第十二話 剣の修行2
ええと、次の日の剣の修行が終わったあと、貴族であるダーテ様から直々お呼びがかかった。
怖い!
何が起こるかわからないから怖い!
何されるの!?
いきなり後ろから「YOU KILL」とか言いながらあの兵士さんがさしてきたりしないよね!?
とかいうのは杞憂で実は、この街の特産についての話だった。
話が分からない人は、第十話を参照してほしい。
さっきタイミングよくダーテ様に呼ばれたから兵士さんから刀の感想やソードブレイカーの感想ももらえなかった。
あとでもらおう。
僕の知る限りの日本刀制作方法を叩き込んで鍛えたこの刀に切れないものは、そこそこありそうだ。
で、ダーテ様の部屋に直接呼び出された。
「君に以前話してもらった養蜂というものだが」
「ああ、あの件ですね。考えてもらえましたか?」
「ああ、あれはいい。ぜひともやらせていただこう」
「ありがとうございます!」
「それにしても蜂を何のために育てているのか気になっていたが蜂が集める蜜をとっていたとはな」
「はい、蜂蜜には栄養もありますので」
ローヤルゼリーを肌に塗れば肌がよくなることも知っている。
「その件はぜひともやらせていただきたい。あの養蜂業のものたちにも報酬を払いつつ、この技術をこの辺の特産にしたいと思っている」
蜂蜜を特産に、か
「なら、いろいろできるかもしれませんよ。蜂蜜ならたくさんの料理に応用できます。お菓子だって作れますし、そのレシピについては僕がいくつか用意させていただきます」
「君は本当に何でもできるな」
「何でもはできませんよ。でも、できることが多いと楽しいですね」
実際僕はそうやっていろいろな知識を付けてきたからな。
人間好奇心があるとそれが大変でも苦しくてもやめたいと思うことはな い。
「で、そこで、君にもう一つお願いがあるんだが……」
「なんですか?」
「君にうちのソティアとけっこ―――」
するとと扉が開き、
「「断る!」」
「ソティア。そんなはしたない言葉遣いはやめなさいといっているだろう?」
「いえいえいえ!少し待ってくださいダーテ様。僕今断るといいましたよ!?娘さんの言葉遣いも大切ですけれどね?」
「で、式はいつ挙げるかな」
「ですから、僕は今断ると」
「コトワール?」
「なんかのどこかの国っぽい!」
「なんで断るのかね?一応美人だとは思うのだが……」
「僕は、一応この町を出るつもりなので結婚とか恋愛ごとは用事が終わってからにします」
「堅いな」
「節操なしよりは比較的よいかと」
節操なしでもちゃんと全員愛してやれるならそれもいいと思うが……。この世界は重婚を認めるのだろうか。
「君みたいな人材はほしいのだがね」
「それでもお断りさせていただきます。僕はそういうのには興味ありませんから」
嘘です。興味心身です。
「うむぅ、残念だ」
「では、これで失礼します」
「ああ。………はあ」
最後のほうに聞こえてきたため息はあえて聞こえないようにした。
本当に残念そうだったな。
でも、僕にソティアのカップリングは正直に言うと似合わない。
えっと、彼女は金髪でとってもきれいなのだが、以前も言ったようにアカネに似てボーイッシュだ。
いや、アカネ以上にボーイッシュといえよう。
あれの相手をさせられるとか僕の心臓がいくつあっても足りそうに無い。
まあ、今回のことであきらめてくれただろう。
てか、あきらめてくれないと困る。許婚とかそういった類でもいやだ。
今の時刻は夕方。
そろそろ帰らないとまずいだろう。
さて、今日の夕食は何かな〜?
