23海
「マコ?私海に行きたい」
由恵の一言で、食事を終えてから僕等は海を見に来ていた
「凄い。いい香り」
風に靡く髪を押さえながら由恵が口を開く
僕は手を伸ばし背伸びをして風を感じる
「気持ちいいな」
僕がそっと呟くと、由恵は僕をちらりと見て微笑んだ
「…私ね、すっごーく嫌な奴なの…そんな汚い気持ちも全部、波が浚ってくれたらいいのに」
由恵が海を見ながら言った
僕はその言葉の意味が分からずに
「何で?」
と聞き返す
由恵は僕の方を振り向かずに言葉を続ける
「…私ね、ずっと昔から美咲に嫉妬ばっかりしてるの。綺麗で人気があって…いつも男の子達は皆、美咲にしか興味がないの」
僕は黙って由恵の後ろ姿を見つめながら、次の言葉を待っていた
「…私に近付いて来る人はいつも皆、美咲目当て。美咲に振られたから私と仲良くなって、次のチャンスを狙ってるの…だから、ずーっと嫉妬ばっかり…」
僕は、由恵の言葉を聞きながら竜揮と智博の事を思い浮かべていた
昔、一度振られて由恵と仲良くなって合コンをセッティングした竜揮
脈が無さそうで、由恵と連絡を取り合って次の約束を取り付けた智博
…僕は由恵の言葉に
「そんな事ない」
と言ってあげる事が出来ずに、ただ黙って聞いていた
「…それにね、本当は今もそんな汚い気持ちを全部隠してマコにアタックしようと思ってた。
…でも、それじゃ益々美咲に勝てないから…汚い所、全部吐き出してマコに見てもらいたかったの…」
由恵が僕の方を振り向きながら言った
僕は黙って由恵を見ていた
月明かりの下、由恵は満面の笑顔
しかし、瞳からは今まで何年も堪え続けていた涙が溢れだしていた
「…マコ?前にね、美咲が言ってた。マコは美咲を女としてじゃなくて、一人の人間として見てくれる。って…私もね、美咲と私を同じ目線で見てくれる男性はマコだけだった…」
そう言いながら由恵は僕の方へと近付く
…ギュッ
由恵が僕に抱き着く
…しかし僕は、由恵を抱きしめ返してあげる事が出来なかった…
「…由恵」
「…何も言わないで…今はこのままで居たい…」
僕の言葉を遮るように口を開く由恵
僕の胸に顔を埋めた由恵の表情を見る事は出来ないけど
由恵の背中は小さく震えていた
僕は由恵の髪をそっと撫でた
まだ肌寒い夜の海
沢山の星達に照らされた僕と由恵
まるでこの世界で二人しか居ない様な空間の中
潮風の香りを感じながら
僕等はそっとキスをした