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友だちはへん人ばかり  作者: せい
第四話 俺たちの満ち足りたる夏休み
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へん人No.5 天野寺薬 その6

「第一回! チキチキ! クイズ大会ーーッ!!」


『ウォォォォォォーッ!!』


 旅館に到着し振り分けられた部屋にてシャワーを浴び、備え付けの浴衣に着替えた俺たちら一階の宴会場へと向かった。

 そして宴会場へと入った瞬間、マイクを持ったあまでらさんがステージの上から叫んだ。

 彼女は――長時間眺めていると視力に悪影響を及ぼしそうなくらいテカテカした、ラメ入りの蛍光イエローの――スーツに身を包み、何故か働こうとせずにギャラリーと化している、五十人くらいの従業員達に向かってウインクを飛ばしている。


「この人達って……の従業員……だよね……?」


「はい、恐らくは……。って言うか、こんな事してる暇があったら仕事をしてほしいです……」


 あまりの異空間っぷりにただただ唖然としているあしを除き、()ちゃんが呆れた様な顔で熱狂しているギャラリーを見ていると、ステージ上の天野寺さんが目配せをしてきた。どうやら俺たちに上がってこいと言いたいようだ。


「……とりあえず上がろか。天野寺さんも待ってるみたいだし」


「そ、そうだね。皆がボク達を見てるし、さっさと上がっておかないと」


 五十人が向けてくる百もの視線に耐えながらステージに上がり、芦屋、華菜乃、俺、千羽、女々ちゃんの順に並ぶと目の前の床がパカッと開き、下からクイズ番組でよく見かけるパネル式の台がせり上がってきた。


「すげぇ! めっちゃ本格的じゃねーか!!」


「芦屋君……こういうの好きなの……?」


「いや、そこまでじゃねーけどよ! ただまぁなんつーか? やっぱり普段テレビでしか見ないモンをいざ目にするとテンションが上がるっつーかさ! あー自分でも何言ってるかよく解んなくなってきた! でもさぁ! くちさんなら俺の気持ち解ってくれるよね?」


 まるで人が変わったように饒舌に話しだし、華菜乃の隣でパネルを弄っている千羽に話しかけるも――


「ねぇ、そろそろクイズ大会とやらを始めようよ。正直、早くお風呂に入りたいんだよね」


 いつもの如く完全にスルーされていた。流石にちょっと……いや、ほんのちょっとだけ気の毒だ。やっぱり千羽は芦屋コイツのことを完全に『いないもの』だと認識している。


「な、なぁ芦屋……」


「…………」


 無視された事がショックだったのか――本当はコイツがこれくらいの事でへこたれるとは思わなかったけど――俯く芦屋の肩に手を置き、慰めの言葉をかけようとしたが、


「……あぁっ! そうやって邪険に扱われるのも――いいっ!!」


 恍惚とした表情を浮かべているを見ているとそんな気もどこかへ霧散してしまった。

 ……というか、コイツはどんだけ千羽の事が好きなんだろう。本当にめげないヤツだ。


「はいはーい♪ それじゃあ簡単にルールを説明するけん、よーく聞いとってねぇ?」


 天野寺さんが大仰なジェスチャーを交えながらルールを語り出す。


「って、ーてもルールは簡単。アタシがクイズを三問を出すけぇ、皆は答えをそこのパネルに書いてね♪ 全員が書き終えたらアタシが一人ずつオープンさせます。んで、当たっとったら一点あげるます! 最終的に三問目が終わった時点でポイントが一番多い人が優勝! ――どう? 単純じゃろ?」


「じゃあ、最後にポイントが一番多かった人に覗――混浴する権利があるって事ですか?」


()()よー。じゃけん、()ちゃんも一緒に混浴したい人がるんなら、頑張って一位を目指してね! ちなみに混浴権は一人にしかあげんつもりじゃけんよろしくっ!」


「こ、混浴……かぁ……」


 頬を薄く染める女々ちゃんを尻目にニヤリと笑うと「それじゃあ早速第一問!」と声高に言い、何処からか『デ、デ、デン!』と効果音が聞こえてきた。


「パンはパンでも――」


 手元の紙を見ながら天野寺さんが問題を読み上げる。

 って、パンはパンでもって! クイズって言うより小学生、いや、幼稚園レベルのナゾナゾじゃないか! 


