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友だちはへん人ばかり  作者: せい
第一話 栖桐華菜乃の純然たる好意
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へん人No.2 栖桐華菜乃 その4

「なんだあれ……? まさか幽霊か? いやいや、そんなオカルト信じるわけにはいかない。信じてたまるか。そうさきっとあれは『ヒト』だ、れっきとした『人間』だ。そうに決まっている!」


 恐怖に負けてしまわないよう必死に自己暗示をかける。

 もしここで俺が逃げ出しまったらきっと『黒づくめ』の正体は分からないままだし、何より『汗が染み込んだ体操服』を今日中に回収できないと、これからの俺の学園生活に危機が訪れてしまう。

 「荒木くんってさぁ……くさいよね~笑」と陰口を言われることは必至だ……!


「せっかく高校に上がってからは『やっかいごと』に巻き込まれない平穏な日々を過ごせていたんだ。それをたかだか幽霊だか暴行犯だかに邪魔されてたまるかってんだ! こうなったら絶対に正体を確かめてやる!」


 俺は音を立てないよう慎重に歩きながら、廊下に設置してある掃除用具入れからまず長いほうきを取りだし、反対側の戸が開かないよう斜めに立てかけると、今度は短い箒を取りだして両手で握り締めながらバレないように、もう一度廊下から教室の中を覗き込んだ。

 俺が教室に到着してから五分ほど経過していたが、相変わらず『黒づくめの幽霊か何か』は俺の机の辺りで何かをしているようだった。

 どうやらまだ俺がここで様子をうかがっているのはバレていないようだ。

 これならヤツのきょを突いて先手を打つ事ができる。

 両手で握っていた箒を強く握り絞め、俺は足を使って教室の戸を勢いよく開けた。


「オイゴルァァ!! 他人ひと様の机でなにさらしよんじゃーーーーい!!」


「ひ、ひぃ!?」


 怖がっているのを気取けどられないよう、腹の底から精一杯ドスの聞いたヤクザのような重低音のハスキーボイスで――威嚇いかくの意味も込めて――大声を出した。

 『黒づくめ』の姿は教室の中が暗いせいで正体までは分からないが、俺の虚勢きょせいに驚いたということは幽霊ではないはず!

 あーよかった! 幽霊でないならこっちのもんですよ! この箒も真価を最大限に発揮できるってもんですよ!

 精神的に余裕が出来た俺のテンションは上がりっぱなしだった。暴行犯? なにそれ? 美味しいの? 物理が通用するなら、全然怖くないじゃないか!


「……よしっ!」


 俺はもしもの事を考えすぐに逃げられないよう勢いよく開けた戸を足で閉め直しながら、箒を持ちなおした。


「フンッ! フンッ! フンッ!」


 竹刀で素振りをするように、何度も箒を振り上げては振り下ろす動作を繰り返しながら――はたから見れば俺の方が完全に不審者なわけだが、そんなことはお構いなしに――近づく。


「こ……来ないで!!」


「んん~~~~? 不審者が何か言ってるが……聞こえないなぁ~?」


 どう見ても、俺の方が不審者だったが、ここは本物の不審者であるこの人物にプレッシャーを与え続けるために、俺はこのキャラを演じ続けた。

 そして――


「フッフッフッ……とうとう追い詰めたぞ~? どうするね~?」


「…………」


 不審者を教室の角に不審者を追い詰めることに成功した。

 ヤツとの距離はだいたい三メートル。教室の中は暗いままだし、外からの光は全てカーテンでさえぎられていたため、これだけ近づいても顔を確認することは難しかった。

 しかし、このとき俺はあることに気がついた。


「……え、なんで俺の体操服持ってるの?」


「…………」


 不審者が俺の『汗が染み込んだ体操服』を両手で掴んでいたのだ。


「……え、なんで!? どういうことだってばよ!?」


 突然の出来事に不意を突かれた、俺の姿を見て、不審者は好機チャンスと思ったのか、教室の後ろのドアに向かって走り出し戸を開けようとして――


「な、なんで開かないの!? 鍵は開いてるはずなのに!?」


 ――焦っていた。


 不審者の慌てた声でようやく我に返った俺は、捕まえようと不審者に向かって走りだしたが、目が暗闇に慣れていなかったせいで、思いっきりすねを机にぶつけてしまった。


「んあーっ!」


 ついでに変な叫び声まであげる始末。

 って、しまった! このままじゃ逃げ切られてしまう! 追いかけないと! 我慢しないと! でも無理! メッチャ痛い! 俺の弁慶べんけいが壊れちゃうぅぅ!!

 そんな俺の苦しんでいる姿を見て、不審者は余裕で逃げ切れると思ったのか、スタスタと教室の入り口に向かっていた。


「ま……待てぇ……せ、せめて俺の体操服だけでも置いてけぇ……」


 完全に立場が逆転してしまっていた俺は不審者に慈悲じひをかけてくれるよう懇願こんがんしてみた。

 が、不審者は歩くことも、体操服を手放すこともしなかった。

 ――万事休す。完全に詰んでしまった。何故あいつは俺の体操服を返してくれないんだ!?

 痛みのせいで、まともに考えることが出来ない俺は、文字通り手も足も出せなかった。


「チクショウ……! 自分が……情けない……!!」


 一人悔し涙を流す俺を尻目に、不審者はというと、すでに入り口に到着はしていたのだが、何故か教室から出ようとはせず、痛がっている俺の方を見つめて――いる気がして――いた。

 そして不審者が戸を開けようとした瞬間――ガララ! っと、勢いよく教室の戸が開けられた。


「ったくー、何一人で騒いでるんだ荒木ー?」


 戸を開けたのはナマ先生だった。

 どうせ俺がなかなか帰ってこないのを心配したってわけじゃあないんだろうな。


「せ、先生……」


 足の痛みに耐えながら声を振り絞ってみる。


「…………ん? なんでそこで寝てるんだ荒木ー?」


「そ、そいつを捕まえてくれませんか……!?」


 更に声を振り絞る。

 つーか、やべぇ。何も言えねぇ。こりゃあ重症だわ……。弁慶が号泣してる。


「おいおい、寝るなら自分の家で寝てくれないかー?」


「…………」


 流石はナマ先生だ。マイペースにもほどがある。

 尚も悶絶し続ける俺をよそに、ナマ先生が口を開いた。




「どうしたー? こんな時間まで何をやってたんだー?」





どう?」





 忘れ物を取りに行ったまま戻ってこない俺を探しに教室までやって来たナマ先生のその言葉によって、俺の思考回路は完全に停止してしまった。


 何?


 栖桐?


 栖桐だって?


 いま、ナマ先生は栖桐って言ったのか?


 何だって栖桐がこんな時間に学校に残っているんだ?


 再び頭の中がはてなマークで埋め尽くされていくのを感じながらも、ようやく痛みが引いてきた、すねさすりながら立ち上がり、二人の元へ向かおうと思ったが――


「……っ!!」


「あ、おい待て栖桐ー!」


 栖桐が脱兎だっとの如く走り出し、あっという間に俺たちの前から姿を消してしまった。

 「んー? 何だったんだ?」とナマ先生が首をかしげながらも手探りで教室の電気を点け、そしてグチャグチャになった机のそばに立っている俺を見ると、右手で頭をポリポリとかきながら非情に面倒臭そうな顔で俺にこう言った。


「荒木ーお前が責任持って片付けろよー『栖桐あれ』も『教室これ』もなー」


 と。



 続く

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