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友だちはへん人ばかり  作者: せい
第二話 朽葉千羽の華麗なる勝負
37/92

へん人No.5 天野寺薬 その5

芦屋「なぁ栖桐」

栖桐「……どうしたの、芦屋君?」

芦屋「なんで、俺ってモテないのかな……」

栖桐「えぇ……私に聞かれても……」

芦屋「いやな? 俺って結構イケメンじゃん? そんでさ勉強も結構できるじゃん?」

栖桐「……」

芦屋「なのになー彼女が出来ねぇんだよなー」

栖桐「……」

芦屋「栖桐はどう思う? どうすりゃあ俺がモテると思う?」

栖桐「うーん……」

栖桐「あ、こういうのはどうかな……?」

芦屋「お、なになに?」

栖桐「……異性を諦める」

芦屋「最終手段だな」 

藤吉「呼んだかしら?」

芦屋「呼んでないです」


以下、本文です。


「それじゃあ……配ります」


 入念に何度も山をシャッフルし、どうが一枚ずつ慎重に配り始めた。一枚、また一枚、と、トランプが机の上に溜まっていき、お互いの前に七枚ずつ渡ったところで栖桐が手を止める。俺は、首を少しだけ右にスライドさせて、あまでらさんの手札を覗き見た。

 ざっくりまとめると、彼女の手札は『スペードの6、9、A(エース)』、『クローバーの4、8、9、A(エース)』で構成された、可もなく不可もない無難な手札だった。

 さっきの戦いで発動させた、反則級のコンボが手札に無い所を見ると、やっぱり三毛さんが何かしら(イカサマ)をしていたんだろう。強運持ちのなら、難なく勝てるはずだ。


「『ダイヤの3』があるから、ボクの先攻だね」


 配られた手札を右から左へ、左から真ん中へと入れ替えながら千羽がトランプを出した。


「一枚だけ――なのか?」


 つい思った事をそのまま口に出してしまったが、千羽は呆れた様子で「見て分からない?」と不思議そうに首を傾げた。


「――って、あぁ忘れてた。座布団には目なんてないよね。ごめんごめん、すっかり忘れてたよー。あーはーはーはー」


「俺は人間だよ! 今はこんな事になってるけど俺はれっきとした人間だよ! ホモサピエンスだよ!」


 千羽が乾いた笑いを俺に投げかけてきたが、目が笑ってないのが何とも言えない恐怖を醸し出していた。


「……座布団は座布団らしく、黙ってて下さい。うーふーふーふー」


「発言権くらいくれよ!! 今はこんな事になってるけど――」


 以下省略。


「あっ――ちょっと、そこはダメぇ……秋葉原くん……」


「えぇぇぇぇっ!?」


 いきなり天野寺さんがクネクネと身をよじりだした。


「あ――ちょ、だ、ダメですって!」


 このまま捩られ続けると、エラいことになってしまうは火を見るより明らかだ。何とかして気持ちを落ち着けないと――そうだ! 感動的なシーンを思い出して気持ちを沈めよう!

 海亀の貴重な産卵シーン……ルーベンスの絵を見ながら天に召される少年と犬……『誰か……、誰か助けて下さい!!』……ふぅ。よし、落ち着いてきた。


「いったいナニをしてるんですか! くすぐったいから止めてくださいよ!」


 何とか煩悩を退散させる事に成功した俺は、唇に指を当てながら目を潤わせている天野寺さんに厳重に抗議した。


「もう……連れんこと言わんとってやぁ〜。きみがこんな体にしたんじゃろ〜?」


 なん……だと……?


「――って、したもなにも今日が『初めまして』ですよね!? 俺は何もしてませんよ!?」


 そんな羨まけしからんイベントなんて経験したことないよ! 未体験だよ!


「経験――してみる?」


「だからナニを――ん? な、なんだこの消し炭にされそうな圧倒的な圧力プレッシャーは――!?」


 下半身に前方の視界を遮るモノが座っているせいでまともに見えなかったので、首だけを動かして対面を見てみる。


「うわぁ……」


「キモいよアック――いや、座布団」


 まるで廃棄寸前の生ゴミを見るような目で俺を見つめながら、二人はドン引きしてた。


「そんな目で俺を見ないでくれよ!! やましい事なんて何もしてないよ!? 未遂どころか、無罪だからね!? 冤罪だからね!!」


 あと、わざわざ千羽は言い直さないでいいから!


