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友だちはへん人ばかり  作者: せい
第二話 朽葉千羽の華麗なる勝負
40/92

へん人No.3 朽葉千羽 その10

千羽「ないね」

栖桐「うーん……」

芦屋「チェンジで」

荒覇吐「ショック!」


以下本文です



 俺の友人であり、先の作戦の実行者でもあるあしが俺たちの前に立っていた。しかも服装は、某憂鬱な団長様の制服コスプレで。ご丁寧に黄色のリボンを付けていやがる。

 くそ、少しだけ似合ってると思ってしまった自分を殴ってやりたい。


「なんで……ってそりゃあもちろん――」


 クルッとその場で一回転し、いつもより――コスプレの補正もあるのだろうけど――四割増しのイケメンスマイルを俺に向けながら、


あま――じゃなくて、お前にセクハラしたいからに決まってるだろ?」


 夕日をバックにポーズを決めた。


「芦屋」


「ん、どうした荒木?」


「歯ァァ食いしばれェェェェ!!」


「うおっ!? あ、荒木! お前、歯を食いしばれって言っときながら、思いっきり俺の目を狙ってただろ!!」


 くそっ、避けられたか!


「――ハッ!? お、俺はいったい何を……」


「演技しなくていいから! わかってるんだぞ! お前が明確な悪意を持って俺の目を狙い撃とうとしてたのは!!」


「チッ」


「あー! 今舌打ちした! コイツ舌打ちしたよ! なぁどう! お前も聞いてただろ!?」


「…………あぁ、芦屋くんいたの? ごめんね……たまたま、いまの政策が日本に与える経済効果を考えてたから気がつかなった……」


「くそぉぉぉぉ!!」


 流石は栖桐さん! 芦屋のあしらい方をわかっていらっしゃる!


「って、あれ? そこにいるのはくちさんじゃん!」


「……やぁ。なんで生ゴ――キミがここにいるのさ」


 今この子『生ゴミ』って言おうとしたっ!? おいおい……! いくらなんでも人を生ゴミ扱いするのはよくないんじゃ――


「なんでって、そんなの俺も分かんないよ! でもこれはアレだ! そう、まさしく運命! ここであったのも運命だよ朽葉さん! アレでしょ!? 俺と付き合ってくれるんだよね!? いやー長かった! あの日キミに告白してからずっとキミの事を思ってたんだよ! もう一年近く経つよね? どう? オッケー? オッケーだよね! あーよかった! 安心した! 安心したよ俺は! あれから色んな女の子を口説いてはみたけど、皆揃って『その腐った根性をアルコールで消毒してから出直してこい!』って言われるんだよね! なんでだろう? まぁいっか! だってこうして朽葉さんと付き合えるわけだしね! あーやばい! 今俺のテンションがヤバい! もう有頂天! 有頂天だよ! 今なら東京から大阪の間を一時間で走れそうだよ! のぞみだろうがひかりだろうがこだまだろうが何者にも負ける気はしないよ! さて、それじゃあ今日が付き合って初日になるわけだけど……どこに行こっか? いやいや、もちろんプランは決めてあるよ! まずは大阪のウーエスエーに行って、二人で各アトラクションを楽しんだあと、夜は少しだけお洒落なレストランでディナーを堪能して、そのあとは夜景が綺麗な公園に行って、二人で夜景を見ながらこれからの事を語りあうんだ! どう? お洒落でしょ? 最っっっっ高のデートプランだと思わない? 思うよね! よし、それじゃあ早速今から大阪に行こうか! え? 移動手段? そんなのもちろん決まってるよ! 車は車でも俺の肩車だよ♪ あーヤバい! テンション上がってきたァァァァ!! さぁ行こう朽葉さん! 俺たちの人生デートはこれから――」


「ご愛読ありがとうございましたァァァァ!!」


「うわァァァァァァァァ!! 目が! 目がァァァァァァァァ!!」


 『芦屋先生の次回作にご期待ください』今のコイツにこれほど似合う言葉はないだろう。ちなみに俺が何をしたのかはご想像にお任せします。


「スドー、アルコール持ってない?」


「チーちゃん……いくら私でもアルコールなんて――」


「そうだぞ千羽。いくら栖桐でもアルコールなんて持ってるわけないだろ?」


「業務用の五リットルタイプでよかったら……」


「あるんだ! アルコールあるんだ! つーか今どこから取り出したよ!? 鞄!? 鞄なの!? その細身の鞄のいったいどこに業務用アルコールを入れるスペースが存在するのさ!」


