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友だちはへん人ばかり  作者: せい
第四話 俺たちの満ち足りたる夏休み
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へん人No.1 芦屋春日 その9

「二人とも暑くないん? 首まですっぽりと砂に埋まっとるけど」


 埋められている俺達を気の毒に思ったのか、両手にストロー付きの紙コップを持った、水着姿のあまでらさんが心配そうに声をかけてきた。ちなみに彼女の水着は、鮮やかな赤とその豊満な胸元を見せつけるかのように深くカットしているセクシーなものだ。

 下から見上げるとまた一段と迫力満点。太陽を背景に見下ろしている彼女に気づかれないよう生唾を呑み込み、今俺が抱いている率直な感想を述べる事にした。


「そりゃあ……暑いし、熱いです」


 晴天から注がれる灼熱の殺人光線を全身――とは言え、体のほとんどは砂の中なので正確に言うなら顔だけだが――に浴び続けている俺達のライフゲージは、既に安全圏グリーンゾーンから危険域イエローゾーンへと突入しそうな勢いだった。


「ぁ…………荒木……み……みず……」


 というか、鼻血を大量に流出させていたあしのライフゲージはもう限界ギリギリ(レッドゾーン)だった。ツヤツヤしていた肌は土色へと変化しておりその姿は正しく生ける屍……と言うよりかはカラッカラに干からびたミイラのようだ。


「うわっ! 大丈夫芦屋君!? 顔がカッサカサになっとるよ!?」


「あ、芦屋ぁぁぁぁぁッ!! しっかりしろ! 寝るな! お前はこんな所で倒れるような男じゃあないはずだろ!?」


 半ば瀕死と言っても過言じゃない状態の芦屋に呼びかけてみるも、芦屋は「ぁぅぁぅぁぅ……」としか答えない。

 くそっ! どうすればいい!? 一体、どうすれば……!! ――そうだ!


「天野寺さん!」


「ど、どしたん!?」


「今すぐそのストローに口を付けてから芦屋に飲ませてやって下さい!!」


「ええっ!? そのまま飲ませて上げるだけじゃあダメなん!?」


「ダメです! それじゃあダメなんです! 普段の芦屋ならともかく、今の状態のコイツじゃあライフはそこまで回復しません! だから――だから早く! 口を付けて芦屋に直接飲ませてやって下さい!!」


 これは一か八かの賭けだ。芦屋はただ、ドリンクを飲ませてもらっただけでは体力が回復しないだろう。

 だから、ここはこの『美女が持っているドリンク』を『美女が口を付けたドリンク』へと昇華させてやらなければいけないのだ! さすればきっと芦屋は復活するはず!!


「お願いします!!」

 

 砂の中に体が埋まっているので土下座は出来なかったが、動かせる限り首を傾け必至に懇願する。

 そんな俺の姿を見て天野寺さんは「……多分、大丈夫よね」と呟き、ストローを使って一口だけ啜ると、今にも息絶えそうな芦屋の口元にストローを近づけた。

 ……よし! これで芦屋は復活するはず……!

 カサカサになった目を何とか動かし、ストローを確認した芦屋がゆっくりとストローを咥える。


「ぁ……ぅ……ぁぁぅ……」


 最初は弱々しくストローを啜っていた芦屋だったが、


「――う、ウオオオオオオオオオオオオッ!!」


 突如、目をカッ! と見開き、雄叫びを上げながら飛び上がった。


「や、やった! 芦屋が復活したぞ!!」


 ――と、喜んだのも束の間。

 真っ正面にいた天野寺さんと真横にいた俺達の頭上に大量の砂が降り注ぐ中、芦屋は空中で華麗に一回転を決め軽やかに着地すると、目を爛々と輝かせながら「くちさぁぁぁぁぁぁん!! 俺と一緒に泳ごうよぉぉぉっ!!」と叫びながら海へと走っていった。


「う、うわぁぁぁぁぁぁっ!! 来ないで! こっちに来ないでぇぇぇっ!!」


 砂煙を上げながら猛進する芦屋に気がついたが、海中の砂利を投げつけるも、最早野獣となっている芦屋はそれを全て真っ正面から受け止め、合わせた両手を前に突き出し、俗に言う『ルパンダイブ』で海へと飛び込み――


