へん人No.2&6&7 栖桐&芭逸&八条寺 その5
大変お待たせいたしました……。
続きは直ぐにでもうpします。よろしければお付き合いくださいませ……。
閉じこめられ危うく大事なナニかを失いそうになった小屋から出ると、そこは俺が気を失う前にいた墓場のすぐ近くだった。
というか、小屋自体が墓場に隣接していた。
「アイツ、どんだけ罰当たりなんだよ……」
少し離れた所でのびていた男の連れらしき男をまたぎ、ポツリと呟く。
白昼堂々とこんな場所で、しかも――いくらこんな格好をしているとは言え――男の俺に……。
よくあるホラー映画では、こういう場所でそういうことに勤しんでいる登場人物達がどうなるか、というのを知らないのだろうか? ……いや、そもそも俺はイチャイチャしているつもりなんてないし、したくもなかったけど。
助け出してくれた八条寺はそれから一言も喋らない。黙ったまま歩き続けるので、俺も後ろを黙って歩く。
墓から脱すると、数分もしない内に賑やかな喧騒が聞こえてきた。
あの悪夢のような時間――体感時間で十分くらい?――を経験した後とあっては、この騒がしさがとても心地よく思えた。
「……八条寺さ、その、さっきはありがとな」
「……気にするなよ」
言って、八条寺は近くの壁にもたれ掛かった。
ゴスロリ服という正反対の衣装に身を包んでいるにも関わらず、その姿はどこか渋くて、どこか哀愁が漂っていて、チャイナ服に着られているとは言え、男の俺よりも断然かっこいい……。
もし、俺が女で八条寺が男だったら惚れてたかも。
「おーい」
「せんぱーい」
なんて事を考えながら、八条寺に見蕩れてしまいそうになっていると、聞き慣れた声と共に二つの陰が見えた。
「もー、こんな所にいたんですか? 突然いなくなっちゃうんですから! 探したんですよ! それなりに!」
「そうだよ彰君……! 私も探したんだよ? それなりに……」
「なんで二人ともちゃんと探してくれないんだよ!?」
手を振りながら歩いてきた華菜乃と女々ちゃんはそんな俺の嘆きを聞いて、あははと笑った。いや、笑い事じゃなかったっての。
「――あ、迷惑かけてごめんな。ちょっとその……色々あって」
「……色々って?」
「い、いやそのまぁ……色々は色々だよ、うん。色々」
大事な事だから三回言っておいた。
いくら華菜乃達が相手だからって、流石に『男相手にセクハラされてました〜!』――だなんて……とてもじゃないけれど言えない。
女々ちゃんは俺の顔を見て眉を寄せたが、次の瞬間にはケロッと笑顔を作り俺の手を掴んだ。
「さ、それじゃあ行きましょうか! 部品が女々花達を待ってます!」
「気持ちは解るけど、女々ちゃん。そんなに急がなくても部品は逃げないんじゃないかな?」
「もー、何言ってるんですか先輩! 思い立ったが即行動って言葉を知らないんですか?」
「それを言うなら“吉日”だろ。――あ、そういや二人ともスマホはどうしたんだよ?」
「……スマホ?」
「どうした、って何がです?」
二人が同時に首を傾げ、俺の顔を見る。どうやら、俺が何を言いたいのか解っていないみたいだ。
「いや“何がです?”って、女々ちゃん。……こんな事言うのは、構ってちゃんみたいで嫌だしおかしいけどさ……。俺を探しててくれたんなら、連絡の一つくらい入れてくれてもよかったんじゃないか……? 心細かったんだぞ……?」
言ってしまってから思うのもアレだけれど、我ながら自分の事が女々しく思えてきた……。でも、心細かったのは事実なわけだし、これくらいは言ってもいいよな?
