へん人No.6 芭逸女々花 その11
急いで仕上げたのでクオリティがあれかもしれません。
誤字脱字謎展開があったら気軽に言ってください(๑´ω`๑)
気絶した芦屋を背中に担ぎ、何とか学校にたどり着いた俺は教室ではなく、保健室へと向かった。
何故かと問われると、理由は簡単だ。
「重てぇ……」
俺たちの教室は四階建ての三階にあり、しかも移動手段は――もちろん――階段。
わざわざ三階まで担いで上がるなんて面倒だし、何より気を失っている芦屋を教室に直接連れていったところで、HRまでに目を覚まさなければ、結局はまた誰かが芦屋を一階の保健室まで連れて下りないといけない。
あの担任の事だ、どうせ面倒くさがってその役目も俺に押しつけてくるに違いない。
あぁ、面倒な事この上ない。
芦屋には悪いが、二度手間なんてまっぴらごめんだ。
「……ふぅ。えっと、HRまでは……あと二十分か」
ずり落ちそうになった芦屋を背負い直し、校舎の壁に掛けられた時計を一瞥。
これなら朝のHRには余裕で間に合いそうだ。
ズルズルと芦屋の足を引きずりながら、保健室の戸を二回ノック。
「……あれ? 美幸先生いないのか?」
いつもならこうしてノックすれば、保健室の先生である海雪美幸先生が返事をしてくれるはずなんだけど……何も反応が無い。
「……失礼しまーす」
つま先で戸を開けてから中を伺ってみるも、やっぱり美幸先生はどこにもいなかった。
まぁ、美幸先生にはとある癖があるうえ、それの最中だったら目も当てられないので少しだけホッとしたりもしたのだけれど。
「……それにしても参ったな、芦屋どうしよう」
流石に教室には連れて上がりたくないしなぁ。かと言って、このまま背負い続ける訳にもいかないし……。
「……うーん、とりあえず寝かせておくか」
二つ並んだベッドまで芦屋を運び、背中から少しだけ力んでベッドへと放り投げる。
これで目を覚ましてくれればよかったのだけれど、芦屋は「うきゅっ」と小動物のような声を上げ、そのままベッドの上で軽く弾んだだけだった。
「……何ですかぁ? 今の声……」
隣のベッドから眠たそうな声が聞こえ、ベッドと外界を仕切っていたカーテンが開かれる。
「あれ? 女々ちゃんじゃん、なにしてんの?」
眠たそうな目を、ダボダボなカッターシャツの袖で擦りながら現れたのは、後輩であり『メメントモリ・カルマ部』――略してメメカ部……だっけ?――の部長でもある芭逸女々花ちゃんだった。
「ふぁぁ……何って、見て解りませんか先輩。……サボリですよぉ、サ・ボ・リ」
「…………」
一時間目どころかHRからサボリかよ。この子は進級する気がないのだろうか。
「はわぁ……で、先輩は芦屋先輩を連れて何をするつもりなんですか? 見たところ……気を失ってるみたいですけど」
「あー……これな」
……何て説明しよう。状況が状況だし、一から説明してたらHRに間に合わない気がする。
「何か言えない訳でもあるんですか?」
「い、いやぁ? そう言う事ではないんだけどさ。ただ、朝のHRまでもう時間がないだろ? 説明する時間が惜しいなって思って」
「え、先輩って真面目に朝のHR出てるんですか!? うわー真面目ちゃんですねー。あんなの出なくてもいいんですって」
「おいおい……」
やる気が微塵も感じられない一言だった。この子は本当に何をするために学校に来ているんだろう。
「まぁ、先輩に説明している時間がないってのは解りました。じゃあこういうのはどうです?」
「こういうの?」
「はい。昔からよくある手段の一つに『かくかくしかじか』ってあるでしょう? 女々花達もあれをするんですよ♪」
片目を瞑りおちゃらけた感じで舌を出す女々ちゃん。うーむ、かくかくしかじか……ねぇ。
「いや、それで話が通じるなら使うけど。ああ言うのが通じるのって、だいたいフィクションの世界だろ? 漫画とかアニメのさ」
それに『かくかくしかじか』なんて死語と化しつつある言葉、最近では二次元の世界でも聞かない。
そんな、絶滅危惧種を使ったやりとりで……果たしてちゃんと意志疎通出来るもんかね?
