第六話 日常
今日はアカネに街を案内してもらうことになっている。
そういうことになっているのだ。
デートぢゃないよ!?
僕は彼女とかほしくないわけじゃないけれど、こういうのにはちゃんと手順を踏んでだなぁ……。
って違う違う。
とりあえず、今日は街の案内をしてもらう。
一応ここにきて一ヶ月以上たつが、いまだにこの街について知らないことが多すぎる。
ここに定住するつもりはないが、魔王を倒したあとにはいいかもしれない。
穏やかで言い街だ。
「さて、準備OK」
服は変な着こなししてないよな?
あまり変わっていないな?
よし、前よし後ろよし、出発進行。
・
・
・
とは言っても彼女には彼女の用事がある。
それを片付けないことにはどうにも先には進めない。
僕はアカネの家である工房近くに行くとアカネの姿はあった。
とても大きな荷物を持って運んでいる。
これは手伝ったほうがいいよな。
僕は駆け寄って荷物を持つ。
「ほら、手伝うから、これをどこに運べばいい?」
「ん?あ、ありがと」
「お礼はこの街を案内してくれるのでチャラだ。というかなんらかの形でお礼はしなくちゃならなかったんだ。先払いするだけで特にお礼されることじゃないさ」
「話し、長い」
「失礼」
僕は二箱の木箱を。アカネは一箱の木箱を運んでいる。
中身は金属の廃材。
「これはあの場所に持っていくの?」
「ええ、あんたが掘り返してたあの場所にね」
「僕ですら穴掘るのにあんなに時間がかかったのに、まさかアカネ一人で掘り返してるの!?」
「うん?まあね」
「う、うわぁ。女の子に負けたぁ。悔しいなぁ」
「別に素手で掘り返すわけじゃないわよ? ただ、『魔法』を使って掘り返すだけで」
「えっ!? なんだって?」
僕は思わず木箱を手放していた。
そして、それは重力というこの星の引力に引かれそして……。
メギリグシャ。
僕の足の骨を砕いた。
「痛ったあああああぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
このときの叫び声は隣町にまで聞こえたんじゃないかと思う。
とりあえず、足先を木箱と地面の間から抜き取り、のた打ち回る。
右足がぁ! 僕の右足がぁ!
砕けた足の足首を持ってのた打ち回るだけでも大分痛みが引いていく。
そして、五秒もしないうちに完治した。
軽く死にそうな痛みだった。
みんなも気をつけてね。
「痛かったよ。痛い」
「男の子でしょ? 我慢しなさい!」
「骨が砕ける痛みをどう我慢しろと!?」
あれを我慢できるやつはよっぽど怪我になれてるやつじゃないと無理だと思う。
いや、本当に。
「まあ、もう治ったからいいけどさ。行こうか」
「はっ? 何言ってんの? 骨が砕けたら一ヶ月近くは治らないでしょ?」
「僕の骨は形状記憶金属だ」
「何それめちゃくちゃほしいんだけど」
「あげないよ。僕の体がたこみたいになる」
それでいてまだ生きてるって言うんだから。
まったく、我ながら自分の不死身さかげんに惚れ惚れするね。
「それにしても、やっとって感じだなぁ」
「何が?」
「いや、この街に来て一ヶ月以上経つけどいまだに街の施設何一つ見てなかったなって思ってさ」
「そういえばここに来る前はどこにいたの?あのときの服装もなんか変わってたしね」
「あれは、僕の故郷の服だよ。制服って言って学校ってところに通っている人たちが着る服」
「悪趣味ね」
「そうかな?」
僕はあのデザイン好きなんだけど。
結局あの服あの学校の生徒に誰一人見てもらってないんだけどな。
「でさ。学校に通ってるって言ったじゃん? もしかしてすごいお金持ち?」
「やっぱりこの国だとお金持ちじゃないと学校とかに通えないとかそんなの?」
「シラユキのいたところだと違うの?」
「基本的にはどんな人でもいけるよ。よほどといっていいほど貧乏じゃなければね」
「どれくらい?」
「住む家がなくて路上で暮らしている人ぐらい」
「よほどね……」
「一応僕のいたところでは識字率って言って、どのくらいの人が字を使えるかっていうものがあるんだけどほとんど全員が使えるよ」
「じゃあ、シラユキは字が読めるの?」
「多分、『ここ』だと無理」
「へえ、言葉が違うの?」
「まあね。だから、このせk……国の字は読めないよ」
危ない。もう少しで痛い人判定に引っかかるところだった。
「勉強、しないとなぁ」
面倒くさいがそれだけはやらないとまずいだろう。
「勉強なんて面倒じゃない?」
日本人は勤勉だというが、なるほどそれが分からなくもない。
「分からないことがあったら、なんだかんだ言ってもやらないといけないって思うんだよ」
「そういうもんなの?」
「僕のいた国にはそういう人が多いらしい」
僕は比較的真面目な部類だけど。
そうこう話しているうちに僕とアカネは、僕の掘り返していた地面の場所に着いた。
なぜか掘り返したあとはなく、草もちゃんと生えている。
「不思議だな。草はともかく、掘り返したあとすらないなんて……」
「そうでしょ。一応この辺の景観を損なわないようにするために穴を掘るときには特殊な方法で穴を掘るようにしてるの」
「それが魔法と」
「そういうこと」
「でも、普通掘り返したら草なんかも駄目になって不自然になるよな?」
「さあ、私専門家じゃないもの」
「それもそうか」
「知りたいなら、調べないと。都会のほうに行けば調べられるかな?」
「………そのうちでて行くの?」
アカネは寂しそうな表情で見てくる。
そんな目で見るなよ。反応しづらいだろ?
