表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なりゆき勇者の異世界転生  作者: 蜜蜂
なりゆき勇者は目覚める
2/75

第一話 異世界……いせ………かい?

 目を覚ますと、そこには緑豊かな草原が広がっていた。

 おお! 何か異世界っぽい。


 辺りを見回してみると、異世界らしくとてもファンタジーな世界だ。

 空には大きな鳥類。

 陸地では馬や羊。

 そして、それを囲う柵や、それを守る狼たち。


 そしてそこまで見て思った。

 …………あれっ?

 ここってもしかして。

 いや、もしかしなくても……牧場?


 メエェェェェェェ…………

 ヒヒィィィィィィン…………


 ああ、頭が痛い……

 あの駄目神。やっぱりシバいとくべきだったか。

 そう思って頭を抑えていると……


「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 羊泥棒!」


 幼い少女の声が聞こえる。

 おいおい。もう面倒くさい。どうにでもなれ。

 異世界にきて早くも自暴自棄になる僕だった。


「いや、違う。僕は羊泥棒じゃない!」


 危ない危ない。さすがに犯罪者の汚名は被りたくない。


「じゃあ、何でうちの牧場にいるのさ?」


 確かに。まったくもって正論ですよ、お嬢さん。


「道に迷った」


 うん。嘘は言っていない。

 そもそも動いてすらいない。


「じゃあ、なんでそんな怪しい格好してるの?」


 そういえば忘れていたな。これは、僕が通うはずだった学校の制服。学ランじゃないか! なんでだよ。なんでなんだよ!


「これは怪しい服じゃないよ。これは僕の国の正式な服だ」

「ええー? 嘘だ! 黒い服を着る人は悪い人か魔族の人だけだってお父さんが言ってたもん!」


 ん? 今とんでもない単語が聞こえたような………。


「今、『魔族』って言った?」

「お兄さん。魔族なの?」


 少女が逃げ出しそうな感じで聞いてくる。


「違うわい。僕は立派な人間。この格好はうちの国の服。他に何か?」

「おとーさーん! 羊泥棒がいるー!」

「違うと言うとるに! 僕は立派に生きてきたんだ! 化け物とか言われてもふてくされずに生きてきたんだぞ!」

「やっぱり魔族がいるー! 助けてー! 殺されるー!」


 しまった。墓穴を掘った。


「違いまーす! 道に迷ったんです! 助けてくださーい!」

「この人嘘ついてるー!」

「ついてませーん! 誤解でーす!」


 一体何の大会なのだろう? 大声を出す大会?


『うおぉぉぉぉぉ! うちの娘を襲う輩はどこじゃあぁぁぁぁ!』


 やっぱリ誤解されてる!

 遠くから走ってくるこの幼女のお父さんは斧を持って迫ってくる。

 体はがっしりとした肉付きだと遠くから見ても分かる。きこりか何かをやっているのだろうか。

 そしてこの状況でも落ち着いてはいないが分析している自分の神経も中々おかしいと自分でも思う。


「ひえぇぇぇ!!」

「おとーさーん! こいつー!」


 逃げたいけど! 逃げたいのだけど! あえて逃げない!

 逃げたら余計誤解されるに決まっている。ここは人間同士話し合わなければ! 同じ人類、話し合えば分からないわけはない!


「この野郎がぁ!」


 戦士顔負けの気迫を身にまとい斧を振り上げ僕の頭をかち割らんとする大男。

 その、振りかぶられた斧を横によける。

 ボォン!

 と空気が爆ぜるかのような音とともに一瞬前まで自分がいたところを見ると、斧が深々と地面に立っていた。

 うおぉ。怖えぇ。


「お前か! うちの娘を攫おうとする輩は!」


 大男によって胸倉をつかまれる。


「ち、ちが、誤解です。誤解ですって!」

「問答無用!」


 幼女のお父さんは左手で僕をつかみ上げ、右手で拳を作るというとんでもないことをしだした。

 この人の身体能力は……高い。

 ああ、さようなら異世界。そして恨むぞ駄目神。


 そして、拳が思いっきり射出体勢に入ったところで仲裁が入った。


「お父さん! やめて!」


 そして、僕が見たのは……きれいな見た目麗しい美少女だった。

 異世界万歳!きれいな黒髪を伸ばし、服は薄茶色のワンピースで包まれている。

 きれい。可愛い大好き。異世界転生ありがとう!