「じゃあ、さっきからアタシのお尻にずぅっと当たりよる()()モンってなんなん?」


「それは俺のスマートフォンですっ!! 完全なる無機物ですよっ!!」


「有機ELついとるのに?」


 誰が上手いこと言えと――――いやいや、落ち着け、落ち着くんだ俺! このまま反応をしてしまうとさっきの二の舞だ。ここはスルーだ、スルー。

 悩ましげに見つめてくる天野寺さんから、サッと目を反らす。見たらダメだ見たらダメだ見たらダメだ。


「まぁそれは置いといて」


 俺が反応しなくなったからか、つまらなそうに呟く天野寺さん。


()()――って何かいんな響がすると思わん? 思うじゃろぉ? 思うよねぇ♪」


「わーホントですねー♪ ――って、するけども!」


 確かに、そこはかとなく変態チックな響きを感じるけども!


「そんな事は今どーでもいいんですよ! 千羽もイライラしてるみたいですし、早く天野寺さんもトランプを出してください!」


「おぉ、座・布・団のくせにしては気が利くねー」


 再び千羽が「あーはーはーはー」と笑ってはいたけど、やはり、目はこれっぽっちも笑ってはいない。そろそろ許してくれてもいいんじゃなかろうか。


「どれから出そうかねぇ~?」


 俺たちとのやりとりに飽きたのか、天野寺さんが急に真面目な顔で自分の手札を確認しだした。そして十数秒ほど思案してから「んー、じゃあこれでも出しとこうかぁ」と言って、『スペードの4』を出した。

 この人も様子見のつもりなのか? 何にせよ『スペードの4』なら妨害できる『7』・『8』・『10』が出せる。――チャンスだ。


「……栖桐サン、トランプが欲しい」


「うん……何枚?」


 しかし、千羽は栖桐に追加のトランプを要求し、限度枚数である三枚目を引いた。そして、手札には加えずにそのまま場に出す。それは『3』、『4』に続くローカードである『ダイヤの5』だった。


「へー。朽葉さんってそういう戦い方するんじゃねぇ」


「そうかな? 普通だと思うよ」


 そういう戦い方ってなんだろう。二人の反応を見るに、どっちも分かってるみたいだけど、さっぱり分からない。

 「とりあえず流すわぁ」と言って、天野寺さんは『スペードの8』を出し、空いている手で場に溜まっていたトランプを二十五センチほど横にズラすと手札から『クローバーの9』と『スペードの9』を出した。


二枚ダブル……か。栖桐サン、またトランプを貰うよ」


 『9』の二枚に対抗できないなんて、そんなに悪い手札なのか? もしかして、手も足も出ないまま終わってしまうのか?

 最悪の事態ケースが胸をぎる。しかも「今回は……パスだね」という千羽の声を聞いて、想像がより一層と現実味を帯びてくる。


「もしかして、手札が事故でも起こしとるん?」


 扇状に手札を持ちながら千羽を挑発している。

 千羽は一言「……ノーコメント」と言ってはいたが、俺にはその言葉が全てを物語っているように思えた。

 思考を整理するために、改めて二人の手札を数えてみる。

 千羽は九枚も手札が残っているのに対し、天野寺さんはその三分一である三枚。しかもその内訳は『A』が二枚と『6』が一枚だ。『9』の二枚を千羽が出せなかった所を見ると……ここから千羽が逆転するなんて、奇跡や魔法でも起きない限り、無理なんじゃ――いや、違う。千羽は、きっと何か考えがあるはずだ。俺が信じてやらなくてどうするってんだ。


「うーん、朽葉さんはなかなか可愛い顔しとるし、アタシのコレクションならなんでも似合いそうじゃねぇ♪ どんな服を着させようかねぇ〜? あ、そーいえば新作の『猫耳スク水ミニスカニーソ』コスが出来上がったばっかりじゃし、アレ着てもらおうかねぇ♪」


 既に勝利を確信しているのか、楽しそうに天野寺さんが語りだした。


「すく……みに……?」


 山を持ったまま、栖桐が首を傾げてる。どうやら、どの単語も聞いたことがないのか、完全に思考が停止しているみたいだ。

 つーか『猫耳スク水ミニスカニーソ』って何だよ!