「いいからやってみましょうよ! 時間が無いんでしょ先輩?」
言って、女々ちゃんがベッドの上で正座をする。
「うーん、伝わるとは思わないけど……まぁいいや、いくぞ?」
「はい! バッチ来いです!」
頭の中で、女々ちゃんに伝えたい事を軽く整理してから、「すぅっ」と息を吸い込む。
「か、かくかくしかじか」
「ふむふむ、ぱくぱくうまうまと言うわけですか」
「おぉっ!? 通じた!?」
言い終えた瞬間、女々ちゃんは腕を組み、数回首肯した。
まさか本当に通じたとは……! 人間ってスゴい!
「それにしても、大胆というか何というか……」
大胆? あぁ、八条寺が考えた作戦の事か。
でも、あれって言うほど大胆だったか? 言ってしまえば結構ありきたりな作戦だったと思うんだけ――
「ちょっと待って女々ちゃん、なんで上着を脱ごうとしてるんだ」
「……え? だってさっき先輩が言ったじゃないですか。『下着を俺に見せろ』って」
「言ってないし通じてないじゃないか!」
しかも何だよその解釈! どこをどうすればそんなトンデモ理論に行き着くんだよ!
「女々花みたいなロリに反応するなんて、先輩も物好きですね……」
うっすらと染めた頬を背けながら、女々ちゃんが自分の襟をキュッと掴む。
「でも、先輩なら……いいですよ?」
しかもいつの間に解放したのか、ボタンはその全てが東西へと分断されており、白を帯びた肌色が首から――白い布を経由して――ヘソへと向けて一直線に伸びている。
「――って違う!」
「違うって何がです? あぁ、もしかして女々花の下着の色がですか? あれ、先輩って白が好きなんじゃありませんでしたっけ?」
「確かに白は好きだけど! でもそれ以前に疑問に思うところがあるでしょうが!」
「んもう、解ってますよー。さっきのもただの冗談ですってばー」
そう言って、女々ちゃんはニヤニヤしながらシャツのボタンを下から留めだした。
「……冗談キツいよ女々ちゃん」
「えへへっ、だって、先輩の困ってる顔を見るの好きなんですもん♪」
「…………」
茶目っ気全開の女々ちゃんに呆れていると、後ろから間延びした色っぽい声が聞こえてきた。
「あらぁ? どうしたのぉ?」
振り向くと、そこには保健室の先生とは思えないような金髪を携えたバインバインな女性――美幸先生が立っていた。何がバインバインなのかは……まぁ、言わなくても解ると思うので割愛。
「って、芭逸ちゃんまたサボリぃ? 先生はあんまり関心しないわねぇ」
「えへへ、だってここのベッドふかふかなんだもん♪」
「まったくもぉ……授業が始まるまでには教室に戻るのよぉ?」
「はーい」
二人のやりとりから察するに、どうやら女々ちゃんは、保健室の常連らしい。
「あのー美幸先生? ちょっと、芦屋の様子を見てもらえませんか? 今朝地面で頭を打って気絶しちゃったみたいなんです」
「んー? いいわよぉ。臨時の職員会議でだるかったけど可愛い生徒の為ですものぉ。先生は一肌も二肌も脱いじゃうわよぉ」
そう言って、美幸先生は実際にプチプチと白衣のボタンを慣れた手つきで外しだす。
「脱がなくていいですっ! 脱がなくていいですから!」
「いいじゃなぁい。保健室って、風通し悪いくせに日当たりは抜群だからとっても暑いのよぉ?」
美幸先生のとある癖。それは『暑がりなせいで、直ぐに上着を脱ぎたがる』というものだ。
本人はそこまで気にしていないみたいだが、我が校の男子生徒達は日が昇って気温が上昇しだすと同時に、何故かここに殺到する。
「いいから着て下さいよ! それに、暑いのならクーラーを効かせればいいじゃないですか!」
