17欲望と気持ち
…今、僕の頭の中はフル回転していた…
目の前には涙を溜めた由恵の顔
僕はその大きな瞳に吸い込まれそうになっていた
先程までの観覧車、僕は乗ってる間ずっと同じ事を考えていた。
…それは…
ずっと右手の肘にある柔らかい感触…
由恵が僕の腕を抱きしめる間、ずっと僕の肘は由恵の大きな胸に当たっていた…
…僕は自分の股間が恥ずかしい事にならない様にずっと、僕の母親の太い二の腕を思い出していた…
…この感触は母さんの二の腕…
…この感触は母さんの二の腕…
呪文の様に唱えたその言葉も、今の由恵の瞳を見るとどこかに吹き飛んだ
…ドクン…
…柔らかそうな由恵の唇が近付く…
…ドクン…
…僕の理性が吹き飛ぶ…
…ドクン…ドクン…
由恵の唇に自分の顔を近付ける
(…マコちん…)
…一瞬の出来事だった…
僕は由恵の頭を自分の胸に埋めて冷静になる…
…何やってんだ僕は…
…由恵に惚れてる訳でもないくせに…
僕はいつもこうだ…
ただの性欲なのに好きだと勘違いをする
そんな気持ちで誰かを幸せにする事なんて出来ないと分かっているのに…
「…いや…由恵ちゃん…僕も一応男なんだから…まずいよ…」
…なんとか声を搾り出す
…何言ってんだ僕は…これじゃまるで由恵が悪いみたいじゃないか…!
由恵が僕の胸から頭を抜くと、僕の腕の変わりに智博に貰ったクマを抱きしめる
僕は小さく
「ごめん」と呟いた
僕はあの瞬間、確かに美咲の笑顔が頭を過ぎった事を思い出す
(…私と話したいんじゃなくて女の子と話したいんじゃないかな…)以前、美咲が竜揮と智博の事を言っていた言葉…
今の僕は正にそれだった…
…由恵とキスをしたかった訳ではない…抑えられなくなった性欲を吐き出そうとしていただけだった…
僕は美咲の笑顔が僕の前から消えてしまう恐怖感に駆られていた
観覧車は静かな沈黙のまま降りて行った…
「由恵?」
観覧車を降りると、先に降りていた美咲が由恵の表情に気が付いて声を掛ける
「高くて怖かったよー」
そんな美咲に笑顔で答える由恵…
…僕はそんな由恵と美咲に対して罪悪感でいっぱいになっていた…
そんな様子に美咲は気付く事なく
「由恵?私、まだ乗り物乗りたいからマコちん借りてもいい?」
と由恵に尋ねた。その言葉に頷き、トモの手を取り歩きだす由恵…
…と言うより智博?…
智博も美咲の言葉に素直に従っている…
…さっきはあんなに無茶したのに…
「智博と何かあったの?」
僕は美咲に尋ねた
「…ん。付き合ってって言われたの…で、断った…」
美咲が少し考えながら口を開く。そしてすぐに
「でも諦めてくれなくて私ね、智博君にどこが好きなの?って聞いたの…」
美咲は近くにあったベンチに腰を下ろしながら続ける
僕も美咲の隣に腰を下ろし美咲の顔を見る
「…でも智博君は[俺、本当に美咲ちゃん程綺麗な人は見た事ないんだ]ってそれしか言わなくて…で…つい…馬鹿にしてんの?って……言っちゃった…」
…僕は美咲の言葉に自分の腕で口元を押さえ、顔を美咲と逆の方へと向けた…
…智博…すまん…
…僕は笑いたいのを必死で我慢していた…
「…マコちん?…引いたよね…私きつく言い過ぎちゃった…」
僕の様子に美咲がため息をついた
「…いや…大丈夫だよ智博なら多分。今頃、次の作戦でも練ってるよ…あいつは打たれ強いから」
僕がそう言うと美咲はホッとした笑顔で眉をしかめた
「…次の作戦練られるのは嫌だな…」
美咲の言葉に僕は我慢し続けた笑いが抑えられなくなり、声を上げて笑った