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友だちはへん人ばかり  作者: せい
第三話 芭逸女々花の独善たる好奇心
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へん人No.6 芭逸女々花 その9

 ()ちゃんの後を追い、部室棟の一階まで降りてきた。

 眼前に広がるグラウンドでは、昼休憩を利用して男子生徒達が野球やバスケをして食後の運動を楽しんでいる。

 グラウンドに女々ちゃんの姿は見当たらない。


「……ということは、やっぱりまだここに残っているのか。でも、どうしてなんだ?」


 女々ちゃんの考えていることがよく分からない。


「とりあえずここから探――」


 そこで俺は、一部屋だけ戸が開いている部室を見つけた。

 如何にも『入って下さい』と言わんばかりに、外開きの戸は、堂々と開けっ放しにしてある。


「…………怪しい」


 メチャクチャ怪しい。

 寝坊して遅刻した生徒が『学校に行く途中で、大荷物を持ったお婆さんを助けてたら遅刻しちゃいました〜』って先生に言い訳するくらい怪しい。

 ……これは罠だ。あからさまに見え透いた、安くて容易い陳腐な罠だ。

 よく、ゲームやマンガだとお調子者キャラや宝に目がくらんだ強欲なキャラが中に入った瞬間、部屋のトラップに引っかかって死んでしまう、典型()的な()アレ()だ。


「……でも、罠だと分かってても行くしかない時もあるんだよな」


 なるべく音を立てない様に抜き足差し足で部室へと近づく。

 正直言うと、遊んでいる男子生徒達の楽しげな声がここまで反響しているので、俺のこの作戦はまったく意味を成さないのだけれど……何て言うか、これは雰囲気だったりする。


「…………」


 そっと部屋の中を覗きこむ。

 明かりこそ点いてはいないが、今は真っ昼間だ。空から射し込む太陽の光だけで中の様子は十分に把握出来た。

 壁沿いに並べられたロッカーの前には青色のが置いてあり、腰の辺り程の木製の棚には鉄製の球体や大小様々な円盤が綺麗に陳列されている。


「ここは陸上部の部室か」


 まぁ、それ以外にあり得ないか。野球部が鉄製の円盤とか鉄製のボールとか使う訳ないし。

 自分で自分に軽くツッコミを入れ、もう一度中の様子を確認してみる。――と、そこである物を見つけた。


「あれ、さっきまで女々ちゃんが持ってたノート……だよな?」


 ロッカーとロッカーの間、つまりは部屋のど真ん中に置いてある。


「……怪しい、やっぱり怪しい。絶対罠だこれ。百パー罠だよ」


 これを手に取った瞬間、閉じこめられてガスを注入されるパターンだわ

 もしくは敵やゾンビが急に襲いかかってくるパターン。

 でも、これは取らないといけない気がするんだよなぁ。これもお約束と言うか、定番と言うか……。


「すぅ…………はぁぁぁ」


 今日一番の深呼吸をして、恐る恐る中に入りノートを拾い上げ――ようとした瞬間、バタンっ!! と大きな音がし、部屋の中が一気に暗くなった。

 振り返ってみると部室の戸が閉められていた。


「……やっぱり罠かよ」


 予感はしていたとは言え、ここまでテンプレート通りだと逆に清々しい。


「あんまり驚いてはくれないんですね、先輩♪」


「え、女々ちゃ――んぐっ!?」


 声がした方向へ振り向こうとした時には、俺の鳩尾には女々ちゃんの頭が埋まっており、そのまま俺は勢いよく床へと倒れてしまった。

 あまりにも的確に()()()()せいで、食べたばかりの昼食が口から溢れそうになるのを何とか手で抑えながら胸の辺りに目をやると、女々ちゃんが背筋を立てた状態で乗っかっていた。


「こうやって先輩からマウントを取ってますと出会った日の事を思い出しますね……」


 そう言って、何故かうっとりとしている女々ちゃん。


「そうだな……って、どうして女々ちゃんもここにいるんだよ。てっきり、俺を閉じこめてその隙に逃げるつもりだとばっかり思ってたんだけど」


「…………()の居場所は……ここだけですから」


「――えっ?」


 居場所……だって……?


