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友だちはへん人ばかり  作者: せい
第五話 八条寺茹美の荒ぶる接近
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へん人No.2&6&7 栖桐&芭逸&八条寺 その4

「……って、これが店長……?」


 そこには中肉中背でギョロっと目を見開き、黒タイツを頭から爪先まですっぽりと被ったような……言うならば、名探偵コ○ンに出てくる犯人のような男――恐らく――がプラカードを片手に写っていた。プラカードには『男子感謝デー! コスプレで来店されたお客様の奇抜度に応じて値引きします!』と、やけに綺麗な字で書かれている。

 書いてある事も意味不明だし、それにこの人……どこからどうみても怪しすぎる。まるで三日月のように口角をつり上げて笑うその様は不気味そのものだ。こんな人が店長とは……。


「前にね……、私と女々花ちゃんとで行った時は追い返されちゃって……」


「制服だからオッケーかなって思ったんですけど、『学生が制服を着るのは当然だろう! 俺はそれをコスプレとは認めんっ!』って言われちゃいました」


「……まぁ、確かに学生である俺たちが制服を着ても、それはコスプレとは言わないよなぁ」


 俺たちが卒業や中退でもしない限り、学生服に身を包んだところでそれはコスプレではなくて、ただの正装だ。店長さんが怒るのも納得できる。


「でもさ……。いくら何でも俺がチャイナ服を着る必要はないと思うんだっ!」


 それとこれとは話が別だと思う! そもそも、ただでさえ祭当日って事もあって町にはかなりの人がいるだろうに、その中をこれを着て歩けだって!? おかしい! こんなの絶対おかしいよ!


「えっ、どうしてですか!? 着てくださいよ! じゃないと話が進まないじゃないですか!」


「いーーやーーだーー!! チャイナ服なんて着たくないわーー!!」


「えぇい、まどろっこしいですね! いい加減お縄につけってんですよ!!」


 女々ちゃんが再びこちらへ向かってこようとするので、俺は思わず八条寺の肩に手をかけ、身を隠そうとした。が――


「――――へぶぅッ!?」


 瞬間、俺の顎は天井を向いていた。

 何が起こったか理解出来るはずもなかった俺は、受け身をとることさえ出来ないまま床へと不時着した。

 思考と視界がメリーゴーランドのようにぐわんぐわんとシェイクされ続け、数秒遅れで痛みの発生源だと思われる顎から鈍い痛みが襲ってきた。


「いっっっってぇぇぇぇ!! な、何すんだよぉ!?」


「わ、わりぃ荒木! つい、手が……」


 そういえば女々ちゃんに気を取られていたせいで忘れていたけれど、今の八条寺に触ると攻撃されるんだっけ……。


「い、いや……いいんだ……、忘れてた俺のミスでもある、し……」


 じんじんと痛む顎を抑えながら、申し訳なさそうにしょんぼりとする八条寺に笑顔を向けてみると、八条寺は更に縮こまった。

 ……それにしても今のアッパーは本当に強烈だった。これからは気をつけないとな、うん。


「ふふふ……せーんぱいっ♪」


「…………め、女々ちゃん」


 頭の中で渦巻いていた揺れが徐々に収まってきたが、ふと気がつくと、目の前には仄暗い笑みを携えた女々ちゃんが立っていた。

 ……もちろん、彼女の手にはしっかりとチャイナ服が握られている。


「女々花が言いたい事ぉ……解りますよねぇ……?」


「わ、解るけど解りたくない! どうせ俺にそれを着ろっていうんだろ!」


「なんだ、解ってるんなら話は早いですね♪」


「お願いだから俺の話を聞いてっ!」


 しかし、女々ちゃんはそんな俺の懇願など無碍にするかの如く、起き上がり逃げようとした俺の胸の辺りを足で軽く小突いて床に倒すと、臍の辺りで腰を下ろし脇腹を両足でガッチリと固定した。

 解りやすく言うと馬乗り、またの名をマウントポジション。


「先輩が着てさえくれれば、解決するんですよ? 万事解決! かいけつゾロリってやつです!」


「やーめーてー!」


 俺の腹に乗せた柔らかなお尻に少しだけ力を入れ、 無邪気な笑みで女々ちゃんが見つめてくる。


いつ、退いてやった方がいいんじゃねぇか?」


「えっ? どうしてですか?」


「いやほら、荒木の顔を見てみろよ。何だか具合が悪そうな顔してるぞ?」


 女々ちゃんのお尻が俺の腹部を圧迫していると思ったのか、八条寺と華菜乃が心配そうに俺の顔を覗き込んできた。


「八条寺……お前ってヤツは……!」


 まぁ実際、小柄な女々ちゃんが乗ってきたところで苦なんか感じてないのだけど。

 むしろ、どこぞの物置のキャッチフレーズみたく“百人乗っても、ダイジョーブ!”とさえ思えてくる。

 しかし、問題は女々ちゃんの“体重”なんてちゃちなもんじゃあない。

 俺がドギマギしている理由……。

 それは、女々ちゃんが跨いだ瞬間に垣間見たピンクと白の水玉パンツが見えてしまったのと、彼女の――成熟してはいないが小ぶりで張りがある、まるでプリプリの果実のような――お尻の感触を味わっているからだ。

