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友だちはへん人ばかり  作者: せい
第五話 八条寺茹美の荒ぶる接近
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へん人No.7 八条寺茹美 その1

 ――放課後。


 俺は数人のクラスメイト達と共に教室に残り、シャーペンを片手に黙々と問題を解いていた。

 ……最初に言わせてもらうが、これは決して自習などではない。これは――


「お前らぁ! 今日は夏休みの課題が終わるまで帰らせないからな!」


 補習――もしくは居残りとも言う――なのだから。


「まったく……お前達は夏休みを一体何に使っていたんだ!? 高校二年の今から、そんな風にだらけた生活を送りやがって! いいかぁ? 俺がお前達くらいの歳の頃にはなぁ――」


 さっきから、工事現場の重機の様に口うるさく怒号を飛ばしているのは、数学とがいる隣のクラスの担任を兼ねている、ごうという先生だ。

 三十六歳、彼女無し。『生徒には皆平等に』をモットーに掲げている、良い意味でも悪い意味でも暑苦しい人だ。

 ……つーか、俺の周りには暑苦しい人しかいない気がする。精神的にも肉体的にも。


「――で、そこで俺は刑事さんに言ってやったわけだ。『コーラじゃあ、人なんて殺せねぇ』ってな。そして、俺の一言で事件は解決したってわけだ」


 話の流れが全くと言って良いほど解らない。どうすればコーラと殺人が繋がるんだ?


「あのー、聞いてなかったんでその話、もう一度最初から言ってもらってもいいですか?」


 あ、ヤバい。こんな言い方をするとまるで先生に喧嘩を売っているみたいじゃないか。


「あぁ!? 俺に喧嘩売ってるのか荒木ぃ! いいからお前はさっさと課題を課題を終わらせろ! もう残ってるのはお前一人だぞ!」


 やっぱり怒られた……。そりゃそうだよな、誰だってこんな聞き方をされたら話す気なんて起きない――


「……えっ?」


 慌てて教室を見渡すと、土郷田先生の言う通り、夕日が射す教室には俺と先生の姿しかなかった。

 ……どうやら他の生徒達は、そこまで課題が残っていなかったのか、早々に終わらせて退散したみたいだ。

 音も立てずに帰りやがって……。まるで忍者みたいだ。帰る前に一言くらい声をかけてくれてもいいだろうに! もしくは俺の為に課題を見せてくれてもいいだろうに!


「荒木、課題は後どれくらい残っているんだ?」


 先生が腕を組み、若干の『早く終わらせてくれよオーラ』を纏いながら聞いてきたので、俺は済ませていない最後の課題である世界史のプリント集をヒラヒラと振った。


「そうか。それじゃあ……後三十分もあれば終わるか?」


「そうですね、後一時間もあれば終わるかと」


「さり気なく延長するんじゃない!」


 チッ、バレたか。イケると思ったのに。


「いいか!? 後三十分で必ず終わらせるんだぞ! 俺は職員室にいるから、済んだらちゃんと鍵を閉めて職員室まで持って来い!!」


「最後まで居てくれないんですか?」


「俺にも色々とやる事があるんだよ!」


 それだけ言い残し、土郷田先生は肩を怒らせながら教室を出ていった。


「……先生も無茶な事を言うなぁ」


 机の上に置かれたプリント集を捲り、終わっていないプリントの数を確認する。

 ひぃ……ふぅ……みぃ……うわ、まだこんなに残ってるじゃん。……しかも上から下までみっちり記入しないとけないヤツだし、これを後三十分で全部終わらせろとか――


「無理ゲーすぎる!」


 ラスボスがいる長い長いダンジョンを、回復無しでクリアするくらい厳しい。難易度に例えるならナイトメアってところだろうか。


「まぁ、どう考えても終わらないだろうな」


「だよなー。絶対終わらないよなー」


「あぁ、絶対に無理だろコレ」


「だーよーなぁぁ……。……んっ?」


 ……んんっ? 今俺は誰と話してるんだ? この教室には俺しか残っていないはず……。

 寝かせていた首をもたげ、声のした方向を振り向くと、そこには赤いジャージに身を包み、野獣の様な鋭い目を光らせながら、赤と黒のメッシュがやけに似合う女子が立っていた。


「や、じょう――むがっ!?」


 声を上げた瞬間、八条寺に顔の下半分を片手で掴まれた。


「大きな声を出すんじゃねぇよっ!」


「む、むがが……」


 そ、そうは言われても……口と鼻を塞がれたら息が出来ない……!


どっ(ほっ)()()()()ひょう()()()にっ(ひっ)!?」


「……? 何言ってんだ荒木? 全然聞こえねーよ!」


()()()()あえ()ほへ()()()()()()()()()……」


「あぁ? だから何だって?」


 コイツわざとやってるんじゃないか!? つ、つーかヤバい! 息は出来ないしガッチリと掴まれている頬骨が激しく痛む! は、早く何とかしないとこのままじゃあの世に一直線だ! どうすれば……どうすればいい……!? ――そうだアレだ! アレをするしかない!!

 俺は鋭い目で睨みつけながら、万力のように力強くホールドしている八条寺の手のひらを――


「ペロっ」


「ヒッ!?」


 一舐めした。


()()()……!? ()()()()!?」


 祈るような気持ちで顔を見てみるも、八条寺は髪の毛を逆立てながら固まっているだけだ。

 くそっ! 一舐め(シングルペロ)じゃあダメなのか!! だったら!!


「ペロペロっ」


 今度は一舐め(シングルペロ)の二倍である、二舐め(デュアルペロ)に踏み切る。単純計算で威力は二倍っ! これならどうだ!?


「ちょ、ちょっと! 何すんだよ荒木――」


 目をまん丸と見開き、驚愕と恐怖を足して二で割ったような顔で俺の目を見てくる。しかし、それでも八条寺はアイアンクローを解く素振りを見せない。


 だったら――倍返しだ!


「ペロペロペロペロペロペロペロ」


「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 舌筋が引き攣るまで舐め続けてやるっ!!


「レロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロ」


「や、やめろぉぉぉぉッ!」


 舌の上でチェリーを転がすように手のひらに舌を這わせ続けると、観念したのか、八条寺はようやく俺の頬を解放してくれた。


「…………ふぅー。あーーーー! 娑婆の空気美味ぇーーーーッ!!」


 登山をして、山頂で下界を見下ろしながら吸う空気のように絶品だっ!


「…………おい荒木」


「――ん?」


 両手を使って深呼吸をしていると、何故か涙目の八条寺がわなわなと震えながら拳を握り締めている。


「どうした?」


「……どうしたもこうしたもないだろ……!」


 ――刹那、握り締めた拳を捻りながら振り上げ、


「なぁぁぁぁにしてくれてんだぁぁぁぁッ!!」


 座ったまま見上げる俺の腹部目掛けて、逆鱗に触れられた龍の如く怒りに満ちた顔でコークスクリューパンチをぶち込んできた。


「…………ぐっ、はぁっ!!」


「……お前が悪いんだからな。他人様の手を舐めるからだ、バカ」


 八条寺が俺の制服で手を拭いながら吐き捨てる。


「……………………」


『彰君……いのちを大事にね…………ちを大事にね………………にね……………………』


 朝、から言われた台詞が脳内リフレインし続ける中、俺の意識は八条寺の「やべっ、やりすぎたか!?」という声を聞いたところでブッツリと…………途切れた。


 続く


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