「食べられないパンは――」


 これも彼女なりのジョークなのだろうか。まぁ、これが問題だって言うのなら答えてあげるが世の情けだ。さて、しかし何て答えに書こうかな? 世間一般的に答えるとするのならフライパンだろうけど、この世の中には『パン』がつく食べられない物なんて星の数ほどある。

 それに俺は芦屋と違って別段混浴がしたいって訳でもないし。真面目に答えるのも何だかバカらしいな……。

 そうだ! どうせならここで一発ボケに走るのもいいかもしれない。()さん――つーか働け――を楽しませるのも俺たちの役目だろうし!

 天野寺さんは問題を読み上げている途中だったが、俺はフライング気味に手元にあるパネルにペンを走らせた。

 ル、(パー)、ン、三、世。っと。よし、これなら会場もきっと大爆笑間違いなし! 後は天野寺さんが問題も読み終え皆が答えを書くのを待つだけだ。


「多々ありますが、あなたの心を盗んだパンとは何でしょーかっ!?」


「な、何ィーーーーッ!?」


 それってあれじゃん! とっつぁんがお姫様に言った超名言じゃん! しまった! ボケたつもりが普通に正解してる!! い、いや今からでも遅くはない! 答えを修正だ! フライパンへと軌道修正だ!


「あ、ちなみに一度書いた答えは消せんよーになっとるけん気をつけてね♪」


「ノォォォォォォッ!!」


 ……それを先に言ってほしかった。これじゃあ俺が本気で勝ちを狙いに行ってるみたいじゃあないか!

 ……まぁ、書いてしまったモノはしょうがない。……次からは気をつけよう。

 半ば放心状態で芦屋達が書き終わるのを待っていると、一分も経たない内に全員がペンを置いた。


「――お、皆書けたよーじゃね! それじゃあ……一人ずつオープンしてみよーか!」


 天野寺さんが華菜乃の方へ手を向けると、客席側に向けてパネルが表示されたのか『オオーッ』という声が上がった。


「それじゃーまずは華菜乃ちゃんからいってみようか!」


「えっ……わ、私から……?」


「そっ。華菜乃ちゃんから♪ さ、ちゃちゃっと答えちゃって♪」


「え、えぇっと……その、フッ素加工の……フライパン」


 大勢の衆目に晒されているからか、華菜乃の顔は熟した林檎のように真っ赤になっていた。


「はーい違いまーす」


「うぅ……」


 何処からともなく『ブーッ!』とブザー音が鳴り、客席からは『あーーっ』とため息混じりの声が聞こえてくる。


「惜しかったなぁ華菜乃。問題があのまま食べられないパンだったら正解だったのに」


「……? ……どうして?」


「いや、逆にどうして?」


 気にするなと言うつもりで声をかけたのに、きょとんとする華菜乃。


「……だって、フラ()パン()は実際に私の心を盗んだんだよ……?」


「マジすか!?」


「うん、だってね? ……わざわざ油を引かなくてもお肉の油だけで料理が出来ちゃうし、底が焦げる事も無いからとっても重宝してるの。だからね……私はあのフライパンを見たときに心を盗まれちゃったの♪」


「……お、おう。そうだったのか」


 そのフライパンの事を思い出しているのか、明後日の方向を見上げながらうっとりする華菜乃を見ていると再び「はーい、千羽ちゃんも不正解ー」と声が聞こえてきた。


「あれ、違ったんだ。うーん、読みが外れちゃったかなぁ」


 あの様子だと、どうやら千羽も不正解だったみたいだ。


「千羽は何て書いたんだ?」


「ん? あぁ、ボクはね『ビビットピンクのパンツ』って書いたんだけど――いやー、まさか間違ってたとはね。いやはや残念残念」


「そりゃ残念だった――って! それは華菜乃が勝手に用意した俺のパンツの事じゃねーか!!」


 変態だ! 変態がここにいる!!


「油断したよ……。でも、あの毒々しいほどの桃色にボクはハートキャッチされちゃったんだよね。これぞ正しくハートキャッチアラキュアだね!!」


「止めて!! 俺の黒歴史を掘り起こさないで!! あの時の俺はどうかしてたんだ!! つーか、俺言ってないよな!?」


 あれは確か俺のモノローグだったはずだ! それなのにどうして千羽が知っているんだ!?