 ……まぁだからと言って、華菜乃に感づかれでもしたら後が怖いので、若干引きつった笑顔を作りながら、悟られないよう精一杯明るい声を出してみた。


「い、いや具合なんて悪くない! むしろ元気! チョー元気!」


「……本当に? 苦しくないの……?」


 少し声が上擦ってしまったけれど、この感じなら騙せ通せそうな気がする!


「あ、当たり前じゃないか! 当たり前すぎてもはやクラッカーだぜ!」


「……ふぅん……? 当たり前田のクラッカーなんだぁ……?」


 もう一押しだっ!


「そうそう! と言うよりもはや、ハッピーうれピーヨロピクねー! って感じ!」


「……彰君、流石にそれは古いと思うよ」


「さいですか」


 つーか俺が言うのも可笑しいけど、今のギャグに華菜乃がついてこれた事に驚いた。


「ん……? 何がどうしてクラッカーなんだ?」


 俺たちが言っている事が理解出来なかったのか、八条寺が不思議そうな顔で呟く。

 説明してやってもよかったけど今の俺にそんな余裕はなかった――まぁぶっちゃけ面倒くさかった――ので、俺は誤魔化すように苦笑いを浮かべた。


「先輩先輩」


「ど、どーした女々ちゃん?」


「ん♪」


 短くそう発し、両手で広げた服を胸の前でヒラヒラとさせる。

 そろそろ着ろ、とでも言いたいみたいだ。


「着ないぞ……! いくら皆の頼みとはいえ、こんな服を着て町中なんて歩けるかってんだよ!」


「もー! いいからちゃっちゃと着てくださいよぉー!」


「だから嫌だっつーの!!」


 こんな格好で町中を彷徨きでもしてみろ! あっという間に“校内一の変人”ってレッテルを貼られるに決まってる!!


「大丈夫だよ、彰君……。私がどこに出しても恥ずかしくないように……ばっちりメイクしてあげるから……♪」


「そうじゃねーよ!! メイク云々以前の問題! 俺はこの服を着るのが嫌だって言ってんの!!」


「案外……似合うかもしんねーぞ?」


「八条寺まで何言ってるの! これはおれが着るような代物じゃねぇーから!」


「そんなにこの服を着るのが嫌なんですか?」


「嫌だからこうして言ってるんじゃん! 嫌じゃなかったら二つ返事で着てるよ!!」


「……じゃあ、()()()()()って思わせればいいんですね?」


「……? まぁーそうだな」


 とは言っても、俺が自ら進んでチャイナ服を着るなんて、天地がひっくり返っても訪れないと思うけど。


「……解りました」


 ぽつりと言って、女々ちゃんが俺の上から退いた。解放された俺はひとまず起き上がり、座ったまま華菜乃達と一緒に女々ちゃんの行動を見やる。

 すると女々ちゃんは持ってきた袋を漁りだし、中からラベルが貼られていない中型のペットボトルを取り出した。

 ペットボトル自体に着色はされておらず、中に入っている液体も無色透明のようで、背景の色がそのままペットボトルを通じて俺の瞳へと入ってくる。


「これ、飲んでくれませんか?」


 女々ちゃんが差し出してはきたものの、俺は素直に受け取らず懐疑的な目を向けてみた。

 この子が用意するものには用心しなければならない。何故ならそれは、以前起こした“ドリンク事件”という例があるからだ。

 言っちゃあ悪いけど、このタイミングでこの子が用意したドリンクを飲むなんて……ぶっちゃけありえない。


「何、これ?」


「何って……。あっ、もしかして先輩疑ってますか? 嫌ですよー、これは極々()()のドリンクですよ?」


「普通っていう割にはやけに強調するな!?」


 “普通”を強調するあたりがますます怪しい!


「……彰君、これ普通のドリンクっぽいよ?」


「あ、本当だ。こりゃ美味いな」


 見ると、同じような物を華菜乃達が飲んでいた。

 しかも、よっぽど美味しいのか二人ともグビグビと飲んでいる。

 しかし……俺には解る……! 如何に二人が美味そうに飲んでいるとは言え、これを飲んでしまったらろくな事にならないというのが!