「と言うか! どうして先輩は女々花の邪魔ばかりするんですか? 色々と興味深いデータを回収する事は出来ましたけど、本当ならもう少しだけスローペースで実験を進めるつもりだったんですよ?」


「それは……あれだ、ナマ先生に頼まれたから――」


「先生に言われたからって、先輩が女々花の邪魔をしてもいいと思ってるんですか?」


「そ、そんな事言われたって――」


「女々花はただ、人の為に、皆の為にこの子を作ってただけなんですよ?」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


「……何ですか?」


「今、女々ちゃんは『人の為に、皆の為に作った』って言ってたけど、あの脳波コントロール装置はどうして作ろうと思ったんだ?」 


「……? おかしな事を聞きますね。そんなのもちろん決まってるじゃないですか。みんな生徒みんなですよ」


 何か問題でも? と言いたそうに女々ちゃんが目を細めながら俺を見てくる。


「それさ、誰から作るように頼まれたんだ?」


「…………」


「なぁ、教えてくれよ女々ちゃん。女々ちゃんが作ったって言うその装置ってさ、()()()()()()()()()()()?」


「……別に誰だっていいじゃないですか。女々花は皆の為に、人の為にこの子を作ったんです」


「自分の為――だろ?」


「…………っ!!」


 女々ちゃんの顔が途端に強ばる。


「本当は誰からも頼まれてなんかいないんだろ?」


「い……いや、そんな……事は……」


「どうして誰からも頼まれていないのに作ろうと思ったんだ?」


「め、女々花は……ただ、皆の……人の為に作ろうと思って……。そう……! 女々花はただ、善い事をしようと思ってただけで――」


「……確かにそれは善い事かもしれないな。でもな、女々ちゃん。女々ちゃんがやってる事は善い事なんかじゃない。それはただの――独善だ」


「独……善……?」


「独り善がり……って言えば分かりやすいかな。理由は分からないけど、女々ちゃんはを完成させて、皆に自分の事を認めてもらいたかったんじゃないか?」


「………………」


 雲でもかかったのか、窓から射し込む太陽の光が徐々に弱まっていき部屋の中が段々と暗くなっていき、女々ちゃんの顔も見えなくなってしまった。


「もしくは、部活に来てくれない部員みんなを呼び戻す為か?」


「…………さい」


「発明品を作れば皆が戻ってくると思ったのか?」


「うるさい!」


 部屋に光が戻ると同時に見えた女々ちゃんの顔には、一筋の涙が流れていた。


「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい…………うるさいんですよ!! なんですか!? なんなんですかアナタは!? 女々花の事なんか何も知らない癖に!! 一体何様のつもりなんですか!? もう放っておいて下さいよ!! 女々花に干渉しないで下さい!! 関わらないで下さいよ!!」


 せきを切ったように、ぼろぼろと止め処なく溢れる涙を拭おうともせずに、女々ちゃんは俺の胸を叩き出した。


「……女々ちゃん、意地を張るのはもうやめろよ」


「い……意地なんか張ってませんよ!」


「嘘つけ。本当はクラスの皆や部員の皆と仲直りしたいんだろ?」


「そ、それは…………」


「独りじゃ心細いって言うんなら俺も手伝うからさ。だから……もう泣き止んでくれよ。せっかくの可愛い顔が台無しだぞ?」


「……………………はい」


 そう言うと、女々ちゃんは制服の袖で涙を拭い、「ぐすっ」と一つ鼻を啜ってから立ち上がると、簀の子の上に三角座りで座った。


「よっ――と」


 立ち上がり、背中と尻にふんだんに付いた砂を適当に払ってから俺も簀の子に座った。





 場面は変わって放課後の体育館裏。

 いつもの如く、グラウンドからは運動部達の怒声にも似た大声が飛び交っており、体育館の中からはボールが弾む音やバッシュの擦れる音が幾重にも重なり、まるで一種の音かと思えるくらいだ。