「し、しかし!」

「この人は誤解だと言っているでしょう? もし事に及んだあとに違ったらどうするんですか? え?」


 この少女の口撃は意外と容赦ない。


「しかし、ミハルはこいつが誘拐しようとしたと言っておるし」

「ミハル」


 黒髪の少女の口から放たれたその声はとても冷徹なものだった。ミハルと呼ばれたその少女はビクン! と肩を震わせて、油の切れたロボットのようにゆっくりと少女のほうを見る。


「この人が、あなたを誘拐しようとしたのは本気ですか?」

「…………」

「どうなんですか?」


 なんだろう。とても怖い。僕も彼女の相手をしたくない。


 フルフルと、ミハルは頭を横に振った。

「そうですか。で? お父さん。誰が何でしたっけ?」

「……はい、何でもありません」


 お父さんまさかの敗北ー!


「ごめんなさい。うちの父が誤解をしてしまったようで」

「い、いえ、分かってもらえればいいです」


 怖かった。お父さんも怖かったけどこの少女も怖い。


「ええと、お名前はなんですか?」

「あ、すいません。僕は……」


 どうしよう?

 おそらくそこの幼女の名前がミハルという名前なところを考えてみると日本名に近いものなのか。でも、僕の名前も変わってるしな……よし。素直に名乗ろう。


「シラユキです」

「シラ……ユキ?」

「変わった名前ですね!」


 よかったー!思いのほか通じるご様子だ。


「はははー! よく言われます!」

「私の名前は、フタバと申します。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


 一応、これでいいの………かな?

 とりあえず、命は助かった。

 だが、これでは終わらない。


 一応このあと彼女たちの家に招かれた。

 初対面の人を家に上げるなんて大丈夫なのだろうか。

 最初に驚いたのは靴は玄関でちゃんと脱ぐらしい。

 玄関で靴を脱ぐというのは日本以外であまり見られない文化だと思うのだが、どうやらここの文化は玄関で靴を脱ぐらしい。

 名前といい、文化といい、日本と結構似てるな。


「ただいまー! すまんがイチヤさん! お客さんにお茶漬けを用意してくれ」


 本当に異世界なのだろうかこの世界は。


「お父さん」

「わ、悪かったよ」


 この世界に対していろいろ不安を持たずにはいられない僕だった。

「で?どうしてうちの牧場にいたんだい?」


 口調は優しいが目は怒っている。笑ってない。娘に手が出されそうなのが本当にいやなのか。過保護というか親ばかというか。……うらやましい。


「道に迷って……気がついたらあそこにいたんです」

「だけど柵があっただろう?」


 でもなぁ、ここで神様の名前を出したって信じてもらえそうにないし……。出したところで痛い人扱いは確実だろうし……。

 詰んだか?


「父さん。森のほうから来たのでは? あそこは柵がないですし、生き物が迷い込むなんてよくあることじゃないですか」

「ああ、なんか森を通ったような通ってないような……あぁっ!?」


 突如天地がひっくり返り、床に体が押し付けられ関節をきめられた。え?何?どういうこと?