アカネには『勇者』であることは知らせてないんだから。
「まあ、最終的には戻ってくるつもりだけどね」
「絶対に戻ってきなさいよ」
「それは保障する」
そもそも死神にでも殺されないと死なない体だ。
最終的には魔王そっちのけで戻ってくるのもいいだろう。
あの駄目神様の尻拭いを必要以上にしてやる義理もないしね。
『本当に失礼なやつじゃのう』
「それにしても、シラユキは相変わらず自分のことは話さないわよね」
「教えたくないからね。フタバのところにも話してないんだから」
『おーい、聞こえとるか?おーい!』
「シラユキ? どことなく表情が硬くなってるんだけど大丈夫?」
「大丈夫だよ。くしゃみが出そうで出ないだけだから」
我ながら言い訳が苦しい。
「ふーんそうなんだ」
どうやら通じたご様子だ。
『おい! 聞いとるのか! お主! おい、返事ぐらいしやがれ!』
だんだん駄目神様の口調がキャラから、はみ出始めた。
キャラが崩壊し始めているようだが大丈夫なのだろうか。
「ところでだけどさ―――魔法って一体どんなも――――」
「人の話を聞かんかいボケェー!」
どんっ!
という大きな音とともに、何かが落ちてきた。
何かというのはこの場合愚問であり、神様本人。
僕にとっての駄目神様だ。
「おぬしはさっきから人の話を無視してアカネとか言う女子とイチャイチャイチャしおってからに! 人の話を聞けというのが分からんのか!?」
「イチャイチャなんてしてねえよ」
「うるさいうるさい!」
どことなく、神様が涙声っぽいのは気のせいなのだろうか。
「この人、誰?」
ですよねー。
「この人? さあ」
「わしは人ではない。神じゃ」
さささっ
「そうなんですかー……」
アカネは距離をとった。
「で、何?」
「『何?』じゃなくて、人が話しかけてるんだから話を聞いてよ!?」
「いや、だってお前が僕の感情を拾っただけだろ?」
「そこの女子をわしとの会話どちらが優先なのじゃ!?」
「アカネ>駄目神様」
「>を不等号と読むな! どっちがどっちだか分からんじゃろうが!」
「いや、だって神様とアカネとを比べたら……ねえ」
アカネ優先に決まっている。
「ひどい! 非道いぞこの男!」
「お前、ことごとく人の感情を見てくるし、この間の『あれ』を見られたとなっちゃ神様に対する好感度はどんどん下がっていってるよ」
現在進行形で。今この状況を作り出した神様を呪わずして誰を呪うというのだ。
「さっきから何の話をしているの? なんなの? 分からないんだけど。この人誰?」
「「(一応)神様」」
「私をからかってんの?」
「からかいをこんな真顔で言い切る馬鹿はおらんと思うのじゃが」
「真顔で言い切るからうそ臭さがあるんだって。いっそのこと悪徳商法ふうに臭い笑顔で神だって宣言してみたら?」
「神です」
「だから私をからかってんの?」
やばい。アカネの体から黒い何かが出ている!
