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友だちはへん人ばかり  作者: せい
第二話 朽葉千羽の華麗なる勝負
36/92

へん人No.5 天野寺薬 その4

荒木「あれ?」

芦屋「よー荒木! 元気してるかぁ?」

荒木「元気も何も、今日お前とは学校であったばっかりだろうが」

芦屋「いやー何か俺だけ出番が少ないと思ってさ、こうやってしゃしゃり出てきたってわけよ」

荒木「一生引っ込んでろ」

芦屋「おまっ、それはヒドくないか!? こう見えて結構、俺達の会話って人気があるんだぞ?」

荒木「あー、最初の内だけな」

芦屋「そんなこと言うなよー、俺とお前の仲じゃねーかよー」

荒木「ちょ、やめろ! くっついて来るなって! こんな事してたらアイツが来るだろ!」

藤吉「呼んだかしら?」

荒木「ほらー! 一番面倒なヤツが来ちゃったよ! 召還されちゃったよ!」


以下、本文です。



 俺があまでらさんと勝負を始めてから七分が経とうとしていた。戦況は、俺の手札が八枚なのに対して、彼女の手札は残り五枚。

 ここを凌げれば、俺の勝ちは確定したも同然だ。どうしてそんなに強気なのかって? よくぞ聞いてくれた。それは、俺の手札がかなり充実しているからだ。

 手持ちの八枚の内、『2』は一枚も無いものの、『2』の次に強い『A(エース)』が三枚に、『スペードの5〜8』が一枚ずつ、それに『Joker』が一枚ある。これは神が俺に『勝て』と言っているようなものだろ。いや、むしろ、この手札で勝てないわけがない。


「ところで、天野寺さん。まだ出してくれないんですか? そろそろ待ちくたびれちゃったんですけど」


「うーん……いやぁ、ちょっと厳しい手札じゃけんねぇ。どうすれば、秋葉原くんに勝てるかぁ思って、色んなことを考えよんよぉ」


 眉を寄せ、持っている五枚の手札を睨み唸り始めてから、早二分。今し方、勝負が始まってから七分が経とうとしていた--と俺は言ったが、実はその内の約三分の一は天野寺さんの長考によるものだった。


「もう二分は経ちますよ。――早くしてくれませんかね?」


 思わず、少しだけ口調が荒くなってしまう。

 俺としては早く決着をつけたいと気持ちと、いい感じにコンボが決まりそうな手札を使いたかったということもあって、少しだけイライラしていた。


「怖いねぇ〜、そんなに急かさんでやぁ。あ、ところで罰ゲームの事って話したっけ?」


 何で今更。と思ったが、さっきルールを確認した時に聞いていなかった気がしたので、軽く首を左右に振った。それを見て、トランプを持っていない方の手のひらひらさせながら、何かを確認するように天野寺さんがぽつぽつと語り出した。


「芦屋くんや、いりくんらにはコスプレをさせたんじゃけどね、あれって元々はアタシの趣味みたいなもんなんよ。まぁ、趣味って言っても自分で着るんじゃなくて、着とる人を見るのが好きなんじゃけどね」


「はあ……。自分では着ないんですか?」


「んーー。市販のヤツじゃあ、なかなかアタシのサイズに対応しとるのがないけぇねぇ」


 悩ましげに両腕を使って胸を押し上げる天野寺さん。

 ふむ。確かに市販のモノでは、あのわがままボディに対応しているサイズはないだろうな。胸やヒップがドえろ――ゲフンゲフン。もとい、ドエラいことになりそうだ。


「今まで、アタシが勝った時に要求しよったのは『コスプレ』をさせる――って罰ゲームじゃったんじゃけど、今回の挑戦者チャレンジャーである、秋葉原くんは……なんてーか、アタシが持っとるコレクションで似合うヤツがないんよねぇ」


