へん人No.2 栖桐華菜乃 その1
……俺は、後悔していた。
「えーーそれじゃあここの問題を……ハイ、出席番号二番の――『海賊王』答えてみろー」
「…………」
「どうしたー『海賊王』ー。こんな問題もわからんのかー? これくらいちゃちゃっと解かんと新世界で生き抜くことなんて出来ないぞー」
「ナマ先生、俺の名前は荒木です。『海賊王』ではありません」
「そうなのかー? 腕とか頭とか腹とか伸びるって聞いたぞー?」
「伸びませんよ! その情報はどこから仕入れたんですか! ちなみにちゃんと泳げますし、覇気だって使えませんからね!」
「そうかー、なら情報提供者の芦屋ー。お前が『海賊王』の代わりに答えろー」
「えええええ!? お、俺ですかああああ!?」
一時間ほど前、クラス全員が見ている前で自ら『海賊王』と名乗ってしまったことを。
恥ずかしい。恥ずかしすぎる。今すぐ過去を変えたい! 歴史を塗り替えたい! 誰か、いや神様! 今すぐ俺に電話レンジ(仮)を下さい! 一時間前の自分にメールを送ってやりたいんです! あれは策略だと! 芦屋の罠だと!!
神に祈りが届くよう必死で懇願してみた。神様なんて存在がいるのかいないのかなんて誰にも分からないけど……零ではない、そんな気がする。
「はぁ、っつってもそんなもん届くわけないよな」
「な、何が届かないんですか?」
隣の席の栖桐が心配そうに話しかけてきた。まだ出会って二時間ばかりの、赤の他人同然の俺に対してこんな気遣いをしてくれるなんてお前はなんていいヤツなんだ!
「先生ぇー! そんな事よりまた早口言葉を言って下さいよぉー!」
「よーし、芦屋。この後の問題も全部お前が答えろー」
「ひ、ひぃぃぃぃっ!」
どこかの誰かさんとは大違い! できる事なら栖桐の爪の垢を五リットルほど煎じて芦屋のヤツに飲ませてやりたいね!
「いや、なんでもないさ。それより授業のほうは大丈夫か? わからないことがあればなんでも聞いてくれよ。これでも栖桐の世話役なんだからな」
「じゅ、授業のほうは大丈夫なんですけど……教科書が前の学校と違うので、教科書が届くまで見せて頂けたら、う……嬉しいです」
「あぁ、頼ってくれ」
ニッっと口角をあげニヒルに笑ってみるも、既に栖桐の視線は黒板へと釘付けになっていたので、俺はそっと口を閉じた。
つーか、授業が始まるまで会話らしい会話をしていなかったから気がつかなかったけど……。
「栖桐ってさぁ、いい声してるよな」
「よ、よく言われます……」
恥じらうように照れる栖桐。ってよく言われるんだ!?
「おーいそこの『海賊王』ー。喋ってる暇があるなら新技の一つでも習得しろー」
「だからやめて下さいよ! 先生ぇぇぇぇぇぇぇ!」
結局、この後も俺はナマ先生に弄られ続け、確実にライフポイントを減らされた挙句――何故か知っていた――別教科の先生達にも『海賊王』の事でいじられ続けた。
なんでそんなにワン●ースに詳しいんだよ!
場面は変わって昼休み。
「や……やっと飯の時間だ」
数時間連続で先生達から波状攻撃を受け続けたせいで、俺のライフポイントは消滅する寸前だった。飯……飯を食べて削られたライフポイントの補填をしないと……!
「おーーい、荒木ー! 一緒に飯食べようぜー!」
すると、授業が終わった瞬間購買部に走っていった芦屋が透明のビニール袋を持って帰ってきた。
「フンッ!!」
「目がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
とりあえずムカついたので一発殴ってやる。
「お前よくしれっと俺の前に来れるな! そのタフな根性だけは評価してやるわ!」
「フ、ちっぽけな男だが根性とポジティブだけは誰にも負けない自信があるぜ!」
血なんて一滴も出ていないのに、口を袖で拭いながら芦屋が立ち上がる。
「はぁ……やれやれだな」
「いやー俺もアレは流石にやりすぎたと思ってはいるんだぜ? だからよ! この俺! 芦屋が! とーくーべーつーに!? 購買のカレーパンを奢ってやるってばよ!!」
白い歯を輝かせ、ウインクをする芦屋。その仕草に軽くイラっときたので、俺は鼻息を出しながら芦屋を見下した。
「あぁ、悪いけど先約があるんだ。俺今日からしばらくは栖桐と昼飯食べるよう言われてんだ」
「なん……だと……!?」
俺のドヤ顔に芦屋の額から汗が滴り落ちる。
「だから悪いんだが一週間くらい一人でいや、『独り』で飯食っててくれ」
「…………りだ」
フッフッフ、薄情だと思うかもしれないが俺はこれ以上の事をされてるんだからな。悪いとは思うがしばらくは反省でもして頭を冷やそうぜ。
まぁ、その内お前も誘ってやるからさ、その時は3人で食べようや。
「…………まりだ」
ん? まりだってなんだ? 足で蹴る『毬だ』? 人名のマリーだ?
「あんまりだアアアア! あァァァんまりだァァァ! うわああああああああん!!」
ちがったー! 『あんまりだ』の『まりだ』だったー! つーか、ええええ!? そんなに泣く!? そんなに泣いちゃうの!?
「あ、あのー私は全然構わないので、そ、そちらの方もご一緒し、しませんか?」
「ハイ、喜んでッ!!」
「切り替えはやっ!」
「ほら、なーにしてんだよ荒木! 青春と乗り損ねた電車は待ってくれないんだぞ! ならいつ行くの? 今でしょ!!」
「なんだそりゃ!?」
芦屋の見せたドヤ顔と謎のジェスチャーに何故かイラっときてしまったが、こんなことをしている間にも刻一刻と時間は流れるし、貴重な昼休憩が終わってしまいそうな気がしたので、俺達は屋上へと向かうことにした。
続く