「まぁいいじゃない。小さい事を気にする男はモテないよ? アックン」


「全然小さくないと思いますッ!」


「ちっちぇなー」


「ちっちゃくないよ!」


 嘆くように叫ぶと、たび不正解時のブザー音が聞こえてきた。


「女々ちゃんは何て書いたの……?」


 まさかのカミングアウトにげんなりしながらも、なんやかんや答えが気になった俺は女々ちゃんに話しかけた。


「女々花は『フライパンじゃあないだろうなー』とは思ってたんですけど、いまいち解らなかったのでパンドラの箱って書きました!」


「パズ●ラ? あぁ、それなら俺のスマホにアプリ入ってるぞ。あれさーコマーシャルでは以外と簡単そうにやってるけど、実際にやってみたらこれがまた以外と難しいのよな。あ、もしかして女々ちゃんもやってるのか? だったら話は早いな! 早速俺とフレンド登録を――」


「パ、ン、ド、ラ! パンドラの箱ですよ! 知らないんですか?」


 ちょっとボケてみただけなのに、滅茶苦茶怒られた……。年下の子に怒られると流石に凹む。


「な、名前だけなら聞いた事あるけど、そのパンドラの箱ってのが何なのかは知らない」


「いいですか? パンドラの箱って言うのは、ゼウスがパンドラと言う女性に持たせた、世界のあらゆる災いの詰まった箱の事です!」


「そりゃまた物騒な箱だな……」


 全知全能のゼウス様はどうしてパンドラさんにそんな箱を渡したんだろう。女々ちゃんの説明を聞くだけだと、重荷を背負わされた彼女が気の毒でならない。


「まぁ、このパンドラの箱にも様々な説があるので気になったのなら後で検索してみて下さい。……一から全部説明するのはちょっとしんどいので」


 不正解からのショックからか俺の無知っぷりに疲れたからか女々ちゃんが嘆息を吐くと、四度目のブザー音が鳴り響き――


『――ッ!?』


 会場が異様な空気に包まれた。

 女々ちゃんが答えた時点で答えていなかったのは俺と芦屋だけで、天野寺さんが俺の前に来ていないってことは必然的に芦屋って事になる。

 例によってまったく解答を聞いていなかった俺は、台の上で両指を組み合わせ口元を隠している芦屋の解答を直接見て――絶句した。


「……あ、芦屋君……」


「……ハァ、本当にキモいんだけど」


 華菜乃は引きつった顔で芦屋を見つめ、千羽に至っては既に顔すら見ていない。でもそれは当然の事だと思った。


「あ、芦屋君。ゴメンけど、もう一回大きな声でーてもろーても……え、えぇかね?」


「……いいですよ、何度だって答えますとも。俺がっ……俺が心を盗まれたパンは――――!」


 唐突に芦屋が立ち上がり三拍ほど間を溜めたかと思うと、力強く拳を握り天に掲げながら思いっきり叫んだ。


「『くちさんが食べている途中で落としたパン』ッだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」


 それは――


 『フッ素加工のフライパン』のような家庭的な答えではなく――


 『ビビットピンクのパンツ』のような衣類的な答えでもなく――


 ましてや、『パンドラの箱』のような神話的な答えでもない―― 


 『千羽が食べている途中で落としたパン』という、親友の俺から見ても絶望的に『気持ち悪い』と思わせるには十二分いや、二十分な答えだった。

 俺は、そろそろコイツとの付き合い方を本気で考えた方がいいのかもしれない。


「あー、えーっと、正解は……荒木君だけが書いとったル(パー)ン三世でした! 正解した荒木君には一点が入りまーす! ハイッ、皆拍手ーッ!」


『………………』


 ――そして、結果的に一問目を正解したのは俺だけだったが、本人を除いた全員が芦屋にドン引きしていたせいで、


「はーくーしゅー!!」


 一問目を無理矢理にでも終えたいであろう天野寺さんが、俺達を含めた全員に拍手を要求するも、


「おっ! 荒木は正解したのか! やるじゃねーか!」


 それに応えたのは芦屋だけだった。


 続く


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