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友だちはへん人ばかり  作者: せい
第五話 八条寺茹美の荒ぶる接近
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へん人No.7 八条寺茹美 その7

「うおあっ!?」


 芦屋の悲痛な声が聞こえる。しかし、握っていたドアノブには人がぶつかった様な感触は無い。


「お、おい荒木! 危ねぇじゃねーか!!」


 開こうとした瞬間後ろに飛んだのか、くわっ! と目を見開いた芦屋が指を差しながら抗議してくる。


「あぁ、悪い悪い。いやさ、ちょっと手が滑っちゃって☆」


 後ろ手で中が見えないようにドアを閉めながら、悪戯っぽく微笑んでみる。


「……手が滑った割には『おらぁっ!』って、気迫に満ちた声が聞こえた気がしたんだが?」


 見開いた目を半眼にし、芦屋が腕を組み顎をしゃくらせる。


「気がしたって事は、気のせいなんじゃないのか?」


「……んん? そうなのか?」


「うん、そうそう」


「そうなのか……? うぅむ、そうなのか」


 凄ぇ! たったあれだけの事で、コイツ信じやがった!


「まぁ納得はあんまりしてないけど、荒木がそう言うならそうなんだろうなー」


「は、ははは……」


 何だろう、芦屋の俺に対する信頼感が異常に高い気がする。


「それで? どうして荒木は俺をこんな所まで呼び出したんだ――ハッ! まさか告は――」


「やめろ! あの脳内が腐ってる委員長が喜びそうな話題をわざわざ振るんじゃない! アイツはどこからでも『腐』の臭いを嗅ぎつけて現れるんだぞ!?」


「「……!?」」


 芦屋の口を手で塞いだ瞬間、納豆のようにねばねばとした視線を感じ、俺達は揃って身震いした。

 どこから見られているのかは解らないが、確かに()()()()いるという気持ち悪さに悪寒を感じる。


「あ、荒木! あそこ……!」


「あそこって――うわっ!」


 驚く芦屋の目線の先に目をやると、本校舎の下に見慣れた姿を見つけた。


「ふ、ふじよし……!?」


 そこにいたのは、俺達のクラスメイトである藤吉(おと)

 彼女は俺達のクラスのまとめ役であり、遠足や各行事などイベントの際にはそれはもう頼もしいくらいにリーダーシップを発揮してくれるのだけど……


『うっはぁぁぁぁっ!! 来た来た来たぁぁぁぁっ!! やっぱり荒木×芦屋は堪らないわぁぁぁぁ!!』


「「うわぁ……」」


 ごらんの通り、アイツは生粋のくさおな……じゃなくて、じょなのだ。

 容姿もそれなりに整っているし、皆をグイグイと引っ張っていけるくらいのリーダーシップも兼ね備えているのだが、如何せんあのオープンっぷりが影響しているせいで彼氏という存在どころか、告白してくる男子すらいないらしい。

 ちなみに、本人曰わく『カップリングが出来るのなら、それ以上は望まないわ』……とのことらしい。


「つーか、こんだけ離れてるのに聞こえるって……凄いと言うか、キモイというか……」


 芦屋が脂汗を流しながら呟き、俺も芦屋と同じ気持ちだったので一つ首肯する。

 すると、背後からドアが開く音がし振り返ると女々ちゃんがチラリと顔を覗かせてきた。

 俺の顔を見た瞬間、無言で親指を立てる女々ちゃん。どうやら準備は終わったようだ。


「あれ? 女々花ちゃんもいたのか?」


「ですです。さぁ先輩、女々花達は早く行きましょう♪」


「そ、そうだな」


 芦屋の口を抑えていた俺の手を取り、女々ちゃんが歩き出す。


「お、おい! 二人ともどこにいくんだよぉ!?」


「その中にお前の事を待ってる奴がいるから! 早く入ってやれよな!」


「え、えぇぇぇぇっ!? マジか! マジかぁぁぁぁぁぁっ!!」


 一度しゃがんでからぐわっと両手を突き上げ、喜ぶ芦屋を見ながら俺達は階段に隠れる。


「うっひょぉぉぉぉぉぉぉぉっ! 俺にも……ようやく春が、キタァァァァァァァァッ!! うっわマジで!? とうとう来ちゃった!? とうとう来ちゃったのか春が! 青い春が! 青春がっ! キタッ! 青春キツァァァァァァ!! これで勝てる! いや、勝つるゥゥゥゥ!!」


