15美咲の初恋
「マコちん、このウサギも私に似てる?」
美咲が先程マコに貰った縫いぐるみを手に持ち、楽しそうに話している。
「これは美咲が海賊船に乗ってた時の顔に似てる」
ウサギの顔を見ながら悪戯気に言うマコ。
その言葉に美咲が
「見てなかったくせにー」
と笑い出す。
美咲がこんなに、男の人と楽しそうに話すのを見たのはどれ位前だろう…
そんな二人を訝し気に見ているトモをちらりと見て、私は見え始めた観覧車の入口へと視線を戻す。
「美咲ちゃん、観覧車見えて来たよ。行こう!」
突然そう言いながら美咲の手を引っ張り進み出すトモ
美咲は慌てて私の腕を掴み
「せっかくだし、四人で乗ろうよ」
と、トモに言った。
私はそんな美咲の腕をそっと解いて
「トモが可哀相だから一緒に乗ってきなよ。私はマコと乗るから」
と答えた。
…意地悪だな私…また美咲に嫉妬してる…
…美咲と私は小学校の頃からずっと一緒だった。
小学校の頃の美咲はショートカットのよく似合う女の子だった。
いつもクラスの中心でみんなと笑い合っている
そんな風に、明るくて活発な女の子だった。
中学校に入っても、そんな美咲の周りには男女問わず皆が集まっていた。
美咲が少しずつ変化していったのは中学二年生の頃。
髪も伸ばし始めて、一人で考え事をしている事が多くなっていた。
あの頃の美咲は、見る度に綺麗で大人っぽくなっていた。
美咲が綺麗になっていくたび、男子達は距離を置き始め、女子も美咲に声を掛けにくくなり少しずつ美咲は孤立し始めた。
男女共に美咲に一目置くようになっていたのだ。
「…由恵…私ね、好きな人がいるの…
頑張ってその人に女として見てもらいたい。
…早く大人になりたい…」
今にも泣きそうな声で美咲が私に話してくれたのは学校の帰り道、私の家の近くにある公園だった。
私は、今にも崩れそうな美咲が、そんな想いを相談してくれた事がとても嬉しかった。
…はずなのに…
心のどこかでは、それほど強く想える恋をしている美咲がとても大人に見えて
…羨ましかったんだ…
美咲の恋が終わりを告げたのは卒業式。
美咲の姿が見えなくて、探しに行った教室から聞こえたのは、小さく震えた美咲の声だった…
「…少しでもいいんです…私の事を女として見てください…」
「…ごめんな…藤井は藤井だよ…女としてはどうしても見てあげれない」
美咲の声に続いて、聞こえてきた声は落ち着いた男性のものだった。
男性はもう一度
「ごめん」
と呟いて歩き出した様子だった
…まずいっ!…
そう思ったのと同時に教室のドアが開いた…
とっさに逃げ出そうとしたが、出てきた男性と目が合ってしまった。
「…平田…」
…それは美咲が所属するバスケ部の顧問の松山先生だった…
先生は24歳で背も高く生徒にも人気があった。
…でも美咲の好きな人が先生だったとは…
驚き見つめる私の視線に、先生は逃げるようにその場を去って行った。
私は、教室に一人でうずくまる美咲の側に行き
「頑張ったね」
と美咲の髪を撫でた。
そうする事で私も美咲の見ている世界に入れたような気がしていた。
「…由恵ちゃん?大丈夫?具合悪い?」
ふと心配そうに覗き込むマコの視線に気が付いた。
結局、私の一言で美咲とトモは一つ前の観覧車に乗り、私はマコと観覧車の中に居た。
…そうだ観覧車…!?
思い出したように窓の外を見る私。
もうずいぶん高くまで上っている
途端に足が震えだし、どうしようかとマコを見た
…マコは心配そうに私を見ている。
切れ長の一重瞼にキリッとした眉毛。
…マコってトモや竜揮君と居るから目立たないけど結構、格好いい部類に入るよな…
そう思って見ていると足の震えも恐怖心も飛んでいた
…のだけど…
「マコ?隣に座ってもらってもいい?」
私はそう言って、隣に座ったマコの腕に自分の腕を絡ませた。