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「今日の夕食は、トマトスープです」
「ごめん、今日は食欲ないから何も食べなくていいぃ!?」
フタバは目の前にフォークを突きつけてくる。
その切っ先は鋭利になっており、僕の目玉なんか簡単に、それこそトマトのようにプチャってなりそうだ。
正直恐ろしいことこの上ない。
逆の手にスプーンを持っているとかもっと怖い。しかも先割れスプーン 。
「ははは、何するんですかフタバさん」
「何って、脅迫ですよ。シラユキさん」
「今脅迫って言い切ったぁ!」
脅迫とか反則過ぎるでしょ。
「もう、一ヶ月以上一緒に暮らしてるんですよ?シラユキの嫌いなものくらい把握していないはずがないじゃないですか〜」
「どうしてこう、この世界の人は勢いで突っ走るんだ!」
この世界の人はもう少し思慮深さというかなんというか、考えてもいい気がするんだ。
「どうせ再生するんですからいいじゃないですか」
「そのせりふに何よりも驚いたわ!」
くそっ、ただトマトが嫌いなだけなのに……。
「トマトおいしいじゃないですか。甘酸っぱくて」
「僕はあのゼリー状のところが嫌いなんだよ。グジュグジュしてて気持ち悪い。あれの味も嫌いだ」
「じゃあ、トマト料理は食べられないじゃないですか」
「いや、僕はトマトのあのゼリー状のところさえなければ食べられるよ」
「たとえば?」
「たとえば、トマトソースをかけたスパゲッティとか。他には……マルゲリータとか」
「スパゲッティ?マルゲリータ?失礼ですがどういったもので?」
「えっ?こっちの世界にはないの?」
「いえ、多分名前の違いだと思います」
「そういえばパスタっぽい料理も出てきたな」
「どういったものなんですか?」
「トマトのジャムみたいなもの。調味料は塩だけで作ったトマトソースにパスタっていう麺類の生地を合わせるんだ。あれだと甘酸っぱさも好きだ けどね」
だが、今回のトマトソースは別だ。
トマトをそのままペーストしてスープに混ぜるなんて苦行過ぎる。
「マルゲリータとは?」
「まあ、さっきのトマトソースを円形に伸ばした生地に塗って焼き上げるんだ」
「へえ、そんな料理があったんですね」
「一応その二つの料理は発祥が同じ国だからね」
「今度作り方を教えてくれませんか?」
「もちろん」
「じゃあ、早速明日にでも!」
「ああ!……っえ?」
明日って確か………『アカネに魔方陣の写しをもらう日だったような……』。
まあいいか。用事ぐらい誰だってあるし、さっさと終わらせて戻ってくればどうってことはないさ。
「問題ないよ。明日にでも教える」
僕の知識は異世界では結構珍しいようだ。
「そういえば、科学というものの話は聞きましたけど、料理の話は聞いたことがありませんね。是非聞かせてもらいたいのですけれど」
「そうか、じゃあ、ご飯を食べ終わったら僕の部屋においで。話してあげよう」
「そうですね。では、一緒にご飯を食べましょう」
ちぃっ、結局ごまかせなかったか。
最近、僕の内心の舌打ちのレパートリーが増えてきた気がする。
僕はとりあえずトマトスープを味わう。
ちなみに調理方法は、細切れにしたトマトをだしをとった、なべの中に入れてぐつぐつ煮込む。
そして最後にざるでトマトの実だけを取り出せば完成だ。
正直に言おう。
もう少しまともな調理方法ない?
とりあえず、それらを全部食べきったあとに料理の話を続ける。
「シラユキの世界の料理、気になりますね」
「いや、そんなこと言われても僕はあまり詳しくはないから。シチューは知ってる?」
「シチュー?なんですか?」
「野菜の煮込みものなんだけど、水を入れて煮込んだ後、小麦粉から作ったルーを混ぜれば出来上がりだよ」
「あっ!それなら似たようなのありますよ!」
「まじでっ!喰いたい!是非喰いたい!明日にでも用意できませんか?」
「分かりました!作りましょう!」
ちなみに今回の場合だとクリームシチューが作り易そうなので一生懸命 作り方を思い出していた。
親戚のうちでたらしまわしにされたときは僕がみんなのご飯を作ってたからな。
たまに僕だけはぶられたときに自分で材料を買いに行って一人飯もした 。
実に寂しい青春だった。
わが十五年間。半分近く親戚に虐げられて生きてきた僕の姿がこれだ。
ちなみに材料のほうは、僕と一緒に買いに行くことになっている。
僕のほうは午前中はダーテ様のところに剣の修行。お昼ごろにアカネの家に魔方陣の模写を取りに行く。夕食の準備にフタバとミハルと一緒に夕食の材料を買うという流れで頭の中で組み立てられた。
これで多分明日一日は大丈夫だろう。
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「はぁっ!」
「そうだ。なあ、ここ数日でありえないくらい力がついてないか?」
そういわれてみて自分の腕を見る。
確かに、心なしか太く引き締まった印象を受けなくもない。
おそらく、筋肉がつくメカニズムの構造上、再生能力がうまく筋力トレーニングの効果を出しているのかもしれない。
「まあ、僕はいろいろ事情がありますんで心当たりはあるんですけど…… 」
むしろ心当たりしかない。
「まあ、それだけ筋肉がつきやすいんだ。なら、大丈夫だな」
「ありがとうございます」
「そういえば、昨日はダーテ様と話していたからできなかったんだが、お前の持ってる剣を見せてもらってもいいか?」
「えっ?まあいいですけど」
「ちょっと貸してくれ」
「はい」
僕は、鞘に刀を収めて兵士さんに刀を渡す。
それを受け取ると、兵士さんは鞘から刀を抜き、刃やら鍔やらいろいろなところを眺める。
その表情は真剣そのもので熟練の剣士を彷彿とさせる。
「初めて見るな。なんと言う剣なんだ?」
「刀といいます。銘は『七変化』」
「七変化………意味は?」
「とりあえず、特にはないですよ。僕の好きなネーミングで付けましたから」
七変化って言う響きが格好よかったからです。
「なんか独特だな」
「僕の生まれた国特有のものですから」
天叢雲剣とか八岐大蛇とか。
日本の固有名詞ってなんかこう、外国にはない良さがある。
「ふーんそうか。まあ、見た目はあれだが、魔剣の類だな」
この人は僕の剣を一発で魔剣だと見抜いた。
実は大分すごい人なんじゃないだろうか?