 バッタの様に飛び回る芦屋を見て、女々ちゃんがぽつりと呟いた。


「うわぁ……」


「まぁ、そうなるわな……」


 いくら告白の(こういう)シチュエーションだとはいえ、あそこまで狂喜乱舞していると誰だって気持ちが悪いと思ってしまうだろう。


「どちらかと言えば、『狂喜乱舞』って言うよりかは『ラブに狂喜』って感じだけどな」


「誰が上手いこと言えと」


「座布団くれるか?」


「先輩の切り返しにイラっと来たので、逆に全部ボッシュートです」


「何それ酷い」


 厳しいなぁ……。我ながらよくできた回答だと思ったのに。

 とまぁ、こんな感じで女々ちゃんと話していると、芦屋は鼻の穴を大きくしながら何故か準備体操を始めだした。……いや、告白されるのに準備体操は不必要じゃね? まぁ、いいか。

 そんなことどうでもいい。今は、こんな俺なんかを頼ってくれた八条寺の告白が成功する事を祈るだけだ。


「頑張れよ……八条寺……!」


「って、どこに行く気なんですか?」


 一人ごちて、階段を降りようとしたら女々ちゃんに手を掴まれた。どこに? って、そんなの決まってるじゃないか。


「教室だけど?」


「気にならないのですか?」


「……何が?」


「二人の様子」


 言って、女々ちゃんが小悪魔のような笑みを浮かべながら、ポケットからスマホを取り出す。


「……何してんの?」


「Watching」


「何故にEnglish!?」


「えへへ、急に使いたくなっちゃいまして♪」


 照れながら女々ちゃんがスマホを操作すると、見覚えのある室内と椅子に座ったままそわそわしている八条寺がスマホに映し出された。


「あのさ、女々ちゃん。これって……もしかしなくても監視カメラだよな?」


「こんなこともあろうかと!」


「用意周到すぎるだろ!」


 鼻息を荒くしながら親指を向けてくるので、ゲンコツを作り頭を軽く叩くと、女々ちゃんは「えへっ」と可愛く舌を出した。

 というか、どうして部室に監視カメラを取り付ける必要があるんだろう。……謎だ。


「よぉし! 行くぞぉ! 待ってろや俺のマイスウィートエンジェルゥゥゥゥッ!!」


 芦屋がドアノブを強く握りしめ、メメカ部のドアを乱暴に開け中に入って行くのを見てから、俺は女々ちゃんのスマホへと視線を落とした。


「あれ、見たいんですか先輩? てっきり『親友の告白シーンなんて見てられっか!』とか言って、先に教室に戻っちゃうかとばかり思ってましたけど」


 それは俺も思った。だけど、せっかく見れるっていうのなら見てみたいし……何より芦屋に、親友に彼女が出来そうなんだ。


「見届けてやりたい。……って思ってさ」


「そうですか、それじゃあこっち来て下さい。一緒に見ましょう!」


 二人して並んで壁にもたれ掛かり、小さな画面から入ってくる映像を見る。

 相変わらず八条寺は椅子に座ったままそわそわとしていたが、がちゃり。とドアが開いた瞬間、体を強ばらせ芦屋の顔をじぃっと見つめていた。


『……ん? あれ、もしかして俺に告白したい女の子って、お前か八条寺?』


『え、えぇ。そうよぉ、()()が芦屋くんを呼んでって荒木くんにお願いしたのぉ』


 普段の男勝りな喋り方とは違う、艶やかで色っぽい間延びした声。この喋り方は……もしかして美幸先生!?

 どういう事だ!? 華菜乃モードじゃなかったのか!?


「女々ちゃん、これって――」


「同じのを試しても実験にならないと思ったので、美幸先生のデータをインストールしてみました♪」


 言い掛けた瞬間、女々ちゃんが俺の発言を遮るように言葉を被せてきた。

 あ、なるほどねー。確かに同じ事を繰り返してもいいデータは取れないもんねー。……ってそうじゃない!! この子はまた他人で実験したってのか!?


