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友だちはへん人ばかり  作者: せい
第五話 八条寺茹美の荒ぶる接近
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へん人No.EX ナマ先生 その2

 楽しかった夏休みも終わり、今日から新学期が始まった。


『おはよー』


『ウーッス、お! お前焼けたなー』


 この一ヶ月の間、夏の海や山をたっぷりと堪能したのか、肌を焼きたての揚げパンの様に真っ黒けに日焼けした男子達に、


『…………』


『……あれ誰?』


 この一ヶ月の間、様々な体験をたっぷりと経験したのか、肌を剥きたての天津甘栗の様に真っ茶色に焼き金髪ギャルと化した一部の女子。

 それぞれが見て、聞いて、知った、ひと夏の思い出を和気藹々と意気揚々と語りあっている中――


「…………やばい」


 俺だけは、頭を抱えたまま机に突っ伏していた。


「オーッス諸君! 夏は楽しんだかねー? ってどした荒木!? 授業中、トイレに行きたくて手を上げたのに『お、珍しくやる気があるじゃあないか荒木! よし、それじゃあこの英文を全部訳してみろ』って先生に言われた時みてーな顔してよー!?」


 そう言って、イケてるフェイスを曇らせながら俺の容態を気にしてくれるのはあししゅん。俺の親友であり、まぁ、悪友でもある。


「的確な例えをどーも。……解るだろー? 夏休みが終わったんだぜ? お前が言うところの『人生で一番楽しい夏休み』ってのが終わっちまったんだぜ? そりゃあこんな顔にもなっちまうだろー」


 楽しい時間ほどあっという間に過ぎていく……。まったく、どうにかしてほしいよ。相対性理論アインシュタインめ。


「確かにそりゃあ一理あるな。でもよ! 夏休みにあんだけ遊べたんだからいいじゃねーか!」


「まぁなー」


 七月はほとんどダラダラと自堕落にしか生活していなかったけれど、八月は色々あったもんなぁ。

 海にも行けたし、女子の水着姿も見れたし、スイカ割りもしたし、旅館で露天風呂――説教が終わったのが朝だったから朝イチで――にも入れたし。


「おはよう……。あ、彰君、芦屋君、おはよう」


「おう、おはよー」


 教室のドアが開き、数人の生徒が教室へと入ってくる。

 その中の一人、どうは、透き通るような声で周囲に挨拶をしながら定位置である俺の隣へと座った。


「あ、彰君……今朝はご飯作ってあげられなくてごめんね……」


「ん? あぁ、気にすんなよ。今朝はちゃんと一人で飯作って食べたからさ」


「で、でも……」


 残念そうな顔をしながら華菜乃が俺の顔を見つめてくる。

 夏休みに入る前までは、ほぼ毎朝と言っていいほど早朝から俺の部屋に居座り、朝食を作ってくれていたのだが、夏休み最終日――つまり昨日――の夕方、突然『新学期からは毎日通えなくなるかも……』と連絡を寄越してきた。

 一人の男子として、朝からの顔を見れなくなるというのは……少しだけ残念な気もした。

 だけど、元々強制していた訳じゃあないし華菜乃が家に通うようになる前まで、俺は一人で全ての家事をこなしていた。

 だから昨日、俺はそのまま華菜乃に『気にするなよ』と伝えておいた。


「……彰君が作るご飯って……栄養も何も考えてないし……」


「うッ、そ……それはそうだけど」


 痛い所を突いてくるな……。確かに俺が作る飯は栄養度外視の肉玉料理ばかりだ。

 でも、俺だって年頃の男子高校生なのだから、自分の好きな料理を作ったって罰は当たらないと思う。


「ダメだよ……? 今の内からちゃんとバランスよくご飯を食べておかないと……」


 耳が痛いなぁ……食べておかないと、どうなるっていうんだろう?


