13智博のファイト
…ガゴンッ
自動販売機から出てきたお茶とコーヒーを手にしてベンチに座っている由恵のもとへと足を向ける僕。
由恵はハンカチを口元に当てて真っ青な顔をしていた。
あの初心者向けのアトラクションでこの様子の由恵
…相当苦手なんだな…
「由恵ちゃん大丈夫?」
そう言いながら隣に座り持っていたお茶を差し出すと
「うん。ありがとう」
と精一杯の笑顔を向ける由恵
そんな由恵に笑いかけてから、僕は大きく揺れている海賊船に目をやる
船の一番端で大きく手を上げている竜揮と美咲。
その両隣で元子と智博が縮こまっているのが見えた。
僕はそれを見てクスクスと笑う。
「マコ?ごめんね付き合わせて…」
ふいに由恵が口を開く。
僕は由恵の方を見て
「なんで?役得じゃん?」
と笑った。
その言葉を聞いて由恵は少しホッとした顔をしながら小さく
「…嘘つき」と微笑んだ。
僕はそんな由恵を笑いながら見て、また海賊船の方へと目を向けた。
停まった海賊船から四人が降りて来るのが見えた
美咲が手を振りながら走ってくる
その後ろで楽しそうに話しながら歩いている竜揮と元子
…そして一人、真っ青な顔をしてトボトボ歩いて来る智博。
僕はそんな智博を見て声を出して笑った。
そんな僕をよそに由恵の隣に座り
「由恵、良くなった?」
と声を掛ける美咲
由恵はそれに笑顔で頷き、お茶を一口飲んだ
竜揮と元子もベンチの前までやってきて智博の様子を眺めながら口を開いた。
「マコ、元子ちゃんと向こうのアトラクション行こうと思ってるんだけど…どうする?」
竜揮の言葉に僕は由恵と美咲の方へ目をやる。
由恵と美咲も僕の方に目を向けた。
「智博君もあんな状態だし…マコちんとジェットコースター行きたいけど…由恵いい?」
美咲がそう言いながら由恵の方へ目を向けた。
由恵は笑顔で頷いた。
…しかし…
「俺もジェットコースター凄い乗りたい!」
…と僕たちの所までやってきた智博が会話を遮った。
…ぶほっ!
僕は飲んでいたコーヒーを口から吐き出す。
「大丈夫?」
と由恵が手に持っていたハンカチを貸してくれた。
僕は智博の言葉に大声で笑いたいのを必死で我慢した…竜揮もその様子を見て、腕で口元を隠しながら必死で笑いを堪えている。
あまりにも真っ青な顔をしながら必死で笑顔を作る智博を見て、美咲は少し困った顔をしたが、
「行こう」
と美咲の手を取り智博が引っ張って行ってしまった。
そんな智博を見送り竜揮に目をやると竜揮も僕の方を見ていた…
「「ぶはははっ!」」
その途端に堪え切れなくなった笑いが僕と竜揮を襲った。
そんな様子を見て元子と由恵も笑い出す。
「…何が[俺もジェットコースター凄い乗りたい!]だよ…」
笑いながら声を絞りだして竜揮が言う
「アハハ…誰が見たって無理じゃんか」
僕もそう言いながら竜揮を見る
…智博…いつもの冷静さを欠く程、海賊船が怖かったのか…
「…じゃあマコ、俺達行ってくるわ」
まだ笑い止まない様子の竜揮がそう言いながら元子と一緒に立ち去った
僕は由恵に目を向け
「じゃあ行こうか?」
と席を立った
由恵も
「うん。」と頷き席を立つ
それを見て僕はゲームコーナーへと足を向ける
ふと、指先に何かが触れた。
僕は自分の手へと目を向ける。
…ぎゅっ!
その瞬間…
由恵の小さな手が僕の手を握り、僕は慌てて由恵の方へと目を向ける。
「…マコ、歩くの早いよ」
そう言いながらはにかんだ笑顔の由恵。
僕も由恵に微笑んで歩幅を少し狭めて歩いた。