へん人No.2 栖桐華菜乃 その2
「おい、荒木! お前朝のニュース見たかよ!?」
栖桐が転校してきて一週間が経った。ナマ先生からの指令『転校生は任せた』を遂行している俺は、やはりというかなんと言うか、一人では辛かったので友達の芦屋を巻き込むことにした。
今では席が近いこともあってか、授業中も休憩中も三人で過ごすことが多くなった。
しかし朝から騒がしい男だな。お前はもう少し声のトーンを落とすことができないのか?
「ん? 朝のニュース? もしかして前にナマ先生が言ってた『物騒な事件』ってのが起こったのか?」
「そーーなんだよ!!」
顔が近い。どうしてこう無駄に近づいてくるかね?
「なんでも犯人は『鉄パイプ』だかを持っていきなり殴りかかってくるみたいだからな、荒木も気をつけといた方がいいと思うぞ!」
なんでだよ。どうして男の俺が襲われる対象にノミネートされてるんだ? 普通そういうのって男が女性を襲うってヤツがセオリーなんじゃないのか?
いや、犯罪者のセオリーなんて知らないんだけどさ。わざわざ俺を槍玉に挙げるその根拠を詳しく聞かせていただきたいものだ。
「そうか、心配してくれてサンキューな。……でも、俺は今はそんな暴行事件よりもっと重大な事件が起こっているんだよ」
「じゅ、重大な事件……だと!? いったいお前の身に何が起こっているんだよ荒木!」
「弁当忘れた」
「へ?」
「だーかーらー、弁当忘れたんだっつの」
「それは………………俺たちにとっちゃあ、正しく死活問題だな!!」
「そーなんだよ! しかも今月厳しくってさ、昼飯代を節約してるから小銭も持ってきてないわけよ! だから――」
「だが断る」
早ぇぇ! 断るのが早ぇぇ!! 友達なんだから助け合いの精神で行こうよ!!
「あ、あのー荒木くん。もし、よかったらなんだけど、わ、私今日お弁当作りすぎちゃったから、よ、よかったら、た、食べてくれない?」
「え、いいのか? 助かるよー栖桐! まじサンキューな! やっぱり『どこか』の『誰か』さんとは違うなぁ〜」
ニヤニヤしながら、思いっきり、嫌味ったらしく芦屋に向かって言ってやった。
女子の手作り弁当を食べさせてもらえるなんて滅多にない体験だし、女子とお近づきになりたい芦屋のことだ。古臭い表現になってしまうけどアイツがハンカチを噛みつつ、涙を流しながら悔しがる様子が目に浮かんだ。ププッ(笑)さーて、どんな顔をするかな?
「ほっほーーう?」
いじらしく芦屋をの顔を見ると、予想に反して芦屋はニヤニヤしながら顎に手をあて、俺たちを眺めていた。
あれ? おかしいな。芦屋のことだからてっきり「ぐやじいいいいいいい!!」くらいは悔しがると思ったのに。
「ま、とにかく今日はいつも通り三人で飯を食おうぜ! 俺は『誰か』さんとは違って弁当忘れてないしな!」
ぐぬぬ……まさか芦屋に逆手に取られてしまうとは。
場面は変わって昼休憩。
「じゃ、じゃあ荒木くん……これさっき言ってた私のお弁当です」
モジモジしながらも栖桐が可愛い小包を渡してきた。ん? なんで弁当をまるごと渡すんだ? これじゃあお前の食べる分がなくなるじゃないか。 そう思い栖桐を見つめていると、
「あ……そ、そっちは『荒木くんの分』なんだ。そ、それでこっちが私の分」
照れくさそうにモジモジしながら弁当箱をもう一つ取り出した。なんだと!? 手作り弁当なんて、女子力たけーなオイ!
「栖桐はきっといい奥さんになれると思うぞ」
「え、ええ!? そんな……私まだ十六だし……荒木くんは構わないのかもしれないけど……で、でもそういうのは早いと思う……よ」
「んぐっ!! ごほっげほっ!!」
思わず飲んでいたジュースを吹き出しそうになった。いや、ちょ、えぇ!? なんでそーなりますか!? そういうつもりで言ったんじゃ――ハッ!
