へん人No.6 芭逸女々花 その6
「さてと、昨日拾ったチラシによるとこの辺りだと思うんだけど」
いつもの如く家にいた華菜乃を先に学校に行かせ、俺は一人で件の店があると言う小鉢中峰の二丁目に来ていた。――バスで数十分前後かかる三丁目とは違って、二丁目は結構学校に近い所にある。徒歩だとだいたい二十分くらいだ。――チラシを見る限り、本店とやらはここからさほど遠くない場所にあるらしく、更に五分ほど歩いたところで店を見つける事が出来た。
が、チラシに書いてあったように、まだ開店する時間じゃないからかシャッターは降りたままで、店の前にはおそらく開店を待っている我が校の制服を着た女子生徒達が、十人ほど並んでいた。
「先着二十名って書いてあったけど、これならこのまま並んどけばリボンを売っている犯人の顔を拝めるだろ」
列に加わり、店が開くのを待っていると不意に肩をトン、トン。と叩かれた。
「は――ぅい?」
「フッ、こんな簡単な手に引っかかるとはな荒木ィ! 俺がお前の命を狙う暗殺者だったら、三回半は死んでるぞ!」
そう言って、俺の友人であり、悪友でもある芦屋は、ほっぺたを人差し指でグリグリと突き刺しながらニヤリと笑った。
「……オッス芦屋。もう気は済んだか? 済んだなら三メートルほど離れてくれ。暑苦しいから」
「つれない事言うなってー、俺と荒木の仲だろー? ほれほれー♪ ほれほれほれー♪」
「分かった分かった、分かったからこれ以上俺のほっぺたをグリグリしないでくれ。今の俺はほっぺたより、周りの視線の方が痛いんだよ」
「ん? おぉ、悪ぃ悪ぃ!」
前に並んでいる人達が憐憫の目で見つめてくる。中には目を光らせながら『ハァハァ』と息を荒げている女子もいる。恐らく、彼女は我がクラスの委員長でもあり同時に腐女子でもある藤吉と同じタイプの人種なのかもしれない。
そんな事を思っていると、シャッターが開く音が聞こえ、爽やかな声が聞こえてきた。
「いらっしゃいませー♪ 何をお求めですかー? あ、こちらのリボンですねー♪ お買い上げありがとうございますー♪」
顔は見えないけど声質から推測するに、かなりの好青年みたいだ。
「ところでよー、どうして荒木はここにいるんだ? ハッ……! ま、まさか……お前も俺の影響を受けたのか……?」
「んなわけあるか。まぁ……ちょっと色々あるんだよ」
「プレゼントかっ!? 栖桐か、朽葉さんにプレゼントするのかっ!?」
「だーかーらー、色々あるん――」
「それとも先生かっ!? まさか年上に手を出しちゃうのかっ!? 禁断の領域に足を踏み入れちゃうのかっ!? 生徒と教師というベルリンの壁を壊しちゃうのかっ!?」
「落ち着けやっ!!」
「ぐわぁぁぁぁっ! 太ももがっ! 太ももがぁぁぁぁっ!!」
「人の話をちゃんと聞かないからだっ!」
ふとももを抑えながら悶絶している芦屋を放置し、店の方を見ると俺の前に並んでいた女子が丁度会計を済ませたところだった。
「はーい、次のお客様どう…………げっ」
「お前、あの時の――!」
カウンターの奥に立っている店員と目を合わせた瞬間、数日前の記憶が蘇った。
「はぁーー、まぁーたアンタっすか。……で、今日はなんの用なんスか? 先に言っておきますが、ドアノブならもう売ってないッスよ?」
先ほどの接客態度とは打って変わって、ひどくダルそうに受け答えをしやがる。どうしてここまでガラッと態度を変えられるんだ? いや、落ち着け。落ち着くんだ俺。ここで事を荒げても良いことなんか一つもないじゃないか。そうだ、落ち着け落ち着け……。
深呼吸を一つし――ぎこちなかったかもしれないが――笑顔を作る。
「リボンを売ってるって聞いたから、買いに来たんだ」
「んー? あー売ってますけど……えっ、もしかして『欲しい』とか言い出すんじゃないッスよね?」
「ま、まぁ、一応そのつもりなんだけど」
「スンマセン。変態に売るリボンは無いんですわ」
何なのコイツ? 明らかに喧嘩売ってるよね? 明らかに挑発してるよね?
目の前でメンチを切ってくる生徒とにらみ合いを続けていると、背後から芦屋の声が聞こえてきた。
「まぁまぁ、売ってやれよ三木岡ー? 荒木は俺の友達なんだからよー。俺の顔に免じて……な?」
「…………なら仕方がないっスね。芦屋さんの友達っつーんなら、特別にアンタにも売ってあげますよ。一つ三百円ッス」
「あ、あぁ。ありがとう……?」
三百円を渡しリボンを受け取ってからカウンターを離れると、買い物を済ませた芦屋が嬉しそうな顔で歩いてきた。
「お前、アイツと仲がいいのか?」
「んー、まぁ良いか悪いかで言えばバッチリだな!」
そんな満点の笑顔で言われても、まったく意味が分からない。
「ま、まぁ仲はいいんだよな? ちょっとアイツに聞きたいことがあるんだけどさ、俺と話してくれるようにお前から頼んでくれないか?」
「……? おぅ、わかった! 伝えとくなー」
そう言うと芦屋は、カウンターで接客を続けていた三木岡の元へと走って行き、身振り手振りを交えながら会話を交わすと、
「やっべ! 今日早めに学校行っとかないと居残りさせられるんだった! んじゃあ、先に行ってるからなー!」
手を振りながら学校の方へと走っていった。
「で、俺に何の話しがあるんスか?」
芦屋と分かれてから数分が経ち、並んでいた生徒達が皆学校へと向かった所で三木岡がダルそうに話しかけてきた。
「話しってのは――コレの事だ」
「…………リボンがどうかしたんスか?」
「どうしたもこうしたもないだろ、お前だって知ってるはずだ。今、学校で何が起こってるかを」
「…………」
「俺はこの騒動を解決したいと思ってる。だから、何か知ってる事があったら教えて欲しいんだ」
「……そうッスね、正直あんなベッピンさんを二人も侍らしてるアンタの事は気に食わないッスけどね」
「侍らせてるつもり何てこれっぽっちも無かったんだが……」
いや、端からはそう見えるって事なのか。
「俺もこんなバカげた事をするのにも飽きてきたころだったんで、教えてあげてもいいッスよ」
「本当か……!? あ、ありがとう!」
「えーっと、どこから話したモンかな――」
その後、俺は急いで学校へと向かい四時間キッチリと授業を受け、昼飯を急いで平らげてからあの場所へと向かった。
そして、部屋の前で立ち、スマホの時計で時刻を確認をする。
午後十二時十分……。よし、時間は十分残されている。三木岡の話によれば、この時間も彼女は中に居るはずだ。
ゆっくりとドアノブを捻り戸を開けると、そこにはいつもと変わらない様子で彼女がいた。
「おはよう、女々ちゃん。起きてたんだな」
「……はい、色々と準備してましたので♪」
続く




