へん人No.2&6&7 栖桐&芭逸&八条寺 その2
どこまでも澄み渡る青空の下、俺達は早くもお祭ムードに染まりつつある街中を歩いていた。
夏は終わったばかりだというのにまだまだ残暑は厳しいみたいで、道行く人達は皆暑そうに胸元を扇いだりしている。
ん、俺? 俺も暑いんじゃあないかって? そりゃあ「もちろん平気さ! まったく暑くなんかないね!」……と言いたいところだけど、そう言ってしまうと俺は嘘つきになってしまう。
「はぁ……暑いし痛い……」
思わず溜め息が出た。
上方からは朝から晴れ晴れと輝いている太陽が光を降り注いでいるせいで、露出させた肩が――日焼け止めを塗っているのにも関わらず――ジリジリと熱せられているし、周囲からはジロジロと舐めまわすような視線と、カメラのシャッター音が全身に突き刺さっている。
そりゃあそうだろう。なんせ、俺達が身に纏っている衣装は季節感も統一感も皆無なのだから、ついつい足を止めて凝視してしまうのも頷ける。
俺が逆の立場だったら間違いなく写真を撮ってネットにアップしているかも。まぁ、もちろん許可はちゃんと取るつもりだけどな。
『おい見ろよ! あそこを歩いている女の子達、どの子もレベル高くないか!?』
『何であんな格好してるのかは解らねぇけど、美少女ばっかだなぁ!』
『俺……声かけてみようかな!』
『あの一番後ろの子も……なかなか可愛いな……』
不意に好奇に満ちた声が聞こえてきた。恐らく、会話の内容からして華菜乃達の事を言っているんだろう。
声のした方を向いてみると、そこには頭が悪そうな、浅黒い肌をした茶髪の男と、髪の毛をウェーブさせすぎて、頭がジャングルのようになっている金髪の男が顔を見合わせながら話していた。
確かに、俺の前を歩く三人の容姿は十分、いや十二分に美少女と呼べるレベルで、しかもそんな美少女達がウェディングドレスにミニスカサンタにゴスロリといった奇抜な格好で街中を歩いている。
そんな彼女達が注目を浴びるのは、火を見るよりも明らか。ってヤツだ。気持ちは解るぜ、そこの人……って、ん? 今なんか可笑しな声が聞こえたような……。
『あ、お前もそう思う? いやぁ、本当の事を言うとさ、俺も後ろの子が一番可愛いと思ってんだよ!』
『いやぁ〜たまんねぇよな! あのスラリと伸びた脚に、控えめな胸! そしてあの服! どれも俺の好みド直球だわぁー!』
可愛い子? はて、彼らは何を言ってるんだろうか。華菜乃達の後ろ……と言うことは、俺の後ろでもある。
つまり、振り向けばそこには可愛い女の子がいる。と、いう事だ。……そんな子がいるというのなら
、是が非でも確認しなければいけない。ちなみに一つだけ説明させてもらうが、今から俺がとる行動には疚しい気持ちなんて一遍の欠片もないんだからな。あくまでその子の容姿を確認するだけ……チェックするだけなんだからな! さぁ、そうと決まれば話は早い!
俺は歩くスピードを徐々に緩め、華菜乃達と更に距離をとった。目測でおよそ十メートル、愛用しているスニーカーならばこの差を詰めるのに時間なんぞかからないが、生憎今日の俺が履いている靴は女々ちゃんが用意したという特別な物。
履き慣れていない分、彼女達に追いつくまでそれなりに時間がかかってしまうが……まぁ、致し方ないだろう。今は携帯やスマホといった文明の利器があるんだ。昨今はGPS機能が標準で搭載されてるのだから、 もしはぐれたりしても合流する事くらい小学生でも出来るさ。
「…………あれっ?」
なんて事を考えながら歩いていると、気がついた時には本当に華菜乃達とはぐれ、俺は独りになっていた。
「ここは……墓地か」
どうやら、祭の準備で賑わっているメインストリートから外れた位置にある、墓地の辺りまで来てしまったらしい。
外れた位置……と言っても、実際にはメインストリートからは二十メートルも離れてないので、賑やかな声は相変わらず耳に入ってくる。
「それにしても、いつの間にこっちまで来ちゃったんだろうなぁ……」
周囲を見回してみるも誰の気配も無い。まるで、あっち側に生きている人間を全て奪われてしまったのかと錯覚を起こしてしまうくらい、こっち側は人気がなかった。
びゅう。と、生暖かい風が足下の素肌を撫ぜ如何にもな雰囲気に醸し出している……。
「こ、こんな所で油を売ってる場合じゃないよな! 早く皆の所に戻らないと!!」
連絡をするためにスマホを取り出し、通話履歴から華菜乃を選択し、耳に当てるも――
『おかけになった電話は現在、電波の届かない場所にあるか、電源が入って――』
聞こえてきたのは、無機質な音声ガイダンスだった。
「んんっ? おっかしいなぁ」
通話画面を閉じ、待受画面上部に表示されているアンテナを確認してみるも、圏外にはなっていない。電源を切ってるのか? そう思いつつも、
「ま、三人ともあれだけ目立つ格好してるんだし、探してればその内見つかるだろ」
俺は一人ごちて、メインストリートへと向かい歩き出す。すると、前方から声が聞こえてきた。
『なぁ、本当にこっちで合ってんのかよ?』
『ったりめーだろ! 俺ァちゃんと見たっつーの!』
『本当かよ……。だって、こっちは墓地しかないんだぜ?』
『かぁ〜っ! とことん人を信じねぇヤツだなぁお前はよ! だからお前には恋人が出来――おい、見ろよ! やっぱりいたじゃねーか!』
『えっ、あ、本当だ!』
会話をしながら現れたのは、先程見かけた頭が悪そうな二人組だった。
『探してたんだぜ〜? 君が突然いなくなっちゃうからさぁ〜』
「……はぁっ?」
今コイツはなんて言った……? 君? それって誰の事だ……? まさかとは思うが、俺の事じゃあないよな?
『ちょっとさぁ〜、俺達と付き合ってくんねぇかなぁ〜』
そう言いながら、茶髪の男は両手を広げじりじりと距離を詰めてくる。
「い、いや! 付き合うも何も……!」
こ、コイツら! 何か勘違いしてないか!? いくら俺がこんな格好をしてるからって……!!
「お、俺は……俺は男だぞっ!!」
『知ってるよ』
「えっ?」
目を見開いた瞬間――鳩尾に鈍い衝撃が走った。込み上げてくる痛みと嘔吐感に、思わずその場にうずくまってしまう。視点も定まらず、視界が二重にも三重にもぼやけて見える。
そんな苦しみ悶えている俺を見下ろしながら、茶髪の男は下卑た笑みを浮かべ金髪の男に向かって『よし、縛ってから連れてくぞ』と言い、口角を更に吊り上げる。そして――
『それじゃあ俺達といいことしよーぜ、チャイナ服のにーちゃん……♪』
その言葉を最後に、俺の意識はブラックアウトした。
続く