「ほら、先輩も早く飲んで下さいよ~♪ 何も怪しい物質なんて入ってませんよ~?」


「わざわざ言うところが尚更怪しいわ! 絶対何か入ってんだろ! 絶対何か入ってんだろコレ!!」


 両手を胸の前で斜めにクロスさせ、明確に拒否をアピール。

 すると、女々ちゃんは微笑みを絶やさないままゆっくり俺との距離を詰め、二人には聞こえない程の小さな声で話しかけてきた。

 内緒話がしたいのか? そう感じた俺は、とりあえず女々ちゃんに倣って、同じくらいの声量で会話をすることにした。


「お察しの通り、コレはただのドリンクじゃありませんよ」


「……!」


「このドリンクを飲んだ人は、立ち所にコスプレがしたくてしたくてしょうがなくなるようになってます」


「――ってことはまさか……!」


「ふふっ、先輩のお察しの通りです。――ちなみに、名前は“誰がためにコスプレをするちゃん”です」


 得意げに女々ちゃんは口角を吊り上げる。


「女々花が先輩に飲んでもらいたいのは、その改良版とも言うべき“誰がためにコスプレをするちゃんmark-2”ですが」


「mark-2……? って事は、華菜乃達が飲んでいるのとは違うのか?」


「ですです。まぁ……説明するのも面倒なので、まずはグイッと! ささグイッと飲んでください!」


 ふたを開け、ペットボトルの口を俺へと向けてくるので、女々ちゃんの手首を掴み制止する。


「嫌だよ! 何で飲まなきゃいけないんだっつの……!」


「華菜乃先輩に()()()()をバラしますよ?」


「……? あのこと? おいおい、何の話だ――」


「女々花のパンツ見ましたよね」


「――っ!?」


 ま、まさかバレていたってのか!? い、いや……騙されるな、騙されるなよ俺……。これは罠――そう、女々ちゃんの巧妙な罠だ! 落ち着け……、顔に出すな……! 動揺しているのを悟られるんじゃあないっ!


「……俺が女々ちゃんのパンツを見ただって? おいおい、冗談はよしてく――」


「華菜乃先輩に言いますよ?」


「ごめんなさいっ!」

 

 何故だかは解らないが、華菜乃の名前が出た瞬間、俺の頭は疾風の如き速さで下を向いていた。


「ってか、バレてないと思ったんだけど……」


「それはあくまで先輩目線ですよね? 女々花からすると丸わかりでしたよ。というか、女の子はそう言った視線に結構敏感なんですよ、先輩」


 女々ちゃんから照射されるジト目光線を浴びながら、俺は自然に正座をしていた。

 そうか、バレてないようでバレてたのね……知らなかった。


「さっ、それじゃあ後は何をすべきか解りますよね……?」


 屈託のない笑顔で、女々ちゃんがペットボトルを俺の口元へと移動させる。

 ……これはもう飲まざるを得ない。飲んで、女々ちゃんには黙っていてもらうしかない。

 俺は瞳を閉じ、代わりに口を開けその時を待つ。すると、数秒もしない内に生暖かく少しだけ粘ついた液体――らしきもの――が喉を通り過ぎた。匂いらしい匂いはなかったけれど、ほんのりと甘みを感じる。

 三分の一くらい一気に飲ませた所で、女々ちゃんはペットボトルを口から離し、フタをした。


「どうですか?」


「いやどうって言われても……」


 いざ飲んではみたものの、身体にも思考にも特に変わった所は見あたらなかった。


「……ふぅむ、実験した時は上手くいったんですけどねぇ……」


「実験?」


「あぁいえ、こっちの話です。それにしても何でだろう……。やっぱり一度気を失わせた方が……」


「女々ちゃん? 今さ、なーんか不吉なワードが聞こえた気がするんだけど」


「まぁ、気絶してもらってた方が色々とやりやすいし……」


「ねぇ、女々ちゃん聞いてる? 俺の声が聞こえてる? 聞こえてるなら返事して! お願いだから!!」


「あ、ゆでせんぱーい。ちょっとこっち来てもらえませんかー」


「んー? どした?」


 ジュースを飲み終わった八条寺が横に立つと、女々ちゃんは「ちょっとここに座ってください」と言い、俺の前へ同じように正座させた。


「「……?」」


「女々花ちゃん……いったい何をするの?」


 華菜乃も女々ちゃんが何をするつもりか把握していないのか、俺達同様、頭にハテナマークを浮かべている。

 しかし、次の瞬間俺たちは全員が頭にビックリマークを浮かべる事になった。


「それは――こうするんですッ!!」


 女々ちゃんが俺の手を掴み、そのままグイッ! と前へと伸ばす。そして伸ばされた手の先にあるのは――


「…………」


「…………」


 ――八条寺の胸に成った果実なわけで。


「う、うぉあああああああああっ!?!?」


「ハヴォックッッッ!!」


 自分でも奇っ怪だと思うくらいの奇声を上げながら、俺の身体と意識は水平線の彼方へと吹っ飛んでいった。


 続く

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