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友だちはへん人ばかり  作者: せい
第一話 栖桐華菜乃の純然たる好意
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へん人No.2 栖桐華菜乃 その3

「うへぇ……汗がハンパねぇ」


 俺の前に座っている芦屋あしやが振り向き、手をうちわのようにパタパタさせながらダルそうに聞いてきた。


「荒木ー、制汗剤持ってねぇかー?」


「ハチカケヨン? えーっと……あー悪い。全部使ってたわ」


 本当は少し残っているんだけど、さっき缶を振った時の感触では、残量は五分の一あるかないかだったので、芦屋にあげる気はなかった。渡してしまったら全部使いそうだし。


「わ、私、ハチカケヨン持ってるから芦屋くん……使う?」


「お! サンキュー!!」


 隣に座っている栖桐すどうがカバンからおそらく新品であろう、ハチカケヨンを取り出して芦屋に渡していた。

 帰りのHRが始まるまで残り二分足らず、俺は二人のやり取りを見ながら机の上に置いていた体操服をどうやって持って帰ろうかと悩んでいた。


「あぁ……中に着込んできたのはいいけど、この『汗が染み込んだ体操服』どうやって持って帰ろう」


 カバンに入れるのはもちろん論外だし、直接手で持って帰るなんて、言語道断ごんごどうだんだ。


「よ、よかったらビニール袋あるよ……?」


 両手でビニール袋を持ち頬を少し赤らめながら栖桐が「使う?」と聞いてきたのでありがたく受け取る。

 でも、なんで頬を赤らめてるんだ? ……いや、うん、あれだ。原因はきっと先ほどまで行われていた二時間ぶち抜きの体育のせいだろうな。

 体育のガチムチ……じゃなくて勝渕かちふち先生が「よーし、今日は皆が大好きな、あの! スポーツをやるぞぉぉぉ!」とか言うもんだから、皆テンション上げてたのに、気づけば俺たちは『カバディ』をさせられていた。な、何を言ってるかわからねーとは思うが――以下略。


 つーか、カバディ!? なんでカバディ!? 普通こんなマイナーなスポーツじゃなくて、もっとこう……あるでしょ! なんかあるでしょ! メジャーなスポーツが!! サッカーとか野球とかバレーとか色々選択肢あるよね!? なのになんでカバディなんだよ! 先生、俺はバスケがしたかったです……!!


 ――ゴホン。話が脱線してしまったので軌道修正。

 つまり栖桐が頬を赤らめているのは先ほどのカバディのせいなのだろう。



  


「よーし、お前ら席につけー! あと荒木は体操服を片付けろよー!」


 ガラガラガラッ! と俺たちの担任である、ナマ先生が元気よく教室の戸をスライドさせて入ってきた。

 このHRが終われば放課後だからだろうか? やたらと先生のテンションが高い。

 俺は机の上に置いてある体操服を袋に片付け、机の横に引っ掛けながらHRが始まるのを待った。


「よーし、それじゃあ帰りのHRを始めるぞー! お前らー! 元気ですかーーーーーー!!」


 ……うぜぇ。先生のテンションがひたすらにうぜぇ。二時間ぶち抜きで体育カバディをさせられた俺達にはそんな元気などなかった。いまの先生のテンションについていけるのは、俺の前に座っている芦屋だけだろう。


「はいはいはーい! もちろん俺は元気でーーーーっす!! 元気のかたまり以外の何者でもありませーーん!!」


 ほらね! 先生のテンションにつられて変なこと言ってるよ! お前何歳だよ! 十七歳じゃないだろ!!


「よーし、警察からこの付近で発生している事件についての注意事項があるみたいだがお前ら元気なら大丈夫だなー! それじゃあ解散……ダー!!」


「解散しちゃダメーーーーーー! 先生っ! 毎度毎度のことながらちゃんと連絡事項は報告してくださいっ!! 『ホウレンソウ』を怠ったが故に、俺たち生徒に何かあったらどうするんですか!? 流石に何かあってからじゃあ冗談では済まないでしょう!?」


「…………はぁ、なんだー荒木ーノリが悪いなー。おかげでテンションが下がったぞー。当社比、三十パーセントダウンだー」


 ええー、なんですかその勝手な理屈。

 そんなこと言われても、このクラスでのツッコミ役は俺だけなんですから我慢してほしいものだ。


「……はぁ、えーとそれじゃあ情報を言うぞー。どうやらこの辺りで、黒づくめの怪しい人物がうろついているそうなのでー。夜道を歩くときは気をつけるようになー」


 俺の突っ込みのせいで、テンションが下がってしまったらしいナマ先生は、いつものダルそうな顔をしながら淡々(たんたん)と、連絡事項だけを報告すると、教室を出ていった。

 ……だから先生、そんな顔をしていたら美人が台無しですよ。

 どうやら今ので帰りのHRは終わりらしく、下校するクラスメイト達の笑い声で、教室が騒がしくなる。


「よーし! 荒木! 栖桐! 帰ろうぜー!!」


 ナマ先生のハイテンションが感染したのか、芦屋のウザさがハンパなかった。なんかこめかみを人差し指でグリグリしながら「最高にハイってやつだぁぁぁぁぁぁ!!」とか言ってる。どこの吸血鬼だよお前はッ!