「……それがねぇ、ついさっきお爺――校長先生から『電気を使いすぎだー!』って怒られちゃってぇ、今日から省エネをしないといけないのぉ」
ぼやきながら美幸先生は外したボタンを留め始めた。
あ、そういえば一つ言い忘れたが、この露出狂……いや、美幸先生は校長の孫でもある。
「あぁ、それは大変でしたね」
「反応が薄いじゃなぁい、つれないわねぇ。……まぁいいわぁ。ところで、芦屋くんはどうして地面で頭を打ったのかしらぁ?」
美幸先生が椅子に座ってから、クルクルと回り出す。
「え、えーっと……」
またこの流れか……。どうしよう、やっぱり一から説明するべきなのかな。
「先輩先輩」
ちょいちょい、とベッドの上から女々ちゃんが手招きをしてくるので、しゃがんで耳を傾ける。
「説明するのが面倒くさいんだったら、さっきのアレをすればいいんじゃないですか?」
「……それって、もしかしなくてもアレの事か?」
「ですです♪」
「いや、女々ちゃんには通じなかったじゃん」
「あれは冗談ですよ♪ ちゃんと聞き取れたうえでボケてみたんです♪」
…………尚更質が悪い、質が悪いよ女々ちゃん。通じていたのなら最初からそう言ってよ女々ちゃん。
まぁ、なんにせよ『かくかくしかじか』で通じるのなら話は早い。
壁時計を見ると、HRが始まるまで既に残り十分を切っていたので、俺は今朝の出来事を再構築しながら美幸先生に向かって、例の八文字を言った。
「実は……ですね」
「実はぁ?」
「か、かくかくしかじか……って事で、芦屋は頭を地面で打ったんです!」
「…………」
途端に沈黙する美幸先生。……こ、この反応はどっちなんだ?
「なるほどぉ。要するに、出会い頭で思いっきりラリアットをお見舞いされたから、地面に頭をぶつけてちゃったのねぇ」
「は、はい!」
つ、通じたっ! 女々ちゃんの言ってた事は本当だったんだ! 文字にすれば何行も書かなければいけないような説明を、たったの八文字で済ませてしまえるなんて! やっぱり人間ってスゴい!!
「そしてぇ……芦屋くんの目を覚ますために、荒木くんは先生に『脱げ!』って言いたいのねぇ?」
「――って後半っ!!」
前半は完璧だったのに、どうして後半がおかしく伝わってるんだよ! これじゃあ俺がただの変態みたいじゃないか!
「可愛い生徒のためなら仕方がないわねぇ。それじゃあ早速――」
「生き生きとした表情をしながら、上着を脱がないでください!」
再び白衣のボタンを外しだそうとしたので、俺は美幸先生の両手をガッチリと掴んだ。
「脱げって言ったのは荒木くんじゃなぁい」
「生徒の発言を出汁に脱ごうとしないで下さい! それ以前に俺は言ってませんから!」
「だって暑いんだもぉん」
脱ぐチャンスを失ったからか、露骨にしょんぼりとする美幸先生。
「さ、早く芦屋を見てやってください」
「んもぅ、解ったわよぉ。――あら、そういえばそろそろHRが始まる時間じゃないのぉ?」
「えっ? あ、本当だ」
再び壁時計に目をやると、いつの間にかHR開始までの残り時間は五分を切っていた。
「芦屋くんの事は見ておいてあげるからぁ、教室に行っていいわよぉ?」
「それじゃあ、芦屋の事よろしくお願いします。失礼しま――」
「あ、先輩!」
教室に行くために保健室を出ようとした瞬間、女々ちゃんが俺の手を掴んできて、
「ん、どうしたんだよ女々ちゃん?」
「あのですね……」
俺にしか聞こえないくらい小さな声でこう言った。
「今日のお昼に……メメカ部まで来て下さい。その、八条寺って方と一緒に」
続く