「ちょっ!? 一体なんなんですか?」

「基本的に森からやってくるのは『魔族』だけなのだよ。少年」

「えっ? 誘導尋問だったの? なら僕は無罪だ離せ!」

「君から『森からやってきた』という言質をとった以上そう簡単には離せないね」

「第一僕は、ここらのこと何も知らないんだよ! そんな誘導尋問に引っかかったのがいい証拠だろ? 普通魔族だろうがなんだろうがそんな『自らの立場が悪くなるようなことはしない』だろうが! 離せよ! 離してくれよ!」


 もがくが一向に離れる気配がない。

 体の力を入れるところを抑えられたか。力がはいらない。


『おーい! 白水! 聞こえるか?』

「駄目神さん!」

『駄目神言うな! それにしてもお主ピンチなようじゃの?』

「おどれのせいじゃ、ボケエ!」

「ど、どこだ!? どこから声がする?」

「それよりも駄目神さん助けて! というかあなたのせいでこうなったんだから助けるのは当然の摂理!」

『そうじゃの……しょうがない! お主この状態のまま聞いてもらう』

「おい話聴いてたのかこの阿呆神」

『お主の罵倒は心に直接来るからやめてもらえんかの?』

「なら、名誉挽回しろよ!」

『御尤もです。まず、お主にはいくつかの能力を与えた。それは何か分かるかな?』

「一つは不死の能力しかわからねえよ」

『他にもいくつか能力があるんじゃよ。そのうちのひとつは……なんと簡易テレポートじゃ! 戦闘にも使えるしの! しかも熟練度を上げればテレポートも使えるようになるという優れものじゃ!』

「おお! それは素晴らしい!」

「一体どこにいる!? 姿を見せろ!」

「お父さん!気をつけて!」

「それよりもお前が姿を現してちゃんと身分を説明しろよ。神なんだろ?」

『しょうがないのう』


 一瞬の間をおいたあと、上のほうが光り輝いた。

 すると、人の形をした何かが舞い降りてきた。後光が差して人の顔がよく見えない。

 声から察するに女だと思う。


「お、お前は誰だ!?」

「わしは神なり。汝の取り押さえておるそのものを離せ」

「こいつは魔族ですぞ!ここで取り押さえねば大変なことに……!」

「大丈夫じゃ。そやつは悪さをせんよ。なんたってそやつはわしの『子』なんじゃからな」

「「「「えっ?えええっ!?」」」」


 この場にいた、僕と、フタバさんとイチヤさんとお父さんはみんなそろって驚いた。

 ミハルはこのときすでに牧場のほうに戻っているのでこのことを知らないはずだ。


「ちょっ! いうに事欠いてお前の子だぁ!? なんてことを言いやがる!」

「いいじゃん。助けてやろうっていうんだからさ。第一わしがこの世界に連れてきたんだから、わしの子で間違いなかろうよ?」

「ぐっ……」


 言葉につまり、とっさに言い返せない。


「こいつは、いや、この者は本当に神様の子なので?」

「そうじゃよ。なんなら神の子の証明である、血をすすればよい」

「ぬう。どれどれ」


 腰のベルトから、ナイフを取り出す。


「えっ!? やめてやめて! ああ、小指でもやめ―――いたぁ!?」


 刺された。小指を刺された。痛いよ。


 そして、お父さんはナイフについた血をなめる。

 すると………

 ばあん!