「んがぁっ!!」


 海底に頭を思い切りぶつけ、水死体ドザエモンとなった。

 ……どうやら芦屋は、千羽達が遊んでいた場所が実は足が着くくらいの浅瀬だって事にまで頭が回っていなかったみたいだ。


「……はぁ……はぁ……はぁ」


「……だ、大丈夫? チーチャン……」


「……凄かった……ですね……」


 両手で体を抱きしめている千羽に、一緒に水をかけ合っていた()ちゃんが心配そうに声をかけると、千羽はやや強ばった表情で「………………うん、ありがと」と言った。

 ……とは言え、肩がまだ上下に動いている所から察するに芦屋が千羽に与えた恐怖は拭えていないみたいだ。


「……天野寺さん、そのドリンクってもしかして女々ちゃんが用意したドリンクですか?」


 女々ちゃんが作ったドリンク。

 それは、冷やせば身体能力を爆発的に向上させる事ができ、温めれば反射神経を格段に向上させる事ができるというトンでもない代物だ。

 これを飲めば、どれだけ疲れていようと万全のコンディションで練習や試合に臨めるという、チートのような逸品なのだが……当然の事ながらメリットだけじゃなく、デメリットも存在する。

 冷やした状態のドリンクを飲んでしまうと、身体能力が上がる代わりに理性がほとんどぶっ飛んでしまうのだ。

 ……以前、俺が飲んでしまった時も無駄に何百回と腹筋をしてしまった。

 女々ちゃんの一件が終わった後、残っていたドリンクはナマ先生が全部回収したと思ってたんだけど……。もしかして、また作ってしまったのだろうか?


「ううん、秋茄子君らが来る前に開いた大会で、君らの学校の子を負かした時にもろーたヤツなんよ。賞味期限が明日までじゃったけん、『せっかくじゃし、飲んでみよう』って事になってね。それで三本くらいこの紙コップに入れといたんじゃけど……」


「さ、三本も!?」


 一本でさえ、あれだけ理性が吹っ飛んだってのにその三倍か……。そりゃ、あーなるわ。

 苦笑いを浮かべる天野寺さんに向けて一つ嘆息をし、視線を海へ向けると千羽と華菜乃が芦屋の足を掴んだままこっちに向かって歩いてきていた。


「あ、芦屋くん大丈夫かなぁ……」


 頭に大きなたんこぶを作った芦屋を心配そうに見つめる華菜乃と、


「ふんっ、こんな生ゴミなんてとっとと処分しちゃえばいいんだよ!」


 そんな華菜乃とは対照的に、千羽は、まるで養豚場のブタでもみるかのように冷たく残酷な目をしながら言い放った。

 そして、何処ともなく表れたさんに「こんどは直立で埋めて下さい」と言い、肩を怒らせながら砂浜に設置していたビーチパラソルの中へと入り寝ころぶ。


「彰君……ちゃんと反省した……?」


 シンプルだが、どこか気品さを漂わせるような白いビキニを着た華菜乃が、腰を下ろし俺の頭を撫でながら微笑んだ。ちなみに今回はちゃんと目も笑っている。


「……はい、ちゃんと反省しております」


「ふーん……本当かなぁ……?」


「……はい、この通り反省しております」


「じー…………」


 華菜乃が擬音通りの半眼で俺の目を見つめてくる。俺は、何故か華菜乃の目を直視出来なくて首を横に向ける――も、華菜乃はそんな俺の頭をガシッと両手で掴み無理矢理に視線を合わせた。


「…………!!」


「…………」


 眼前には華菜乃の顔しかなく、否応なくその綺麗な目に見入ってしまう。


 ――漆黒の目。


 ――宝石のように綺麗な目。


 ――吸い込まれると錯覚してしまいそうなほど、蠱惑的な目。


 実際には数秒だったのかもしれないが、何故か俺にはその数秒が数時間にも感じた。


「……うん、ちゃんと反省したみたいだね」


 そう言って、華菜乃は屈託の無い笑顔を俺に向けると、


「チーチャーーン! ()ちゃーーん! 手伝ってーー!」


 日影で不貞寝している千羽と、いつの間にかその横で同じように寝転んでいた女々ちゃんに声をかけ、のそのそと起きあがる二人より一足先に俺の上に積まれた大量の砂を手で払い出したのであった。


 続く


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