16観覧車
「…あんまり外は見ない方がいいよ?」
隣で心配そうに声をかけるマコ。
私はギュッとマコの腕を抱きしめる
…ドクン…ドクン…
観覧車が頂上に近付く
…ドクン…ドクン…
「由恵ちゃん?凄いドキドキしてるけど大丈夫?」
…ドキッ!…
マコに胸の高鳴りが気付かれてしまった
…みるみる顔が熱くなるのが分かる…
私は俯き何も答えなかった
マコの大きな手の平。私はそのゴツゴツした指に自分の指を絡ませた
…高校の入学式。他校から来た男子や上級生達は皆、美咲を見ていた
他の女子生徒よりも遥かに大人びていて綺麗だった美咲
一緒に帰る時も上級生達が声を掛けにやってきた
瞬く間に美咲は学校中の有名人になっていた
…しかし、当の美咲はその頃毎日イライラしている様子で、寄ってくる男子達に冷たい言葉を浴びせていた
あの日もそうだった
「美咲ちゃん、付き合って欲しいんだ。俺マジで美咲ちゃんが好きだから」
学校を出ようと美咲と校門の近くまで歩いた所で呼び止められ、美咲にそう告白したのは三年のサッカー部の大橋先輩。
爽やかな容姿と笑顔でかなり女子生徒の間では人気が高かった
…私もそんな大橋先輩のファンの一人だった
流石の美咲も、大橋先輩に告白されたのだから少しは気持ちが揺らぐだろう
…と思ったのもつかの間…
「マジで好きって…話した事もない人に簡単にそんな言葉言われたくない!」
冷たい視線と共に、そう言って歩きだす美咲…
美咲の言葉に呆然とする先輩…
「美咲っ!」
慌てて私は美咲を追い掛け、校門を出た所で呼び止める
「いいの?あんなに言っちゃって…先輩人気あるのにさぁ…」
「人気なんて関係ないよ…何なの皆して…遊びに行こうとか、付き合ってとか…簡単に言い過ぎ…馬鹿にしてるよ…」
私の言葉に美咲はそう答えると急にうずくまり出した
「…私に何を求めてんの…?男の人って本当は皆、同じ事しか考えてないの?」
そう小さく呟くと、小さく背中を震え始めた
…中学生の頃、美咲の事を好きだった男子は沢山いた。しかし皆遠くから見ているか、告白するとしてもあんな公衆の面前なんかではなく、本当に勇気を振り絞り美咲に気持ちを伝えようとしていた。
…高校に入ってからの男子達の対応に、一番戸惑っていたのは美咲自身だった。
…でも…正直、私には美咲の気持ちが分からなかった
…分かりたくても美咲の環境は、私みたいな普通の女の子には分からない…
…何でだろう…ずっと一緒に居たハズだったのに…いつの間にか美咲は見えなくなるほど前に進んでいた
…マコと笑っている美咲を見ていると、美咲が私と同じ目線でマコを見ている気がして嬉しかった
…そう…嬉しかったハズだった…
「マコ?マコも美咲が好き?」
隣に座るマコに尋ねてみる…マコは少し黙って口を開く
「好きだよ」
…ズキンッ…
マコの言葉に胸が張り裂けそうになる
「でも…惚れてる訳じゃないんだ。ただ、美咲が好き。それだけだよ。」
マコが言葉を続ける
私はその言葉の意味が解らずに、そっと顔を上げてマコを見つめる
…ドクン…
マコは私の目に涙が溢れそうなのを見て、少し心配そうな表情をしている
…ドクン…
私は少しずつマコとの距離を詰めていく
…ドクン…ドクン…
マコの吐息が感じられる程の距離。私は目を閉じた…
…ふいにマコに抱きしめられた。私の頭はマコの胸の中にすっぽりと収まっていて、マコの鼓動が聞こえる
「…いや…由恵ちゃん…僕も一応男なんだから…まずいよ?」
頭の上からマコの声が聞こえる
…何やってるんだ私は…
自分の行動に恥ずかしくなるのと同時にさりげなくマコにかわされた自分の唇が、惨めでどうしようもなかった
私はマコの腕の中から頭を抜き、先程トモに貰った黄色いくまを抱きしめた
本当は美咲のもとへ行くはずだったこの縫いぐるみと、今の私は同じだった…