へん人No.7 八条寺茹美 その5
芦屋「う……ううん、ここは……?」
海雪「あらぁ、お目覚めのようねぇ。よく眠れたかしらぁ?」
芦屋「美幸先生……ってことは、ここは保健室ですか?」
海雪「そうよぉ。荒木くんが倒れたアナタを運んでくれたらしいわぁ」
芦屋「荒木……。――あれっ? そういえば俺は何で気を失ったんだっけ?」
海雪「……さぁねぇ?」
芦屋「思いだそうにも……思い出せない……」
海雪「きっと記憶障害が起こってるのかもしれないわねぇ」
海雪「まぁ、触診もしてみたし異常らしい異常も無いみたいだから戻っていいわよぉ?」
芦屋「…………」
海雪「……芦屋くん?」
芦屋「あれっ? あれあれ? あぁっ! 何か思い出しそう!」
芦屋「先生ぇ! もう少し俺の体を触って下さい! 思い出せそうな気がするんです!」
海雪「いいから教室に戻りなさぁい? もう四時間目終わっちゃうわよぉ?」
芦屋「いいです! そんなの関係ありませ――えっ?」
海雪「あ、チャイム鳴ったわねぇ」
芦屋「えぇぇぇぇぇっ!?」
以下、本編です。
それから四時間ほどが経過し、俺は黒髪ロングの栖桐華菜乃と、隣のクラスからやってきた栗髪ショートの朽葉千羽と共に、周囲の机を合体させてから一緒に昼飯を食べた。
まぁ、話していた内容は特に当たり障りもない事だったので割愛だ。
「よし、そろそろかな」
席を立ち上がり、八条寺茹美の席を見てみると、ちょうど目が合った。
保健室で起こった出来事と、女々ちゃんからの伝言は既に八条寺へと伝えている。
目が合ったって事は、俺が昼飯を食べ終わるのを今か今かと待っていたのかも。
「あれ……? 彰君……どこに行くの?」
購買で買ったパンの袋を丸めながら八条寺に「行くぞ」という意味を込めてアイコンタクトをした瞬間、怪訝な顔で華菜乃が首を傾げた。
「ん? あぁーー、……ちょっと、な」
「……歯切れが悪いねアックン、ボク達に何か隠し事でもしてるの?」
「い、いやそういう訳じゃ」
……まぁ、ぶっちゃけしてるんだけどな。
実を言うと、朝でのやりとりを八条寺に報告した瞬間、思いっきり尻を蹴られたのだ。
年末の特別番組で出演者が味わっている『タイキック』ってきっとあんな感じなんだろうな。……あぁ、思い出しただけでも尻に痛みが……。
「「……ふーん」」
そんな俺の様子を見ていた二人が揃って半眼を作るので、俺は作り笑いをしながらダッシュで教室を後にした。
「荒木ー! ちょっと待てよぉー! あ、おい待てって! ――待てやぁぁぁ!」
「うおっ!?」
早歩きをしながら二階へ下りる為の階段に差し掛かったところで、八条寺の声と上履きが後ろから飛んできた。
「あっぶねぇ! お前、階段で転んだらどうするんだよ!」
すんでの所で躱し、床に叩きつけられた上履きを拾い上げて持ち主の元へと投げ返す。
「だったら置いていくんじゃねーよ!」
「ご、ごめん」
「びっくりしただろーが!」
「だからごめんって――」
「……寂しかっただろーが」
「……はい?」
上履きを履きながらそう言い残し、八条寺が横切る。
「なぁ、八条寺」
「……なんだよ」
「寂しかったってどういう事だよ?」
「だってよ……一人で、見ず知らずの後輩に会いに行くなんて緊張すんじゃんか……」
あぁ、そういう事な。しかしまぁ、八条寺の意外な一面がどんどん露見するな。
この調子でコイツと一緒に居続けたら丸裸に出来るんじゃないだろうか? もちろん、性格な精神的な意味でな。
その後、俺達は特に会話らしい会話をしないまま、部室棟四階の『メメントモリ・カルマ部』前に到着した。
「なぁ、荒木」
「ん? どうした」
「ここって……いったい何をする部活なんだ?」
「…………」
「そもそもこの、メメントモリ・カルマってどういう意味なんだ?」
「…………」
えーっと、何て説明するべきか。名前の由来はおそらくただの語呂合わせみたいなモノだと思うけど。うーーーーん……。
「知らね」
「語呂合わせですっ!!」
「「ほわぁーーーーっ!?」」
言った瞬間、いきなりドアがぶち開けられ、中から女々ちゃんが飛び出してきた。
「やっと来てくれたんですねっ! 待ちくたびれましたよ!」
そしてそのまま俺目掛けてタックル!
「うおらっ!」
何となく予想はついていたので踏ん張る事に成功!
いつものようにそのまま押し倒される事なく、俺は女々ちゃんの両脇を持ち目の前に立たせた。
「えへへ、先輩もかなり女々花の扱いが解ってきたじゃないですか♪」
「そりゃ毎回タックルされちゃあな」
「あ、荒木……」
「ん、あぁ悪ぃ悪ぃ」
不安そうな顔を向けてくる八条寺を女々ちゃんへと紹介するため、大仰な咳払いをしてから向き直る。
「女々ちゃん、こちらが件の八条寺茹美。八条寺、この子が芭逸女々花ちゃんだ」
「初めまして♪」
「は、はい……」
いつもの雰囲気はどこへやら。『はい』と返事こそしたものの、八条寺は警戒する猫のように俺の後ろに隠れた。
「さ、それじゃあ立ち話もあれですし、中へどーぞ先輩方♪」
ぶち開けられた扉が閉まり始めるのを足で抑えながら女々ちゃんが、手招きをする。
何の疑いもなく足を踏み入れようとする俺とは対照的に、八条寺はまるでトラップだらけのダンジョンを探索する冒険家のように、キョロキョロと辺りを伺っている。
「女々ちゃん、これ……何?」
「ふっふーん、女々花はこれを見せたかったんです!」
そこで俺達が目にしたものは、
「改良型無個性矯正機――その名も『無個性なキャラクターは主役への夢を見るか?』くんです!」
「また珍妙なモノを……」
三十センチほどの巨大な携帯ゲーム機だった。
続く