 そんな青春の音をBGMにしながら、俺は後輩達の様子を伺っていた。

 ばつが悪そうに、斜め下ばかり向いている女々ちゃんと、そんな彼女をじっと見つめる四人組。

 この子達は『メメントモリ・カルマ部』に所属している他の部員だ。


「こんな所に呼び出して、一体何のつもりなんだ?」


 まず口を開いたのは、女子に優しく、男子に厳しい三木岡だった。初めて見たときは黄色の瞳をしていたが、今見ると普通に黒い瞳になっている。

 多分カラコンでもはめてたんだろう。


「えっと……その、皆に……ちゃんと謝っておきたくて……」


 女々ちゃんが、チラリとこちらを振り向く。


「ほら、言いたいことはちゃんと言わないと伝わらないぞ?」


「……はい」


 あの後、俺は女々ちゃんから、女々ちゃんがどうして発明品を完成させる事にあんなに拘っていたのか聞き出した。

 どうやら、最初はただのお遊び同好会のような部活だったらしいのだが、ふと『何か作ってみよう』と言う話になったらしく、試行錯誤を重ねながらなんとかあのドリンク――Re:ボビタンDA――を作ったらしい。

 しかし、そのドリンクの運用法を巡ってメメカ部は、使用賛成派の女々ちゃんと使用反対派の三人に別れてしまったそうだ。――ちなみに三木岡はどっちでも構わない派だったとか――

 仲違いをしたままどんどん月日は流れていき、クラスにも顔を出しにくくなった女々ちゃんは他の皆と仲直りをしようと思ったけれど、それすらも言い出せなくなってたそうで「だったら、脳波を弄って、喧嘩をする前の皆に戻しちゃえばいいんだ」と思い立ち、件の装置を開発しようと思ったらしい。

 今回のリボン騒動はその副作用……というか正常に機能しておらず、三木岡に頼んで昼休憩時に校内放送で流してもらったものの、何故か女子生徒達が同じリボンを買い求める……という結果になってしまった、のだそうだ。


「…………皆、ごめんね。女々花、発明品を作るばっかりで皆の事を考えて上げられなかった。これからは……ちゃんと皆の事も考えるから……だから、もう一度女々花と一緒に部活してくれませんか……?」


「そうは言っても……なぁ?」


 そう言って、男子部員が隣に立っている女子部員に視線を投げかける。


「う、うーーん……ど、どうしよっか……」


「……だ、だめ……なの?」


「だって……ねぇ?」


 ……まずい。このままじゃあ仲直り出来ない。ここは俺も手を貸さないと……!


「……いきなり俺みたいなヤツが出しゃばってくるのもおかしな話しだと思うけどさ、俺からも頼むよ。この通り、女々ちゃんも反省してるんだ。だから……この通りだ」


 地面に膝をつき、そのまま頭と手を砂に擦り付ける。


「ちょ、ちょっと先輩!?」


 女々ちゃんの驚いた声が上から聞こえてきて、起きあがらせようとしているのか、肩の辺りをグッと掴まれるのを感じた。


「女々花の為にそこまでしないで下さいよ! そんな先輩の姿を見ているなんて嫌です!」


「頼む、頼むよ皆。女々ちゃんを許してやってくれ……!」


「……だってさ。なぁ、お前ら。わざわざ先輩が俺達の為にここまでしてくれてるんだ。そろそろ仲直りしてまた前みたいに楽しくやろうや?」


「……そうだな」「うん、私達もちょっと頑固になりすぎてたっていうか……」「うん、また前みたいに皆で遊ぼうよ!」


「み、皆……。ありがとう……、本当にありがとう……!」


 ポロポロと涙を流す女々ちゃん達。


「これで、一件落着だな」


 涙を流しながらも笑いあう五人の後輩を横目にしながら、俺はそっと立ち去った。



 続く



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