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友だちはへん人ばかり  作者: せい
第三話 芭逸女々花の独善たる好奇心
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へん人No.2 栖桐華菜乃 その17

 聞き慣れたチャイムが鳴り響き俺はいつもの如く、友人であるあしとで昼飯を食べることにした。

 まぁ、芦屋は購買で販売しているカレーカツパンをダッシュで買いに行ったので、厳密に言えば今居るのは俺と華菜乃だけなのだが。


「はい、彰君。あーーん……」


 華菜乃が微笑みながら、とても美味しそうな玉子焼きを箸で掴んで俺の口に近づけてくる。

 だが、俺はその玉子焼きを食べるわけにはいかなかった。


「華菜乃、お前のそれ(あーん)は俺にとっちゃあ死刑宣告を下されるようなものなんだ。だから俺は一人で食べる」


 そう言って、俺は弁当の中にあるオムライスをスプーンで一口大に切り取り口に入れた。

 濃厚な玉子のうま味とケチャップの程よい酸味がなんとも言えないハーモニーを生み出しており、また()()()の腕がいいからか、素材の味を何倍にも引き上げている。やっぱり華菜乃が作る玉子料理は絶品だ。


「そ、そんな……!? 私の料理……おいしく……ない?」


「いや、そういうわけじゃないんだけど」


 こうしている間にも、教室で昼飯を食べている周囲の男子達から凍てつく波動をひしひしと感じている。そう、俺には分かるんだ。これ(あーん)を受け入れると、たこ殴りにされるという明確な死亡フラグが!


「……だったら、はい、あーーん」


「だーかーらー、あーーんはしないって――」


 微笑みを更に増量させ、先ほどと寸分違わぬ動作で俺の口元へと玉子焼きを運ぼうとする華菜乃。やべぇ、正直メチャクチャ可愛い。


「……はい、あーーん?」


「……………………うっ!」


 マズい、頭では食べたらダメだって分かってるのに身体が勝手に反応している! 食べちゃあ、食べちゃあダメだ荒木彰!! 若くして死にたいのか俺!? 

 いやいやちょっと待て? ここで食べないのは男としてどうなんだ? せっかく美少女が作ってくれた手作り弁当なんだ。やっぱり、ここはキチンと食べてやるのが礼儀ってものじゃないだろうか?

 差し出された玉子焼きに目をやると、心なしか俺に「食べて下さい!」と言っているようにも見える。

 うん、華菜乃だけならまだしも、玉子焼きにそこまで言われたのならしょうがない。ここは男らしくガブッと一口で食べてやろうじゃないか。


「あ、あーー……ん?」


「よし、お前ら――ぶきは持ったか?」「あぁ。ちゃんと|フォ

《ぶ》ーク()は持ったぜ」「フッ……俺の分までちゃんと残しておいてくれよ?」「わかってるよ、お前は部位破壊担当な」


 いざ玉子焼きを食べようとすると、教室のあちこちから不穏なセリフが聞こえてきた。


「――ってちょっと待て! 部位破壊ってお前らいったい何をするつもりなんだよ!?」


「今から死ぬんだ。そんな事知っても意味はないだろ?」


「こ、コイツら……!」


 顔を上げて教室の中を確認すると、数人の男子があるで狩人ハンターのように俺を包囲しながら、ジリジリと距離を詰めてきていた。 しかも、完全に目が据わっている。ここは戦略的撤退をしなければ俺の命が危ない気がする――いや! 確実に危ない!


「に、逃げないと」


 席を立ち走り出そうとした瞬間、ガシッ。という謎の音と共に体が硬直した。しまった! どこかに服を引っ掛けたのか!? と思い振り返ると、華菜乃が俺の袖をがっちりと掴んでいた。


「彰君、まだ私の玉子焼き……食べてくれてない」


「か、華菜乃!? 離してくれっ! じゃないと少しばかりマズい事になるっ!」


 狩人達との距離はまだ五メートルほどあるが、ヤツらは今この瞬間にも得物を片手に、ジワジワと迫ってきている。


「私のお弁当……美味しくないかな……? この玉子焼き……結構自信作なんだけど……」


 途端に目を潤わせ、涙目になる華菜乃。

 ……ヤベェ、で泣かれたら女子からも狙われる! な、なんとかなだめないと!


「華菜乃……お前の作ってくれる料理はどれも美味いよ。これでも、毎日感謝してるんだぜ?」


「ほ、本当……?」


「あ、当たり前だ! じゃなきゃ毎朝喜んで食べるわけないだろーが! だからそろそろこの手を離して――」


「じゃ、じゃあ……! これからも……毎日心を込めて朝ご飯作るね♪」


「うーん、やっぱりそれはちょっと――」


 それってつまり、毎朝俺ん侵入す(は  い)るって事だよな?


「言質を取ったぞォォォォ!!」「者共、かかれェェェェい!!」「いくさじゃァァァァ!!」「ヤってやる! ヤってやるぞ荒木ィィィィ!!」


 し、しまった!


