞いてみる
マコが驚いた様子で私の顔を見る
…ドクン…
マコの返事が返ってくる時間がとても長く感じる…
「美咲…言ったろ?僕だって男だぞ?少しは意識しなさい!」
マコが笑いながら私のおでこを突く
…意識なんてとっくにしてるよ…
「マコちんも狼になるんだ?」
私は笑いながらタクシーを降りる
緊張からか、涙が溢れそうになる
今マコにこの顔を見られたら…
「玄関まで送るよ…」
マコもそう言いながらタクシーを降りる
「ここでいいよ。ありがとね」
タクシーの前で私はマコにそう言って手を振りマンションへと足を向けようとした…
…しかし、不意にマコに掴まれた左手がそれを制した
…ドクン…
私はゆっくり振り返りマコを見つめる
マコは自分の行動に少し驚いた様子で
「…いや…気をつけてね…」
と口を開くとタクシーに乗り込んだ
私は走り去って行くタクシーを見ながら
「…何だよそれ…」
と小さく呟いた