 属性ジャンルを詰め込みすぎたせいで、それぞれの持ち味を完全に殺してるじゃないか! 『猫耳』には『猫耳』の、『ミニスカ』には『ミニスカ』の良さがあるだろうに!

 ――それにしても『猫耳でスク水でミニスカでニーソ』か。……ふむ、これはこれで意外とアリなのかも。


「そういうのはいいから、早く次を出してくれないかな?」


 心底どうでもいい。という感じで前髪をクルクルと弄る千羽。


「んー? そんなこと言ってもえぇん? 随分と余裕ぶっとるけど――アタシ、これでアガるんよ?」


 カチンと来たのか、天野寺さんが眉を寄せ口をニヤリと吊り上げる。その言葉を聞いて、俺は改めて今が窮地だということを思い出した。


「いいから、早く出してよ。まだ勝負は終わってないんだ」


「あっそ。じゃあえぇよ。これで――終わりにしてあげる。はい、『A』の二枚。出せる? どうせ出せんのんじゃろ?」


 力強く机の上に置かれる、二枚(ダブル)()トランプ(エース)。それを千羽は一瞥すると、山を持ったまま不安そうな顔をしている栖桐に、優しく「――四枚」とだけ言った。

 そして、受け取ったトランプを確認し――


「申し訳ないんだけどね、ボクの勝ちだ」


 と、扇状に持った十三枚の手札で顔の下半分を隠しながら目を細めた。


「とりあえず、アナタにもトランプを引いてもらおうかな。ハイ、『2』の二枚ね」


「……持っとったん?」


「引いたんだよ。()()


 シニカルに笑いながら、天野寺さんがトランプを引くのを眺め、限度枚数である六枚目を栖桐から渡されたところで、今度は手札からトランプを四枚同時に引き抜いて置いた。


「はい、これで革命だね。出せる? 出せないよね?」


 天野寺さんの口調を真似ながら、千羽が出したトランプは『ハートの3、4、5、6』だった。


「か、革命……!?」


 まさかの展開に、下半身に天野寺さんを乗せていることも忘れ、身を乗り出して確認する。

 ――『革命』。

 それは数字の強さが反転してしまう、一発逆転のチャンスを孕んだ役だ。

 簡単に説明すると、最強だった『2』が最弱になり、最弱だった『3』が最強になる。手札にハイカードばかり残っている時に起こされると、途端に勝つ可能性が急落する、非常に厄介で頼もしい役。それが『革命』だ。

 しかも、千羽が出した『さいきょう』から始まる『革命』だと、『革命返し』をして主導権インシニアティブを取り返そうとしても『Joker』から始まる『Joker、3,4,5』という『変則革命』じゃないと無理だ。


「……まさか、こんな隠し玉を持っとるとはねぇ」


 天野寺さんの口調には先ほどまでの勢いが無かった。が、それも当然だろう。限度回数があるにせよ、一度に十二枚も引かされ、しかも、それがどうしようもないトランプばかりだったら彼女でなくとも、誰だって落胆するに決まっている。


「次はこれかな」


 千羽が、今度は三枚だけ掴んで場に出そうとするのを見て、栖桐が天野寺さんに向け、すっかり痩せ細った山を差し出す。が、「あぁ、その必要はないよ」と千羽が口で制止した。


 どうしてか。それは、次に出したトランプが『ハートの8,9,10』を利用した『階段』という役だからだ。

 『10捨て』と『8流し』の効果をタイムラグ無しに使用でき、尚且つ、そのままもう一度自分の番から始めることの出きる強力なコンボ。


「ただ、まとめて流したいだけだからね」


 千羽は手札が残っているにも関わらず、『10捨て』の効果を無視して、『8流し』だけを使ってそのまま三枚とも流した。

 そして――


「これは、ボクからのささやかな意趣返し(プレゼント)だよ」


 片目を瞑り、微笑みながら『ハートの7』と『ダイヤの7』を使った二枚ダブルを出し、天野寺さんに残った手札である二枚の『Joker(トランプ)』を渡すと、右手の親指を立て、人差し指を天野寺さんに向けてから、ゆっくりと撃ち抜いた。


「チェック・メイトだね」


 その姿は、ただただ格好良かった。


 続く



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