「ノォォォォォォォォッ!!」


 華菜乃の笑顔に見とれてしまったせいで、逃げ遅れた俺は…………たこ殴りにされた。





「たっだいまー! って、どーした荒木。そんなボロボロになって?」


「ちょっと、色々あってな……」


 戦利品であるカレーカツパンと紙パックのジュースを片手に芦屋が帰ってきた頃には、俺はかなり揉みくちゃにされていた。昔から言われている事だが、やっぱり戦いは数なのだ。それでも一つだけ言わせてほしい。数の暴力ダメ、絶対。


「もぐ……そういえば、一つ……もぐ、気になった事が……もぐ、あるんだけどよ」


 席に着くなり包んでいたラップを剥がし、口一杯にカツパンを頬張りながら、芦屋が何かを思い出したように話し出した。


「ふんっ! 食べながら話すな! 行儀が悪い!」


 頭をチョップして注意すると芦屋は「あぁ、わりい、わりい」と手を顔の前に出しながら笑った。


「んでよ……お前ら、気づいたか?」


 いきなり声のトーンを下げる芦屋。

 どうしたんだろう、打ち所でも悪かったのかな? やれやれ、もう一度叩いてみるしかないか、治るかもしれないし。


「ストップ! ストーーップ! その手を下げろ! 俺は正常だ!」


「チッ、バレたか」


 芦屋は「油断ならねぇ……」と呟くと一つ咳払いをしてから「リボンの事だよ」と言った。 


「リボン……? あぁ、お前も付けてるよな。そりゃあ気づくさ、お前に女装趣味があることくらい」


「……周知の事実だよね?」


「おぉい! ……ったく。いや、そうじゃなくてよ。今朝から薄々おかしいとは思ってたんだけどさー、一年も二年も三年の女子もみーんな頭にリボンを付けてるんだよ」


 芦屋の言葉を脳内で反芻させながら思い返してみると、確かにクラスの女子達やすれ違っ女子生徒達は全員が頭に色とりどりなリボンを付けていた。


「あー、確かにな。でも、どうせ今の流行りってヤツなんだろ? 別段気にするような事でもないと思うけど」


「そう……かな……?」


「えっ?」


 華菜乃が怪訝そうに何やら考えているが、俺にはさっぱり分からなかった。


「うーん……」


 リボン、女子、流行り……これらはいったい何を示しているんだろう。

 食事を中断し、腕を組みながら考えていると廊下の方から「荒木ーー、荒木はいるかーー?」と、眠たそうでダルそうな女性の声が聞こえてきた。


「ナマせんせー、俺に何か用ですか?」


「おー、いたかー。ちょっとこっちこーい」


 声の主は俺たちのクラス担任であり、眠そうな声と左目下にある泣きほくが特徴の美人教師、さきなま先生だ。

 漢字で書くと『先生先生』と、なってしまうので俺達は略して『ナマ先生』と呼んでいる。


「ここじゃーなんだから、ちょっとついて来い」


「はぁ……? まぁ、分かりました」


 俺は二人に「ちょっと行ってくるわ」と告げ、ナマ先生の後ろをついていった。





 ナマ先生の後ろを歩くこと約二分。

  昼休憩だというのに辺りには誰もおらず、職員室前の廊下にはスピーカーから流れてくる不思議なメロディーしか聞こえてこない。

 ナマ先生が「ここに入れー」と指を差した場所は職員室横にある、職員しか入ることを許されていない特別な個室の前だった。


「先生」


「んー、どしたー?」


「ここってトイレですよね?」


「なんだ荒木ー、お前にはここがトイレ以外の何に見えるんだー?」


「いや、それ以上にもそれ以下にも見えませんけど」


「じゃあ、小さい事は気にするなー。男なら黙っておくもんだー」


「えぇー……」


 もしかしてこの中で何か話すのだろうか? つーか、話しをするのなら職員室でもいいだろうに……。

 意を決してトイレに入ると掃除したばかりなのか、ツンとした洗剤の匂いがした。

 洗剤のキツい匂いに思わず鼻を押さえてしまいたくなったが、続けて入ってきたナマ先生に背中を押されたのでトイレの中央辺りで立ち止まり、振り向いた。


「で、こんな所に呼び出してまでしたい話ってなんなんですか? 俺は今から飯も食べないといけないんですけど」


「まぁ、そう焦るな荒木ー。珍しくこの私が誉めてやろうってんだぞー?」


「誉める……? 俺、何かしましたっけ?」


 誉められる事なんてしてない気がするんだけど。


「……こっちの話だ。お前が分かってないならそれで構わんよー」


 そこまで言われると俺が何をしたのか気になってしまうが、とりあえず黙っておいた。


「で、だ。実はお前に頼まないといけない事があるんだが……聞いてくれるかー?」


「……? 何ですか?」


「今、学校全体がおかしな事になってるのには気づいたかー?」


 壁に寄りかかり、ポケットに手を突っ込みながら試すような口調でナマ先生が言ってきたので、俺は一つ頷いた。


「飲み込みが早いなー荒木。とりあえず、お前には今学校で流行っているというこのリボンの出所を探ってほしいんだー」


 ナマ先生はポケットから三本のリボンを取り出し、ヒラヒラと揺らしてみせた。


「これって、噂のリボンじゃないですか。どうして先生が持ってるんですか?」


「ま、色々あってなー。あとなーこの件は出来れば他言無用で頼むぞー?」


 ニヤっと笑い、ナマ先生は俺の手に三本のリボンを無理矢理握らせると「じゃ、頼んだぞー」と片手を振りながらトイレを出ていった。


「…………どうしろと」


 リボンをポケットに入れ、抜き出すついでにスマホで時間を確認してから、俺はトイレを後にした。



 続く

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