「ええとだから、この人は一応本当に神だよ? おい、駄目神でも何か神様っぽいことやれよ」
「そ、そうじゃな。だ、大地に恵みをー」
すると空から明るい光が降り注ぎ、神様を中心とした大地に花が咲き誇る。
一応小屋って見ると神様っぽいが普段の仕事のどじを鑑みるにあまり神様とは思えない。
「わしは一応成り上がったばかりの神なのでな。そこまで仕事になれていないだけであって本当は十分すごい才能があるのじゃ!」
さっきから人の心を読んで拾い上げるのをやめてほしい。
「まあ、それはおいといて、一応神様だよ? 分かってくれた?」
「信用してもいいけど、どうしてシラユキがこの神様と知り合いなの?」
「ええと、それはじゃな。わしがシラユキをてんせ――ガフゥ!」
とっさに、裏拳を神様の顔面に叩き込んで黙らせた。余計なことをしゃべられると、いらだつ。
しかも、この子は僕が転生者であることを話していない。
先日の話でフタバたちには僕が転生者であることは話したが結構な時間を要したので、時間がかかるという意味でも僕の過去に触れられたくないという意味でも話さないようにすることにきめた。
「この神様が仕事をミスしてね。ある意味その尻拭いを僕がやってるんだよ」
あながち間違ったことをいっていない。
神様があの時間違って能力を持たせたりしなければ今の僕は高校生活を謳歌していたのであろうから。
まあ、過ぎたことは仕方がないし、僕もあの状況から能力を持っていないという状況をイメージできない。
「はあ、わしはなんで殴られたのじゃ?」
「(余計なことは言わなくていい。分かったな)」
「(分かったよ。しゃべらんからフードから手を離せ!)」
ちっ、またフードの中を見損ねたか。
だが、見せてもらったぞ。その金髪の前髪を!
「ふーん。そうなんだ」
まあ、興味ないっすよね。
「それよりもその仕事をさっさと終わらせて、街を案内してもらわないと困るから、さっさと終わらせようか。ほら、駄目神様も立って」
へたり込んでいる駄目神様に手を差し出して、持ち上げる、というか立たせる。
「じゃあ、見ててね」
彼女は懐から一枚の紙を取り出した。
それは、白くて何の変哲もない紙かと思ったが、その裏(いや、この場合そちらが表なのだろう)を見てみると、丸い円の中にあまりぎっしりというほどではないが文字らしきものが埋められており、魔方陣といわれればまあ、それっぽい代物が出てきた。
これが、魔法のキーなのだろう。
アカネはそれを、金属の廃材置き場である地面に置く。
そして、魔方陣に両手をかざし、集中しだす。
「静かにしてね」
と前置き、目を閉じ感覚を澄ましている。
すると、彼女と魔方陣の間に見えない経路のようなものがあるのをどことなく感じ取る。
半ば勘だけれども、それでも何かあるのは理解できた。
すると、黒いインクで書かれた魔方陣は茶色に発光しだして、そこに大きな穴。それこそ丁度5メートルほどの深さの穴が開いた。
素直にすごいと思った。
僕もこんなものを作りたいと。
「うちには魔力を持っているのは私だけだからね。いつもこの場所に金属の埋めてるの」
彼女は一仕事終えたような感じでいつもどおりに戻っていた。
今度は金属を穴に埋めたあとに、再び魔方陣に手をかざすと、今度は穴がひとりでに埋まった。
そして紙を見てみると、そのインクは消えてしまっていた。
「ふう、最後にこれっと」
さらにもう一枚懐からだし、先ほどの紙と同じように配置して集中しだす。
すると今度は黒いインクが、緑色に発光しだし、すると、緑の草が生えだした。
なるほど、そういうからくりか。
魔法の仕組みは少ししか分からなかったが魔法の方法というか発動の手順は分かった。
「じゃあ、これで終わり。シラユキ行きましょ――っとと」
アカネはその場所にへたりこんでしまった。
疲れたのか?
僕は彼女に近寄り、その頭を抱え膝枕のようにする。
「魔力切れじゃ。なあに、少し休めばすぐに歩けるようになる」
「そう? まあ、いつも通りだからいいけど」
「いつも通りなのに無理すんなよ。別に強がられてもあとで困るしさ」
「ごめんごめん。じゃあ、少しこのままでいさせて」
「ああ、分かったよ。無理させて悪かった」
「ありがとう」
そして、少しすると彼女から寝息が聞こえ始めた。
起こすのもなんなので、神様と話をしよう。
「なあ、神様」
「ん? なんじゃ?」
「以前、あの雨の日。僕の周りにきな臭い気配があるって言ってたじゃん?」
「ああ、そうじゃが」
「一応確認しておきたいんだけどさ」
「いいとも」
「それって僕に悪意や敵意があるもの?」
「お主にではない。なんというかそうじゃな。この村に害意はある」
「そうか。ありがとう」
「礼には及ばんよ。お主にはそれだけのつもりのことをしたからな」
「気にすんなって言ってるだろ?」
「そうは言われてもな」
「僕は、お前を許すし、お前に何らかの罰を与えようってワケじゃないんだ。お前とは友達とかそんな間柄でいたい」
「友達、……か」
友達という言葉を反芻するように神様は唱え続ける。
「ありがとう。やっぱり落ち着いたようじゃ。そろそろ帰る」
「ああ、また話し相手になってくださいよ。神様」
「はは、頑張れよ勇者様」
そう言って神様は光とともに上っていった。
一応アカネはまだ寝ているので立たずにその空に手を伸ばした。
僕の勇者の称号は本当にこれでいいのかとか何とか言っていたけれど。
それでも、今のほうが大事だという気持ちがあった。
次回は土曜日です。