「クックック……」
「何見てんだゴラァァァァ!!」
「あべしっ!!」
ムシャクシャしてやった。誰でもよかったわけじゃないがイライラしていたからやった。後悔はしていない。
「あ、あのーそろそろ食べない? お腹すいたし……」
「そうだな。それじゃあーいただきます! って何ィ!?」
俺は弁当を開けた瞬間、驚きの声を上げていた。
「高菜明太出し巻き玉子にチキンオムライス、それにゆで卵と目玉焼きだって!? まさかの玉子づくし! 玉子オンリー! EGGオンリー!」
「き、黄色ばっかりじゃないか……なんつーか……うんすごいな。」
興味津々(きょうみしんしん)で弁当を覗いてきた芦屋は、かなりのショックを受けたみたいで唖然としていた。「うわぁ、黄色一色って……うわぁ」ずっとそんな言葉を繰り返している。
だがな芦屋。実は俺、大の玉子大好き人間なんだよ。意味わかんないと思うかもしれないけどほんとに大好きなんだよ。玉子となら添い遂げたいとすら思えるね。
「でもさ、まさかここまで俺のストライクゾーン『どんぴしゃ』だとは思わなかったわ。こう言ったらあれだけど相当珍しい献立じゃないか」
「そ、そうですね……なんというか女の勘ってや、やつです。ハイ」
ふむ、なるほど。そういえばこないだやったゲームでもサングラスかけたオッサンが言ってたもんな。『女の推量は男の確信よりもずっと確かである……確かぁ誰かの言葉です』ってな。
おっと、こんなこと言ってる暇があるなら早く食べてやらないと。
――どれどれ、まずはこの玉子焼きからいただくとしますか。
「…………こ、これは!!」
「も、ももももももしかしておいしくなかった!?」
「………………め、めちゃくちゃ旨い。」
続けてチキンオムライス、ゆで卵、目玉焼きを立て続けに一口ずつ食べてみる。……うん! やっぱりめちゃくちゃ旨い!! え、これどうなってんの!? 味のパンデミックやー!!
「ってパンデミックは違うだろ、俺っ!!」
思考と言動が、ない交ぜのごちゃ混ぜになりながらも、自分で自分にツッコミ――いわゆるセルフツッコミ――をかましてしまうくらい衝撃的に美味だった。
いやはや、俺の語彙力が低いせいで、このお手製弁当のすばらしさを伝えられないのが本当に残念である、というか申し訳ないです。ごめんなさい。
「なんかめっちゃ旨そうに食べてるな荒木! どれどれ、俺にもひとつその旨そうな玉子焼きをひとつよこしやがれってんだ!!」
「は? 何ふざけたこと言ってるんだよ。これは俺の玉子焼きなんだからお前にやるわけないだろーが!!」
「そ……そこをなんとか!!」
「断るっ!!」
「こ、このやろぉぉぉぉーー!!」
芦屋の絶叫が校内に響き渡ったが、気にせず弁当を堪能することにした。
栖桐が作ってくれたという弁当を、キレイに平らげた俺は、芦屋と栖桐が昼食を食べ終わるのを待ってから教室に戻った。
しかし、何か様子がおかしい。どうして昼休憩が終わったばかりだっていうのに、教室に誰もいないんだ?
「ん? 栖桐、次の時間なんだっけ?」
移動教室だったら急いで準備しないとやばいなー。なんて暢気なことを考えながら二人を見ると、栖桐と芦屋が後ろの黒板に書いてある時間割を固まっていた。
「な、なぁ栖桐。次の授業は数学からの体育だったはずだよな?」
「う、うん。そうだとばかり私も思っていたんだけど……これは予想外というかなんと言うか……」
「二人して何驚いてんだよ? いったいなんだって言うんだ――」
――そこまで言ってようやく俺も気がついた。黒板に書いてある時間割を見て、ようやく。
『諸事情により五、六時間目は全クラス合同で体育をします。生徒は体操服に着替えて校庭に集まるように。委員長の藤吉より』
「え? これってどういう事なんだ?」
「……そんなもん俺も知らねえよ。でも一つだけ言える事があるぞ、荒木」
「…………なんだよ?」
「わ、私たちは――」
聞きなれた予鈴が学校中に響き渡る。
「……間違いなく遅刻ってことだね」
続く