「ええと、そういえば今までずっと名前を聞いてませんでしたね?教えてもらってもいいですか?」
「ん?俺か?俺はユーシャっていうんだ」
えっ、勇者って言った?いや、ユーシャって名前か。びっくりした。
「変わった名前ですね」
「ああそうだな。まったく迷惑な名前をつけてくれたもんだぜ」
「まあ、そんなことを言わないで上げてくださいよ。ユーシャさん」
「てめえ、そこに座れ。一息にぶっ殺してやる」「や、やめろぉ!ぼ、僕をどうするつもりだぁ!」「てめえをばらして臓器を売りさばく!」「う、うわぁ、僕の臓器は全部灰色だぞ!」「だまれい!」
という、謎の問答を2、3分続けた。
「そういえば、お前の剣の腕は始めたばかりにしてはすさまじいほどの上がりっぷりだが、運動でもしてたのか?」
「いえ。特には何もしてませんよ?」
チートで遊んでいただけで。
遊び切れてもない気がするけど。
「そうか、まあいいや。お前の剣の振り方を見てるとよ。振り方は人を殺す振り方なのに、それに殺意が篭もってねえ。それだったら素振りだからしょうがないかって思うんだが、それ以上になんと言うか、敵がなんなのかわかってねえというか、言い方としては『殺したくない』みたいな感じなんだよ」
「つまり?」
「剣の敵を見つけていない。以上」
「分かりやすいですね〜」
とはいえ、ふざけてられないというのは本当だ。僕は生き物を殺すことをためらっている。
正直に言えば、これほど矛盾を抱えている人間はそうはいない。殺したくても殺せない。殺すイメージもわかない。
最初のころにミハルを助けるためのグロこそたまたまだが、僕の振る剣には明確な敵が存在しない。
魔族だのなんだのを敵としては『勇者』という名目上、抱えてはいるが思ったとおりにならないのだ。
生き物を殺したくないというのは強者の傲慢か。
強者かはどうかはさておき、やはり傲慢なのだろう。
これはウサギの形をした饅頭を食べたくないというのと同じ(例えが悪い)、僕のわがままだ。道徳と倫理に邪魔されて行動できないというのがやはり本音だ。
僕はどうすればいいのだろう。
「まあ、とりあえずお前の型を作っていこう。そのうちお前なりの剣が見つかるさ」
「ええ、ありがとうございます」
とりあえず今は考えること放棄した。
「まあ、お前は剣を使って受け流す型はある。防御系だな」
「って本当にあなた何者なんですか?」
「左遷された兵士さ」
「その腕で左遷って一体どれだけのことをしたんだよ」
「サーセン」
「謝る気ないだろ」
「実際、俺は何もしてないからな。表向きはそういう名目だ」
「そんなことも言ってましたっけ?」
「そういえば言ったな」
場にわずかな静寂が訪れる。
風が僕らの間を通り過ぎたときに……。
「じゃあ、打ち合うぞ。思いっきりかかって来い」
「はい、分かりました」
僕は、右手で七変化、左手でソードブレイカーの髪鋤を構える。
体感時間が引き延ばされる。
ほんのわずか、瞬きをするその瞬間さえもいつもより長く感じる。
まずは剣をビビらないようにすること。
ユーシャさんの剣を受け流しつつ、瞬きをしないように訓練をする。目をそむけないように訓練をする。
見て、軌道を予測し、そこから体の軸をずらす。ユーシャさんが放った上段から斬りを何とかよける。
そのまま、バックステップで距離をとりつつもその姿から目を離さない 。
するとユーシャさんは突きを放ってきた。
それを、七変化をとっさに逆手に持ち替えて剣で受けつつ受け流す。
そしてその勢いに乗せて、切り込む。
それをすんでのところでとめる。
というか、止められた。
がっしりと、ユーシャさんの左手は僕の右手をつかんでいる。
硬くとても振りほどけそうにはない。
「参りました」
「いや、お前の勝ちだ。今のは柄にもなく本気を出しちゃったからな。止められたのは当然だ」
「もう少しだったと思うんですけどねえ」
「俺の本気が見られたってことはここ数日ですごい成長したってことだ。十分さ」
「ちなみにここにいる兵士たちのレベルはどれくらいですか?」
「一番弱いやつで、本気を出して多少打ち合う程度。一番強いやつはそこそこ本気を出すレベルだな」
僕はその人たちにも敵わないのか……。
「いや、あくまで俺の独断と偏見だし、剣の型の相性もある。一概に全員強いわけでも弱いわけでもないさ。多分、この兵士の中の一人ぐらいはまぐれで倒せるだろうぜ」
「まぐれじゃないと倒せないのか」
僕ももっと精進せねば。
「まあ、今日はこれでおしまいだ。明日も頑張れよ」
「はい」
そして、今日の修行はこれで終わった。
しばらくどたばたしそうです。