「……ごめんね、私……今日スマホは持ってきてないんだ」
「そ、そっか……」
忘れたのならしょうがない、か……。
「んじゃあ、女々ちゃんは?」
「はい、電源オフってました!」
「うぉい!」
……すっげぇ笑顔で言われた。
「えー、だって通信料かかるじゃないですかー? 定額に入ってるとは言え、使いすぎちゃうと通信を制限されちゃうんですよ? 制限されると、インターネットとか見るときに、読み込みが遅くなるんですよ? そりゃ“どうしても必要!”って時以外は電源オフるでしょう?」
言って、女々ちゃんは至極当然とでも言いたげに首を傾げる。
「いやいやいや! 知り合いが、女々ちゃんと仲良しな先輩さんが、お出かけ中に迷子になったんだぜ!? こういう時だろ! “どうしても必要!”ってタイミングは! 今だろ! 寸分違わず今だろ!」
「えぇー、でもその優先順位を決めるのって女々花ですよ?」
「いや、そうだけどさ……」
せめて掛け直すくらいはして欲しかった。
「先輩もしかして今『掛け直すくらいはして欲しい』とか思ってません? うわぁ女々しっ! 先輩女々しすぎますよっ!」
「んなっ!? 先輩に向かって女々しいとはなんだ女々しいとは!」
「きゃー、茹美先輩助けて下さいー!」
軽く小突こうとして腕を振り上げたら、女々ちゃんは小動物のように機敏な動きで、壁に寄りかかっていた八条寺の背中に隠れた。
くそぅ。助けてくれたうえ、腕っ節が強い八条寺の背に隠れられちゃあ手出しが出来ない……。
というか、女々ちゃんの中では俺の存在って高くないのか……。最近よく遊ぶし、普通の人よか好感度は高いんじゃないかと思ってたんだけど……。自惚れてたなぁ。
「……二人とも、その辺にしておかないと間に合わないよ? 部品……買いにいくんでしょう?」
八条寺という城壁に隠れ、顔を半分覗かせる女々ちゃんに向かって、ギリギリと歯軋りをしながら逗留していると、苦笑いを浮かべながら華菜乃が、文字通り俺達の間に割って入ってきた。
そうだ。すっかり忘れていたけれど今日俺達は、女々ちゃんお手製の壊れてしまった機械を直すのに必要な部品を買うため、わざわざこんな恥ずかしい格好をしてまで出歩いているんじゃないか。
夜からとは言えこの後は千羽との約束もあるわけだし、用事――って言っちゃあ悪いかもしれないけど、こういうのは早く済ませるべきだよな。
「……だな。納得はいかないけど、確かにここで時間潰してる場合じゃあないしな。納得はいかないけど、さっさと行こうぜ。納得はいかないけど」
「どんだけ納得してないんですか、先輩は……」
「それじゃあ……行こう、みんな」
先に歩き出した華菜乃達を後目に、黙ったまま壁に寄りかかっていた八条寺に話しかける。
「…………」
「……八条寺?」
繰り返し名前を呼んでみると、八条寺はちらりと俺の顔を一瞥し、華菜乃達の元へと歩きだした。
沈黙……というより、これは――無視。ん? 俺何かしたっけ?
「……なぁ、俺何かしたか? 無視される覚えがないんだけど?」
慌てて追いかけ、八条寺の前に回り込む。
華菜乃達が合流する前まで、饒舌とまではいかなかったけれど……ちゃんと話せていたよな?
「…………」
八条寺は、立ちふさがった俺を退けようとも避けようともせず、じっと立ったまま何か言いたそうな瞳で俺の瞳を見つめてくる。
“目は口ほどに物を言う”という言葉があるように、その目はまるで「いい加減気づけ」とでも言いたそうだった。
気づけ……? いったい何にだろう。おかしい所あったっけ?
考えてみるけれど、直前のドタバタがあったからか俺の頭はまともに働いてくれない。
いや、もう少しの所まで来てはいるんだ。来てはいるんだけど――――
「せんぱーい? 何してるんですか行きますよー!」
「うわっ!? ちょ、ちょっと女々ちゃん!?」
いつの間に距離を詰めたのか、現れた女々ちゃんによって、俺は腕ごとガッチリとホールドされる。
「さぁさぁさぁ!」
小さな体のどこにこんな力があるのやら、情けなくも俺はズルズルと引き摺られ、そんな俺たちを見て華菜乃がクスクスと笑う。八条寺は――
「…………」
クスリともせずに、苦々しい顔を俺に向けている。
どうしてそんな顔をするんだ? 問題は全て解決に向かっているはずなのだから、むしろ嬉々としていても良さそうなのに。
「…………何か、見落としている事でもあるのか?」
一人呟き、思考をちゃんと巡らせる為脚に力を入れ踏ん張る。引き摺られながらじゃあ、禄に考えられないからだ。踏ん張った瞬間、女々ちゃんが俺にジト目を向けてきたが、俺はお構いなしに目を瞑る。
そして俺は一から記憶を巡り、一つずつ思い出した事を反芻させながら思考する。
――そもそもの発端は。
――そこに至る経緯は。
――それによる結果は。
――そして今の現状は。
「――――あっ」
その瞬間、霞がかかっていたようにモヤモヤとしていた俺の脳内が、一気に晴れ渡った。
点と点が繋がって一本の綺麗な直線になるような、不思議な感覚。
「……? どうしたの、彰君?」
思わず大きめな声を出してしまったからか、前を歩いていた三人が振り向く。
怪訝な顔で俺を見つめる華菜乃達を見据えながら、俺は大きく深呼吸をし、ハッキリとした声でこう言ってのけた。
「――謎は、解けた」
続く