「将来……ハゲちゃうよ?」


「野菜も魚もしっかり食べます」


 やっぱりバランスって大事だよね。これからは【ガンガン行こうぜ!】から【()を大事に】に作戦を変更しよう。ハゲたくないし。


「……うんっ! これからはちゃんと気をつけてね……? いのちを大事に。だよ……?」


 理解してもらえたのが嬉しかったからか、頬を赤らめながらにっこりと笑う華菜乃を見ていると、


「おー、朝から見せつけてくれますなぁ! くぅー! 俺も朝飯を作ってくれる子が欲しぃーッ!!」


 眉を寄せ気持ち悪い笑みを浮かべながら、芦屋が俺達に野次を飛ばしてきた。

 うざってぇなぁ……。イケメンのくせにそんなに邪悪な表情を作ると、余計に悪印象を与えると思う。


『荒木の奴……俺達の前で堂々と惚気やがって……!』


『許すまじ……! 許すまじ……!』


『アァァァァァァァqあwせdrftgyふじこlp!!』


 芦屋の肩を殴ってやろうか? と考えていると教室中から、憎しみと妬みがい交ぜになったような視線をバチバチと感じた。

 何というか、この視線だけでヒト一人を死に至らしめるくらいの邪悪さが伝わってくる。

 そんな男子達の殺人光線を大きめの教科書で防御していると、ガラッと教室の戸が開き、我らが担任のさきなま先生が重い足取りのまま、腰を直角に曲げながら入ってきた。ちなみに、俺達は親しみを込めてナマ先生と呼んでいる。