 とりあえず芦屋の言動は無視しておくとして、俺は隣の栖桐に「帰るか」と話しかけたが――


「あ、ご、ごめんなさい。ちょっと今日は居残りしなきゃいけないから今日は一緒に帰れないの」


 断られてしまった。『成績優秀な栖桐が居残り?』 まぁしょうがない。今日は野郎二人で帰るとしよう。


「ほら、いいから帰るぞ芦屋」


「……んぁ? じゃあ帰るかー!」


「そ、それじゃあ荒木くん、芦屋くん、また……明日」


 ニコニコと微笑みながら、右手を振る栖桐に見送られつつ、俺たちは教室を後にした。




「ただいまーーっと」


 自宅の玄関を開け返事が返ってこないことを知りつつも一人呟つぶいてみた。……まぁ一人暮らししてるのだから当然だし、仮に返事が返ってきたときには全力で逃げるけどね。

 制服を脱いでハンガーにかけ、カバンを床に置き、着ていたシャツを洗濯機の中に放りこみ洗剤と柔軟剤をふんだんに投入し洗濯スタートのボタンを押そうとした時に気づいた。


「しまった……学校に体操服置いたままだ」


 しかもただ忘れただけならまだしも汗が、俺のエキスがたっぷり染み込んでいる体操服である。

 まずい、非情にまずい。明日学校で回収するというのもひとつの手段ではあるが――おそらくにおいが――大変なことになっているだろう。

 俺は部屋に戻りタンスからTシャツを取り出した。そして今日はもう御役おやく御免ごめんかと思われていた制服をハンガーから下ろし着替え直して家を後にした。





 俺の家から学校までは徒歩で約三十分ほどかかるので、もう一度あの距離を歩くのは骨が折れると思った俺は徒歩ではなく自転車を使うことにした。

 流石に日も落ちだしているので辺りが暗くなる。

 自転車のライトは点けるほどじゃないとは思うけど、この様子だと学校から帰る頃にはライトを点けないといけないだろうな……。

 そんなことを思いながら自転車を走らせていると十分ほどで学校に到着した。


「通常の3倍のスピードで到着……これで自転車が赤かったら仮面を被ったあの人になれるんだけどなー」


 なんてくだらない事を考えながら駐輪場へ自転車を停め夕闇に染まり始めている学校を見上げる。

 部活で使用しているであろう音楽室や視聴覚室、体育館の電気は点いていたが、教室の電気はほとんどが消えていた。


「誰か残っててくれれば、職員室で鍵を借りる必要もなかったんだけどなー。ま、誰もいないんならしょうがないか。失礼しまーす」


「おー荒木かー。帰ったんじゃなかったのかー?」


 ガラガラとゆっくり職員室の戸を開けると、俺に気づいたナマ先生が、不思議そうな顔をして聞いてきた。


「先生、申し訳ないんですけど教室の鍵を貸してもらえませんか? 体操服を忘れたんで回収したいんですけど」


「おーそうかー。まぁ本来なら私がお前についていかんとならんのだけどなー、面倒だから一人で行ってくれー」


 ……まーたこの先生は……ホント生徒に関して適当だなぁおい!

 まぁ今に始まったことじゃないし、言うだけ野暮やぼってもんか。


「んーーーーーー?」


 見ればナマ先生が職員室の壁にかけられている――各教室の鍵がかかっているはずの――鍵置き場を見ながら首をかしげていた。……ん? どうしたんだろ?


「んーー鍵がないって事はまだ教室開いてるみたいだなー。多分誰か残ってるんだろー、ついでに鍵をかけてまた職員室ここまで持ってきてくれー荒木ー」


「……了解です」


 ……やれやれ。しかし誰が残ってるんだろう? 教室の電気は消えてたし学校に残っている人物なんて部活中の生徒と職員室の先生方だけのはずだ。

 だとしたら、考えられる可能性は二つ。

 ただ単に最後まで残っていた生徒が鍵を閉め忘れたのか、もしくはただ単に幽霊がいる…………そのどちらかだろう。

 幽霊なんて非科学的な存在は考えたくないので可能性を一つ頭の中から排除して前者の、『鍵の絞め忘れ』のほうで考えを進める。


「WAWAWA忘れ物~♪ 俺の忘れ物~♪」


 夕闇に染まる校舎の中をどこかで聞いたことのある変な歌を口ずさみながら教室に向かって歩く。え? 怖いから歌ってるんじゃないかって? そ、そんなわけないじゃない! 怖いわけないじゃない! 勘違いしないでよね! あなたのために怖がってるんじゃないんだから!!

 ビクビクしながらも教室までたどり着くことが出来た……が、やっぱりというかなんというか。

 万が一にも億が一にも、そういうオカルト的なものが教室の中にいたら困るので、廊下から教室の中をうかがったら――



「……まじかよ」




 俺の机の辺りに『黒づくめの何か』がいた。




 続く

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