「おい、女々ちゃん。その実験癖止めた方がいいぞ?」


「まぁまぁ、いいじゃないですか。あ、それよりもほら! 八条寺先輩が脱ぎ出しましたよ」


「え、脱ぎだし――って、はぁっ!?」


 半眼で女々ちゃんを睨みつけるのを中止し、慌てて見ると小さな画面に映し出された八条寺が、ゆっくりとジャージのファスナーを下ろしきり、しなやかな肉体を半分ほど芦屋に向けて露出したところだった。


『そ、それにしても暑いわねぇ……?』


『……そうか? そこまで暑いとは思わないけれ――どうぉぉぉっ!?』 


 去年殴られた時の記憶が残っていたのか、最初は気まずそうに目を反らしていた芦屋だったけれど、八条寺の様子に気がついたのか、芦屋の鼻からは一筋の赤い体液が滴り落ちていた。


「うっひゃー、八条寺先輩ってだいたーん!」


「こうなる事解ってたろ!」


「てへっ☆」


 嬉しそうに目を瞑る女々ちゃんの頭を、再び軽く殴る。

 あぁ、ダメだ。集中出来ない。いちいち女々ちゃんの言動に攻撃つっこみを入れてしまう。

 頭を数度左右に振り、両手で自分の頬を一回叩く。もちろんこれは俺自身に気合いを入れ、二人の行く末をキチンと見守る為だ。

 決して、目を輝かせてる女々ちゃんの横顔に引き込まれそうになったわけじゃあない。


『ね、ねぇ……芦屋くぅん? あのねぇ……? 先生は、あのぅ……そのぅ……』


『…………』


『去年ねぇ……? 一回の女子トイレの前で告白してくれた時から、アナタの事ぉ……』


『…………』


「「…………」」


 頬をはんなりと染め、勝ち気だった目を垂らし、上目遣いをしながら芦屋に想いを伝える八条寺の姿を見て、俺たちは揃って口を噤んでしまった。

 上書きされているとは言え、あれは紛れもない八条寺の本心。

 なんだか、こういう真剣な告白というやつは、聞いてるこっちまで引き込まれてしまう。


『そのぉ……だからぁ……』


『…………』


「「…………」」


 二人して息を呑みながら画面の中の八条寺を見る。芦屋もその台詞を待っているのか、さっきから一言も喋らない。


『アナタの事がぁ…………好きなんですぅ!!』


『…………』


 はだけたジャージの隙間から黒色のブラが一瞬見える。俺達が見ている角度からだと直ぐにジャージの影に隠れて見えなくなってしまったが、真っ正面から向き合っている芦屋からならもろに見えているはず。

 というか、相手が八条寺とは言え()()芦屋が、あの性に貪欲な芦屋が、こんなムフフな状況を黙って見過ごすだろうか?