 服が弾け飛んだ。

 その下から見られる。筋骨隆々の肢体。

 股間あたりの布は唯一守られているが、それでも、ほとんど隠し切れていない。

 そして心なしか筋肉が増量されているように見える。


「ふぉおぉぉぉぉぉおおお!!!」


 お父さんは発狂? 狂喜乱舞? していた。

 何この人怖い。


「すごいじゃろう?これが神の子の力じゃ」


 恐ろしい能力だ。


「これは神の子に自動的に与えられる(ブラッディヴァンパイア)じゃ」

「今その名前適当につけただろ?」

「な、何を言う!」

「神の子が神の敵のモンスターの名前なんか付けてるんじゃないよ」

「だが、この血はすごい。すごいぞ! 見ろこの上腕二等筋」


 ムキッという擬音が似合いそうな筋肉が盛り上がりを見せる。

 正直、漫画やアニメの中でお腹いっぱいだ。


「で、これで僕が怪しいものじゃないと信じていただけましたか?」

「ああ! そこに居られる神様が君はわが子だといっているんだ! 疑う余地も何もない!」


 全身を使ってボディビルダーのポージングをきめるお父さん。

 あそこまでは筋肉ほしくないな。


「まあ、これでとりあえずは一件落着ってことでいい?」


 なんか疲れた。


「これで終わりということで。そうだ! 神様。うちでご飯を食べていきませんか?」

「ん? 食べる食べる」


 神の威厳もへったくれもないな。

 もう、こいつの相手するのいやだ。

「うむ! 美味美味!」

「そうですか。うちは裕福とはいえませんがそれでもおいしいといっていただけるのはうれしゅうございます」


 この神様さっさと帰らないだろうか。


「で、駄目が………神様」

「今、『駄目神』って言おうとしただろ?」

「気のせい。で? 神様には仕事はないの?」

「いや、ないことはないよ。具体的には次の世界の案内人とかやっておるんじゃが………部下に任せてきた」

「とんでもねえ職権濫用だなぁ!おい!」

「なあに、普段秘書しかせずに暇を見つけては遊び、暇を見つけては遊びとぐーたらなやつじゃ。いいお灸じゃよ」

「いや、そんなやつに仕事を任せるなよ………」

「大丈夫じゃ。わしが戻ってきたときに仕事をしたそぶりがなければ………」


 駄目神様は口を閉ざし、伸ばした人差し指を首の前でスライドする。

 あっ、首ってことですね。


「意外と容赦ない……」


 まあ、普段そいつがサボっているのであればそいつが悪い。


「まあ、いいか。、神様。神ともあろうお方が下界の方の一般食をいただいてるわけだ。何かお返しをするのが神のお仕事じゃあ、ありませんかね?」

「うむ、そうじゃな。お主ら何がほしい?」

「そうですなぁ、裕福ではないといってもお金には困っておりませんしな」

「なら、魔族のことが気になりますね。どうにかなりませんか?」

「ん? なるよ」

「本当ですか!? お父さんこれで羊が襲われることがなくなりますよ!」

「おお! それはいい提案だ。正直そういったことはしょうがないとあきらめていたものでな。失念だ。神様どうにかなりませんか?」

「どうにかならないこともないが……わしが直接どうこうというのはさすがに天界の規則に違反するのでな。じゃあ、頼んだ」


 駄目神様は僕の肩に手を置いた。

 はっ?


「こ、これは……そういうことで?」

「お前、勇者やれ」

「ホワット?」

「お・ま・え・ゆ・う・しゃ・や・れ」

「はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」


 こ、この神。よりによって僕に全部擦り付けやがったぞ!

 この人でなし! 人じゃないけど。薄情者!


「まあ、いいじゃん? チート持ってるし。この世界の魔物ぐらい倒せるって」

「ちょ! そんな軽い乗りでやるなって何回言えば……!」


 クイクイと指がこっちに来いと訴える。


「(お主。これはチャンスじゃぞ? ここで勇者になればお主は英雄。どんな能力を持っていようが化け物扱いされることもなかろうよ)」


 と耳打ちしてきた。

 神様。あんたって言うやつは人の弱いところをついてきやがって。


「(この際じゃ。おぬしに与えた能力についてあとでルーズリーフにまとめて渡そう)」

「…………ちっ、分かったよ。やりゃあいいんだろ? 勇者。やってやるよ。面倒くさいけど。超面倒くさいけど! やってやるよ。感謝しろよ駄目神」

「なんでわし!?」

「そりゃあ、お前。あの『事故』のときに僕に誤って能力を渡さなければこんなことにならなかったからだよ」

「ああ、勇者よ。頑張りたまえ。ばいびー」

「ああ!? ちょ! 待て!」


 くそう。あの駄目神は少し油断したらすぐに消えやがる。


「はあ、なんか分からんけれど勇者やることになっちゃったよ………」


 僕が呆れ顔で、みんなの顔を見ると……みんなが尊敬のまなざしで僕を見ていた。

 ………まあ、悪くはないか。


次回は月曜日。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