「な、ナマ先生ぇーーッ!? どうしたんですか!! 何があったんですくぁーーッ!?」


「……? あぁ芦屋か……。ハハ、いや何、別にどうという事は無いさ……」


 芦屋と数人の生徒達が教壇まで駆け寄り、心配そうに顔を覗き込むと、ナマ先生は力ない笑顔を浮かべながら出席簿を置いた。


「彰君……先生、すごく具合が悪そうだけど……大丈夫なのかな……」


 華菜乃が表情を曇らせながら聞いてくる。

 確かに、『大丈夫』と言ってこそいるものの、ナマ先生の様子はどこからどう見ても大丈夫じゃなさそうだ。


「もしかして、病気――とか」


 俺の言葉に華菜乃は一瞬ハッとした顔を作り、


「だったら……早く保健室に連れて行ってあげないと……! 先生ッ! 大丈夫ですか!?」


 脱兎の如くナマ先生の元へと走る。


「そんなに心配しなくても大丈夫だ栖桐。私は別に、病気にかかってるとかいうのじゃないからな」


「そうだぞ華菜乃。この人が滅多なことでダウンする訳ないじゃないか」


「で、でも……こんなに辛そうにしてるよ……!?」


「いやいや、先生はきっと……」


 あわあわとする華菜乃の肩に手を置き、目を瞑りながら首を振る。俺の予想が正しければ、先生は病気なんかじゃあなく――


「あーー学校ダリィー」


 休みを愛する者、つまり俺と同じ穴の狢なのだから。

 おそらく、朝っぱらうなだれていたのも長期休暇が終わり、また俺達の面倒を見るのが億劫なだけなのだろう。

 まったく……相変わらず教師の片隅にも置けないような人だ。それに、本当に具合が悪かったら学校に来た時点で他の先生が家に帰しているだろうし。


「ナマ先生、新学期早々に生徒の前で堂々とだらけないで下さいよ。教師ってのは生徒にお手本を示すべき存在であるべきでしょう?」


「そうは言うけどなー、怠ぃモンは怠ぃってーのー」


「まったく……。ま、こういう事だ芦屋、華菜乃。そろそろチャイムも鳴るし席に着こうぜ」


 肩を竦めながら、俺がネタばらしをしたにも関わらず尚も心配そうにナマ先生を見つめる二人の背中を押しながら、席へと戻る。

 すると朝のHRを開始するための予鈴が鳴り、俺達のやり取りを見ていた他の生徒達も、後ろ髪を引かれるような顔をしながら席に着いた。


「あぁぁぁ、それじゃあー新学期一発目のHRを始めるかー」


 せっかく新学期になったってのに、この人は相変わらずの平常運転だな……。

 出席確認を始めたナマ先生を尻目に、頬杖を突きながら窓の外を眺めるとアキアカネが数匹飛んでいるのが見えた。

 もう九月か……。何と言うか……今年も後四ヶ月か……。

 どうして、時間と言うやつは、こうも容易く過ぎ去っていくのだろうか。

 ――光陰矢のごとし。

 ――烏兎匆々。

 ――歳月人を待たず。


「はぁ……。なんかノスタルジックだわ」


 何となく黄昏てしまいたい気分のまま外を眺めていると、一人の生徒が肩に鞄を背負いながら、ゆっくりと歩いているのが見えた。

 遠目からなので顔までは解らない。

 しかし、顔は見えなくとも、俺はそれが誰なのかハッキリと判別する事が出来た。

 セミロングの髪を赤と黒のメッシュにし、学校指定の赤いジャージを両手足共に関節まで捲るという、独特なファッションの着こなし。

 彼――じゃなくて彼女の名前は、同じクラスメイトのじょうゆで

 彼女は、その攻撃的な見た目と粗暴な言葉使いから生徒達の間で“赤い野獣”とか“野獣寺”って――主に影で――呼ばれ、恐れられている。

 とは言え、八条寺を恐れているのは生真面目な生徒くらいなもので、話したことこそ無いが俺は彼女に勝手に親近感を抱いていた。

 それは、俺も八条寺も学習意欲が低いと言う共通項があるからなのかもしれない。


「あ〜ら〜き〜?」


 ふと視線を前へと戻すと、そこには眉間に皺を寄せながら笑っているナマ先生の姿があった。


「そんなに素敵な笑顔を作ってどうしたんですか? 何か良いことでも?」


「さっきから名前を呼んでるだろうがー! 私は早くクーラーが効いた職員室に戻りたいんだからさっさと返事しろやー!!」


「いくらなんでもそれは自分本位過ぎるでしょう!?」


 先生とは言え烏滸がましい! 俺達だって我慢してるってのに!


「うるさーい! いいから早く『ハイ☆元気デス♪』って言えー! つーか先生に向かって烏滸がましいとか言うんじゃなーい!」


「人のモノローグを勝手に読まないで下さいよ!! あと何ですかそのキャラ!? 俺はそんなみたいな返事しませんから!」


 俺の言葉に言われた張本人は「ん? 今俺の事呼んだか?」と首を傾げていたが、華菜乃に「呼んでないと思うよ……?」と言われ「……そっか」と、何故かガッカリしたように俯きながら、鞄の中に手を突っ込んでいた。


『おい荒木ー、いつまで引っ張れば気が済むんだよ』


『そーだぞー! 終わってない宿題とかやらなきゃいけねーんだからとっとと挨拶しちまえー!』


『俺なんかまだ三教科も宿題が終わってqあwせdrftgyふじこlp!!』


 クラス中から俺に向けて狂気にも似た怒号が飛んでくる。

 ……確かに、これ以上ナマ先生と押し問答を続けてもしょうがないか。


「荒木ー! 結局お前は元気なのかー!?」


「……はい。元気です」


「よし、荒木は欠席だなー」


「アンタの耳目は節穴ですか!?」


 今まで話してたじゃん! 目と鼻の先で話してたじゃん! 


「いやそこはさー、やっぱ元気よく言ってほしいってのが私の細やかな願いだったりするんだよ。だから、荒木にはちゃんと『ハイ☆元気過ぎて、先生に逆らう気も起きないくらいです♪』って私は皆に伝えてあげてほしいって思ってるんだ」


 さっきと要求してる台詞が違う!? 


「荒木、さっさと言っちまえよ。じゃないと何時まで経ってもHRが終わらねぇぞ?」


 芦屋が呆れたような顔で俺の顔を見る。

 しょうがない……。言うしかない、か。

 俺は大きく深呼吸をし、クラスの全員に聞こえるように叫んだ。


「ハイ☆元気過ぎてもう――辛抱たまりません!!」


「そう言う事じゃねぇんだよなぁ……」


 残念な子を哀れむような顔でクラスの全員が見つめてくる。


「――あ、あれ?」


 そんな俺を嘲笑うかのように、HRの終了を告げるチャイムが教室に鳴り響いた。


 続く



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