 そう言えばさっきからやけに静かだな……。いつものアイツなら、八条寺がジャージのファスナーを下ろし始めた瞬間にでも叫び出すものだとも思ったのだけれど……。


『……ねぇ、芦屋君? 聞いてる――あ、芦屋君!?』


 思案を巡らせていると、がしゃぁぁぁん! という何かが落ちたような音と共に、女々ちゃんのスマホから大声が聞こえてきた。


『芦屋君……!? 芦屋君! 芦屋く――芦屋ってば!!』


「ど、どうした!? 何かあったのか!?」


「わ、解りませんっ! 女々花も丁度見てなかったので……!」


「くそっ……とりあえず行くぞ!」


「は、はい!!」


 慌てて踵を返し、思い切りドアを開ける。すると――


「芦屋! おい芦屋! しっかりしろって!」


 そこには真っ赤なジャージをはだけさせ黒の下着をチラチラと露出ポロリしている八条寺と、


「…………」


 鼻から大量の鼻血を流し立ち尽くしている芦屋の姿があった。


「芦屋!? 大丈夫か芦屋ーーーーっ!」


 意識があるようには見えないのに、ぐわんぐわんと八条寺に肩を揺すられながらも芦屋は決して倒れようとしなかった。

 その姿は、まるで死の瞬間に『一片の悔い無し!』と言い残した某世紀末的な兄のようで、鼻からは未だにダバダバと鮮血が流れているにも関わらず芦屋の顔はどこか満足気だった。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 改良型無個性矯正機――『無個性なキャラクターは主役への夢を見るか?』くんが! 改良型無個性矯正機――『無個性なキャラクターは主役への夢を見るか?』くんがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 見ると、女々ちゃんが作り上げたと言っていた、改良型無個性矯正機――『無個性なキャラクターは主役への夢を見るか?』くんが床に落ちており、しかもダイレクトに芦屋の鼻血を浴びていた。

 よく噛まずに何回も言えるな……。と、つい思ってしまったが、絶叫を上げながら両手で頭をがしがしとかきむしる女々ちゃんを見ていると、とてもじゃないがそんなことは言えなかった。


「な、直せば――」


 そこまで言い掛けて俺は口を閉じた。女々ちゃんの取り乱しようから察するに……と言うか、素人目で見ても直りそうにないことは火を見るより明らかだ。 


「……っかく……」


「……ど、どうしたの……女々ちゃん?」


「――っかく、ぜっがぐづぐっだのにぃぃぃーー!!」


 可愛らしい目から極大な雫をぼろぼろと流しながら、女々ちゃんは泣き出してしまった。

 くぅ……っ、芦屋の鼻血を止めてやるのも大事だけれど女々ちゃんを落ち着かせる事も大事だ……!

 そうだ! 女々ちゃんの事は八条寺に任せて、芦屋をこのまま連れて行こう!

 チラリと八条寺を見てみる。

 赤いジャージに健康的な肌色、そして黒いブラが目に入ってきて――


「み、見るなぁぁぁぁぁぁっ!!」


「ごべんなざいっ!」


 殴られた。……キツい一発だ。ソフトボールをそのままぶつけられたのかと思った。

 あれは――そう、間違いなくコークスクリューパンチだった。

 涙目になりながら胸元を抑える八条寺に向かって、『これ以上はやめてください』と言葉にならない悲痛な叫びを込めながら手のひらを突き出す。

 ……そういえばそうだった。素の八条寺はこんなやつだったっけ。……仕方ない、こうなったら八条寺は後回しだ。

 殴られた右頬を抑えながら、泣きじゃくる子供を宥めるような感じで声をかけてみる。


「女々ちゃん……。あの機械はもう直せないのか……?」


「ぐすっ……、直ぜるわげ、ないじゃないでずがぁぁぁぁ……」


「……どうして?」


「だっでぇ……あれは、……ぐすっ、女々花が作った一品物でずよぉ……。部品とかも……完全にワンオフ物だったんですよぉ……?」


 頭をゆっくりと撫で続けると、女々ちゃんは徐々に落ち着いてきたのか、彼女の瞳から零れ落ちる雫の量は少なくなっていきやがて完全に出なくなった。


「ワンオフってのは特注品みたいな物か?」


「……はい、初号機ちゃんで使ってた部品を流用したんですけど……」


「その部品をさ、作ったのは女々ちゃん?」


「あ、当たり前じゃないですかっ!」


 泣き腫らした赤い目で半眼を作りながら女々ちゃんが頬を膨らませる。


「じゃあさ、もっかい作ろうぜ。……もちろん俺も手伝うからさ」


「……手伝って、くれるんですか?」


「あぁ、当然だ。約束する。だからさ、こういう事を言うのは女々ちゃんには酷だとは解ってるけど……今は芦屋を介抱するのを手伝ってくれないか? 八条寺もさ」


 もし、八条寺が未だにジャージのファスナーを上げていなかったら再び殴られてしまうので、顔を少しだけ振り向かせ視界の隅で確認。


「……あ、あぁいいぜ。元はと言えば、オレが招いちまった事だしな……」


 八条寺は俺達が話している内にファスナーを上げ気持ちを落ち着かせたのか、申し訳なさそうな顔をしながら自分の頬を叩いた。

 そして、俺達は芦屋の鼻にティッシュを詰め三人で保健室へと向かい、芦屋をゆき先生に預けた。


 続く


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