へん人No.7 八条寺茹美 その6
「さぁ、先輩! 手っ取り早く芦屋先輩を呼び出して下さい!」
「呼び出すってどこに?」
「どこに? って、そんなのここに決まってるじゃないですか」
女々ちゃんが急かすように制服を引っ張ってくるので、俺はポケットからスマホを取り出し芦屋に向けて簡単な呼び出しメールを作成した。
ちなみにメールの内容は『ちょっと用があるから、部室棟の四階にあるメメカ部まで来てくれないか?』と、まぁこんな感じだ。
そしてそれを送信。すると、一分も経たない内に『わかった!』と返信が来た。
「えぇ……もう呼ぶの……?」
「です! じゃないと効力が……ごにょごにょ」
「……効……力?」
「あぁ、いえいえ! 気にしないで下さい!」
口ごもる女々ちゃんを不思議そうに見つめる八条寺。
見た目はどこからどう見ても八条寺なのだけれど、言動や雰囲気は完全に華菜乃だ。
「しかし……凄いなこれ」
「あ……あんまり見ないで……」
「ご、ごめん」
あまりの華菜乃っぷりに、ついまじまじと見つめてしまう。
普段の華菜乃なら、俺がこうして見つめていたとしても『どうしたの……彰君? 私の顔に何か付いてる……?』と逆に見つめ返されるのだけれど、言動や雰囲気が染まったとは言え、根っこの部分は本人の性格が残っているらしく、八条寺は照れながら顔を背けた。
……何だか八条寺が可愛く見えてきた――と思った瞬間、
「ハァーーックショイ!!」
八条寺は豪快にくしゃみを放出し、鼻を擦りながらキョロキョロと辺りを見渡しだした。
「ぐすっ。……ん? オレはいったい何を……?」
「何をって、まさかお前覚えてないのか?」
「覚えて……? いや、何となくは解るような気がするんだが……」
これはどういう事だろう? ――いや、考えなくても解る。きっと発明品の効力とやらが切れたのだろう。
チラリと女々ちゃんの顔を見てみると、片手で口元を隠しながら興味深げに八条寺の全身を見ていた。
「女々ちゃん、これって……」
「……はい。お察しの通り、解けちゃったみたいですね。しかも上書きしている際の記憶も不安定みたいですし……。うーん、でもどうしてなんだろう……? 理論上は完璧だったはずなのに……」
ぶつぶつと呟きながら部屋中をぐるぐると歩く女々ちゃんを見ていると、不意に『ゴン、ゴン』とノック音が聞こえてきた。
『おーい、荒木ー? 俺だけどよぉーいるんだろー? 開けてくれよぉー』
「「「――ッ!!」」」
一瞬にして空気が固まった。
「も、もう来たのか……!?」
「みたい、ですね……」
壁時計に目をやると、先ほど芦屋にメールを送ってからまだ三分しか経過していない。
本校舎から部室棟までは歩いて三〜四分の距離であり、加えて四階まで上がるとなると更に一〜二分ほどかかる。
元々部室棟へと向かっていたのかそれともダッシュしたのかは解らないけれど……なんにせよ、素面状態の八条寺を芦屋に会わせたら、きっと今朝の二の舞になることは必至だ。
今のコイツらを接触させるわけにはいかない! なんとかしないと!
「ど、どうするんだよ荒木! オレ、今の状態でアイツには会えねぇよ!」
「……一度」
「……?」
「……もう一度、さっきの機械を使おう。今の八条寺を芦屋に引き合わせても、きっと同じ事の繰り返しになると思うんだ。だから、ここはさっきの機械を使ってだな、もう一度八条寺ではない八条寺になるべきだと思う」
「……そうか、そうだよな。……確かにいつもの俺じゃあまた芦屋を殴っちゃいそうだし。……よし、芭逸。もう一回、さっきのをやってくれよ」
「――解りました八条寺先輩! それじゃあ、またそこに座って下さい!」
がたがたと大きな音が聞こえた事を不審に思ったのか、芦屋が「おい? 大丈夫か?」と怪訝そうな声をかけてくる。
「先輩……!」
「……ああ!」
再び機械を作動させ、八条寺の眼前で五円玉を揺らす女々ちゃんとアイコンタクトを交わし、俺はゆっくりとドアノブを握り――
「おらぁっ!」
ぐっと力を込めて、力任せにドアを半分ほど開いた。
続く




