へん人No.2&3 栖桐&朽葉 その7
「やぁ、おはよう。スドー」
「お、おはよう……チーチャン」
部屋に入ると、正座をしながら俯いている華菜乃を見下ろすように千羽が立っていた。端から見ると、イタズラがバレて怒られている子供と、父親のような構図だ。
「ず……随分と早いんだね……? 集合時間まで、まだ四十分以上あるよ……?」
「ふふっ。その言葉、そっくりそのままお返しするよ。ね、アックン」
口角を軽く上げながら、千羽が同意を求めてくる。……うーん、とはいえここはどっちの味方をしても好転するとは思えないから……とりあえず今は黙っておこう。触らぬ神に祟りなしってな。
「…………。えいっ!」
何故か体を殴られた。まぁ、千羽の攻撃は全然痛くないからいいのだけど。
「そ、それで……どうしてチーチャンはもう来たの……?」
「ふふっ、知りたいかい?」
「う……うん」
おどおどしながらも華菜乃が頷くのを見て、千羽は大仰な咳払いを一つしてから意気揚々と喋りだした。
「まぁ、ぶっちゃけ言うと勘だよ」
「え、勘なのか!?」
「うん、ギャンブラーとしての勘。昨日スドーから勉強会の話と集合時間を聞いた時に、ボクの第六感がキュピーンときたんだよ。何か、焦臭いってね」
「そ……それだけ……なの?」
「うん♪ それだけ」
「それだけなんだ……」
「……ハンパねぇな」
そう言って得意気にブイサインを作って笑う千羽。勘と言うか何と言うか……。やっぱり、ギャンブラーを自称するだけの事はあって、嘘とか隠し事とかを見抜く力でも持っているのかも。
……千羽の前では隠し事はしない方がいいのかも知れないな。
「ま、スドーの気持ちも分からなくはないよ。ボクもこの前似たような事をしたしね。だから今回の事は不問って事にしてあげる」
「うう……」
「今回は、千羽の方が一枚上手だったみたいだな」
がっくりとうなだれる華菜乃の肩を軽く叩く。
「まぁ、何はともあれこれで役者は揃ったわけだ。集合時間にはまだ早いけど、勉強会を始めようぜお二人さん」
「うん……そうだね。……始めよっか」
「だね。――あ、アックン申し訳ないんだけど、何か冷たい飲み物とかってあるかな? ちょっと喉が渇いちゃってさ」
冷房が効いてるとはいえ、この夏空の下を歩いて来たからか、千羽は暑そうにシャツの胸元をパタパタしている。
確か、黒は白と違って熱や光を吸収しやすいんだっけ。
「あぁ、麦茶か、紅茶か、ルイボスティーがあるぞ」
「そうだね……だったら、ボクは一番搾り的な炭酸を貰おうかな」
「一番搾り的な炭酸なら、確か冷蔵庫の一番奥に……って酒なんかねぇよ! つーか俺たちはまだ未成年だろうが!!」
どうしてコイツらは、こうも思考パターンが似通っているんだろう? 不思議でたまらない。
「冗談だってアックン。うーん、それじゃあルイボスティーを頂くとしようかな」
「オッケー、ルイボスティーな」
やれやれ……。……ん? そういえば華菜乃は何を飲むって言ってたっけ? 確か紅茶だったと思うんだけど……。……ダメだ、思い出せない。どうやら千羽と話してたら忘れたみたいだ。いや、確か紅茶だったはずなんだよ。麦茶のむの字も言ってなかったはずなんだよ。はずなんだけど……、ヤバい。何かドツボに嵌まっていってる気がする。
「彰君、大丈夫……?」
「べっ別に!? 別にどうもしなかったりしちゃいましてのことよ!?」
「……本当に大丈夫かい?」
二人から残念な子を見るような目で心配された。
「実は……その、華菜乃がどのお茶を飲むんだったかど忘れしちゃって……。だからさ、もう一回教えて欲しいんだけど」
「何だ……。そんな事だったの……? 私が飲みたいのは……紅茶だよ」
「――だよな! 何だー! やっぱり間違ってなかったんじゃん! 華菜乃が紅茶で、千羽がルイボスティー! 華菜紅千羽イボね! オーケーオーケー!」
「千羽イボ!? 止めてよアックン! そんな略し方をすると、まるでボクにイボがあるみたいじゃないか!!」
と、何やら千羽が言っていたがあえてスルー。
冷蔵庫からは対応するペットボトルを、食器棚からはコップを三つ取り出し机に置く。
「よし、これで準備完了だな! それじゃあとっとと、宿題を片付けちまおうぜ!」
「そうだね……。さっさと終わらせちゃおう」
「何てったって夏休みだもんね!」
「あぁ、今日で出来る限り宿題を終わらせて、残りの休みを満喫するんだっ!!」
『おーっ!!』
「泳ぎに行くぞーっ!」
『おーっ!!』
「花火をするぞーっ!」
『おーっ!!』
「新しい発明品を作るぞーっ!」
『おーっ!!』
「……ん? 今なんかおかしなのが混ざってなかったか? しかも俺の後ろから……」
ゆっくりと後ろを振り向くと、そこには――パジャマ姿の女の子が、一人の後輩が俺の背中から顔を出し、楽しげに笑っていた。
「面白そうな事をしてますね先輩♪ 女々花も混ぜさせてもらいますねっ」
続く