「まぁ、それはさておき」


「うおっっ!? もう復活したのか!?」


「あぁ……わりぃな荒木。俺とした事が少しばかりエキサイトしちまったよーだ」


 見ると、目を抑えていたはずの芦屋が立ち上がっていた。いつの間に立ち直ったんだ。それに少しばかりじゃなくてかなりエキサイトしてたわ。


「俺……思ったんだよ。やっぱり、自分のおっぱ……仇は自分でとりたいって」


「芦屋……」


 下心が隠しきれてないぞ。


「たとえおっぱ……あの人に何度負けようとも、自分の心が折れない限り、不死鳥の如く何度でも蘇ってあのおっぱいに挑戦しようって」


「芦屋君……」


 あ、もうコイツ隠す気ねーな。


「だから、さ……わざわざ俺の仇をとってくれたのは嬉しいんだけどよ。俺は自分自身の手でケリをつけようと思うんだっぱい」


「生ゴミ……」


「生ゴミて。……ゴホン。朽葉さん。俺は、俺は必ず全てを終わらせて帰ってくる。だから……俺が無事にあそこから帰ってこれたら俺と付き合ってほしい」


「うん、それ無理」


「そっか。待っててくれてありがとな……俺、絶対キミの為に勝ってくるから」


「スドー、今すぐそのアルコールこっちに頂戴。とりあえず黙らせる」


「じゃあな、荒木。ちょっくら逝ってくるわ」


「……うん。はい、チーちゃん」


「なーに直ぐに終わらせてやるからよ、ちょっとばかし待っててくれや」


「あぁ。お前が帰ってくるまで……ここで待っててやるよ」


 あと、今にも千羽がお前の頭をかち割ろうとしてるから気をつけろよ。


「フッ……それでこそ俺の親友だ」


「死ぬなよ……芦屋」


 頭に付けた黄色のリボンと、白と水色を基調とした制服コスプレなびかせ、大量のアルコール臭を漂わせながら、芦屋は俺たちの前から去っていった。


「ぃよっし! それじゃあ帰りますかー!」


 録画してたドラマとか特番とか見たいしネ!


「そうだね……お腹も減ってきたし、宿題もしないと……」


 うんうん、栖桐はエラいな。宿題は早くに終わらせておかないとネ!


「ふぁぁ……なんか眠くなってきたし、今日はお風呂に入ったらそのまま寝よっかなー」


 うんうん、早くお風呂に入ってサッパリしないとネ! 若い内からちゃんと気を使っておかないと、後々大変だからネ!


「チーちゃん……宿題はしなくても平気なの?」


「フッフーン、ボクは明日学校でやるからいーんだよ」


「やれやれ。千羽にも困ったもんだな?」


「「「アハハハ♪」」」


「って、お前ら待てやぁぁぁぁ!!」


 ちぃっ! せっかく芦屋を置いて帰ろうとしたのに、まさか感づくとはな! 小賢しいヤツめ!


「何だ芦屋。聞こえてたのか?」


「そりゃ聞こえるわ!」


「ですよねー」


 しかし、どうするかな。正直、今から芦屋があまでらさんとの勝負したとしても終わるのは数十分後とかになりそうだし、とてもじゃないけど終わるのなんて待っていられない。それに、さっきも言ったように俺たち三人――少なくとも誰か一人――が残っていないと、きっと帰してくれないだろう。

 すると、千羽が軽く手招きをするので耳を傾けてみると小さな声で「アックン、ボクに考えがある」と耳打ちしてきた。

 ――考え、策か?

 いったいこの状況を打破するためにどんな策を講じているのかは分からないが、つい先ほどの戦いで圧巻な手腕を披露してくれた千羽の事だ。それは、きっと思わず驚いてしまうような作戦に違いない。


「芦――生ゴミ。キミに一つ言っておきたい事がある」


「わざわざ言い直さなくても……。で、どしたの朽葉さん? その言っておきたい事ってなんなの?」


 千羽の気持ちを考えれば妥当なあだ名だろうに。


「どうやら、今日の大会は男女混合ペアじゃないと参加出来ないそうでね。もし、キミが今のまま行ったとしても、門前払いをされるのは必至だろうね」


 なるほど、嘘をでっち上げてこのまま芦屋を帰す気なんだな?


「まぁキミ――いや、ゴミはそのままの格好で参加するつもりなんだろう? それじゃあいけない。NG、ノー・グッドだよ」


「……それじゃあ、参加するためにはどうすればいいんだ? 朽葉さんか、荒木か、栖桐の誰かが俺と一緒に来てくれるのか?」


「ま、まさか……! まさか千羽お前……!」


 自分から進んで身代わり(スケープゴート)に!?


