2女王様
彼女との出会いは四年前。僕、長谷部誠がまだ19歳の頃の事だった―。
「マコ、まじ頼むよ。俺今回の合コンは気合い入ってんだよ。」
電話越しの相手は小学校からの友人、林田智博。
「嫌だよ。マジで合コンは面倒臭いよ。言ったろ?彼女とか作る気ないって。」
僕はベットに横になりながら、ぺらぺらと雑誌をめくりながら答えた。正直その頃の僕は、一年間付き合っていた彼女が
「元カレが忘れられない」と僕の下を去って以来、女は懲り懲りだった。
…恐らく僕達が付き合っていた頃から関係は続いていたのだろう…
もう、女に振り回されるのも恋をするのも面倒だ。
そう思っていた。
「んな事言わないでさ。マコもそろそろ彼女作れば?それに今回はあの聖南の藤井美咲も来るらしいよ?噂くらい聞いた事あるっしょ?」
藤井美咲―。
智博の言葉に僕は雑誌をめくりながら高校時代に噂で聞いた彼女を思い出していた―。
隣町の聖桜南高校の藤井美咲。なんでも凄い美人な上にスタイルはモデル並。と、当時うちの高校の男共が噂していた
ただ、放課後に迎えに来る年上の彼氏とその容姿のせいでか僕らと同世代の男共でアプローチしたのは数える程しか居ないらしい。
そしてその勇気ある男共も皆、彼女に散々たる振られ方をしたらしい。
「タツもさ、藤井美咲ゲットって超気合い入れてんだよ!なっ?頼むよ!」
「…相手にされないのがオチだぞ?…分かったよ。行くよ。」
智博の押しの強さに渋々返事をした僕。
でも、それとは別に藤井美咲にも好奇心が沸いていた。
別に、智博みたく彼女へアプローチをしようなどと考えちゃいない。
どうせ相手にされるはずもない。
ただ、それだけ噂される傲慢な女王様を見てみたくなったのだ。
…なんとなく…
僕の下を去った彼女と藤井美咲を重ねて、勝手に嫌悪感を抱いていた…。
「まじ?ありがとう!じゃあ、土曜日七時に迎えに行くから。」
明るすぎる智博の返事に
「わかった」と言い、小さな溜め息を吐いた。
そして、そのまま携帯をベットの上へ放り投げる。
…女なんて懲り懲りだ…
自分勝手で我が儘で…
結局別の男の所に行くくせに…
僕はベットのパイプ部分に未だに貼られたままのプリクラを見詰めた。
そこに写っているのは、少しだけ若い僕と、僕に頬を寄せて笑っている前の彼女。
それを見て、何だか無償にモヤモヤが胸に広がり始めた。
僕はそのプリクラを剥がすと、小さく丸めてごみ箱へと投げ捨てた。