「あぁ、そのまさかだよ。アックン」


「チーチャン……」


 心配する栖桐に一つウインクし、大きく深呼吸をしたのち、千羽は凜っとした声で高らかに宣言した。



「スドーが着いて行くってさ♪」



「「……え?」」


 千羽さん!? 何を仰ってるのですか!?


「お、そうなのか栖桐! いやー悪ぃな! せっかく荒木がいるのに着いてきてもらってよ!」


「……え? ……え?」


「よし、そうと決まれば善は急げだ! 行こうぜー!」


「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 栖桐の手をガシッと掴み、足を高速で回転させながら芦屋は俺たちの目の前から消え去った。そんなに走ったらスカートが捲れるだろうに。と、一瞬だけ思ってしまったのは内緒だ。


「つーか友達になったばっかりだっつーのに、早速売り飛ばしてどうするんだよ」


 まぁ、芦屋の事だから心配はないとは思うけど。


「そこはあれだよ。ケース・バイ・ケースってヤツ?」


「ケース・バイ・ケースの一言で済ませていいのかよ……」


「いいんだよ。ボクとスドーは友達ケースバイ好敵手ケースだからね」


「こーてきしゅ?」


 なんぞそれ?


「ライバルってことさ♪」


 ライバルねぇ……。


「しかし、千羽さん?」


「なんだい? アックン」


 二人で並んで歩きながら、俺は横の千羽に気になっていた事を聞くことにした。


「芦屋がお前の策に乗らなかったらどうするつもりだったんだ?」


 まさか、本当に自分が身代わりになるつもりだったのだろうか。


「フッフッフッ……それくらいボクが考えていないとでも思ったのかい、アックン?」


 確かに。いったいどんな策を考えていたんだろう。


「アイツの延髄をこう、ビシっとチョップで……ね?」


「ね? じゃねーよ! それはただの暴力だろ!」


「もしくは、顎にアッパーカットを決めて、仰け反ってがら空きになったボディーに膝を思いっきり、こう……ね?」


「策は策でもただの強攻策じゃねーか!」


「素敵な策でしょ?」


「不敵な策だよっ!」


 芦屋が早々に引っかかってくれてよかった。もしかしたらここに気絶者が一名出るところだったわ。


「はぁ……それにしても、なんで千羽はあれだけの策を練れるのに、わざわざ博打を打つような事ばっかりするんだ?」


「そうだね……ま、強いて言うなら、勝ちが決まってる勝負ほどツマらないものはないって事だよ」


「……? どういう事だ? 勝ち続けることが出来るんならそれに越した事はないって思うんだけど」


「……言い方を変えようか。アックン、RPGはやった事ある?」


「そんなのあるに決まってるじゃないか」


 メジャーなものから、マイナーなものまで一通りプレイはしている。でも、それがどうしたって言うんだ? 勝負とどう関係があるんだろう。


「スライムを延々と倒してて楽しい?」


「スライムを? そんなのいずれ飽きるに決まってるだろ」


「そういう事だよ」


 ……?


「……まだ理解してないって顔してるね。それじゃあレベル五十位で、もうラスボスだって倒せるかもしれないくらい強いのに、延々と最初の城の周辺に出現するスライムを倒し続けるって事になったとしても、楽しい? まだそのゲームをやり続けれる?」


「そんなの……つまらないな……」


 そうか。そういう事か。武器や防具を買い揃え、呪文や特技を覚え、自分と仲間を育て、万全の準備を整えても勝てるかどうか分からないから、RPGは、ゲームは楽しいんだ。どれだけ最強の装備を揃えたり、最強の呪文を覚えたとしてもそれを行使する相手が、レベル一のスライムじゃ面白味も何もない。


 もしかしたら終盤で仲間が裏切るかもしれない。


 もしかしたらラスボスは第三形態まであるのかもしれない。


 もしかしたらギリギリで勝てるかもしれない。


 こういった不確定要素があるからゲームは、勝負は面白いんだ。


「分かってくれた?」


 いつの間にか、数歩前を歩いていた千羽を追いかけながら俺は首肯した。


「せっかく立てた作戦が、もしかしたら全然通用しないかもしれない。でも諦めずに頭を捻って活路を見出す。ボクが好きなのはそういう事なんだよ」


「お前は根っからのばくちなんだな」





「そうだよ。ボクは勝負師ギャンブラーであり、(くち)()()()だからね」





 栗色のフワフワとした髪の毛を揺らし、向日葵のような笑顔を輝かせながら千羽はバス停へと走っていく。

 俺はその笑顔に見蕩れつつも、どこか清々しい気持ちで心が満たされていた。


 続く

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