「そ、そうなんですか?」


 あし達みたいに、キャラに合わないコスプレをさせられるのは嫌だけど、それはそれでむなしい。


「じゃけんね、今回はルールを変更して、アタシがもし勝てたら、秋葉原くんには備品になってもらおうと思うんじゃけど――えぇかね?」


「備品……いいですよ。正直、負ける気しませんし」


 口角を上げながらニヤリと笑ってみた。それはハッタリでもブラフでもなく、純粋に勝てると思ったからだ。


「強気じゃねぇ〜。な~んか、何を出しても負けそうな気がするわぁ」


 俺の不敵な笑みを見て、天野寺さんは苦笑していた。

 俺は自分の手札に視線を落とし、どんな場合でも対応できるよう、頭の中で軽くシミュレートする。


「う〜ん、これを返されたらアタシの負けじゃわぁ〜」


 そう言いながら、天野寺さんは手札からトランプを三枚まとめて、場に出した。

 トリプルか。……まぁ、どんな三枚が来ようと俺の『A』で返して――


「ハァァァーーッ!?」


 ――そこで俺の思考は止まった。


 何故なら、彼女が出した三枚とは、『ハートの2』、『クローバーの2』、『ダイヤの2』からなる、返すもクソもない、極悪非道な三枚だったからだ。


「秋葉原くん、もしかして出せる? 出せちゃったりする? もし、出せるんならはよー出してね? じゃないとおねーさん心臓ドキドキしとるけん♪」


「くそッ……!」 


 ――やられた。何がドキドキしてる、だ。小富豪このゲームで一番強いトランプは『Joker』で、その次に強いのが『2』だ。『2』が一枚シングル、もしくは二枚ダブルなら『Joker』で返す事が出来るけれど、三枚を出されてしまうと、どうしようもない。どうしようも出来ない。

 奥歯を噛みしめ、山から三枚、トランプを引いたが三枚とも役に立たないモノだった。


「あれ? 出せんのん? それじゃあ--ハイ♪ これでアタシの勝ちじゃね♪」


 そう言って天野寺さんは『ダイヤの7』を一枚だけ場に出し、俺に、残った手札である『Joker』を渡して、ゲームの勝者となった。


「荒木くん……」


「……ごめん。格好悪いな、俺」


「今回は仕方ないんじゃないかな。あの人の運がアックンより強かった。もし、『(キング)』以下の三枚だったらアックンが勝ってたと思うよ」


どう…………本当にごめん。情けないけど、後は頼んだ」


 あれだけ意気揚々と先陣を切ったってのに、ここまで無様に負けるとは思わなかった。

 あまりの自分に対する不甲斐なさに意気消沈しながらも、次鋒である栖桐にバトンタッチし、千羽の隣で勝負の行方を見守ろうとしたら「ん? どこに行こうとしよるん?」と、天野寺さんが言ってきた。


「どこに――って、そりゃここですけど?」


 首を傾げながら、壁際に立っている千羽の横を指差すと、天野寺さんは「きみはこっちじゃろ」と、自分が座っている椅子に指を差した。


「こっち……と、言いますと?」


「嫌じゃねぇ〜。さっきの約束、もう忘れたん? さっき秋葉原くんはアタシに負けたじゃろ? それで『備品になってー』って言ったら、『いいですよ(カッコ)キリッ(カッコとじ)』って言ったじゃ〜ん?」


 机に肘を突き、俺の真似――ちなみに全然似てない――をしながら白眼視で見つめてくる。

 

「備品……ですか」


「そうよ♪ アタシが勝った瞬間から、きみはこの店の備品になったんじゃけん、アタシがきみをどうしようと、アタシの勝手なわけ。そこん所ちゃぁんと理解してもらわんと困るんじゃけぇね?」


 そう言うと、座ったまま左――俺から見て右――の椅子に座り直し、誰もいなくなった真ん中の椅子を引き、背もたれをぽんぽんと叩いた。

 ここに座れ。と言うことか?

 怪訝な顔をしている二人と顔を見合わせ、机の反対側に回り込み、引かれた椅子に座ってみる。

 天野寺さんは『備品』と言っていたけど、いったいどういうことなんだ? ここの雑用でもさせられるのか? 備品と言うからにはバイト代も出そうにないよな。

 なんて下らないことを考えていると、不意に俺の視界が遮られた。


「あ〜、これこれ〜♪」


 俺の視界を遮っている()()から声が聞こえてきたが、俺はそれが何なのか把握出来ないでいた。なぜなら、形容しがたい甘美な香りがずっと鼻孔を直撃していたし、両膝に当たる柔らかな弾力と心地いい負荷が与える衝撃は俺の思考を停止させるには、十二分の破壊力を兼ね備えていたからだ。


「んー♪ やっぱり思った通りじゃったわぁ♪ この部屋の椅子って無駄に堅いけぇ、ちょうどこんな()が欲しかったんよねぇ♪」


 ……どうやら俺は備品という名の座布団にされたみたいだ。


「……くちさん」


「分かってる。ここはボクに任せて」


 俺の視界を遮っている何かの向こうから、半端じゃない圧力をビンビンと感じたので、首だけをスライドさせ反対側を見てみる。そこには次鋒である栖桐の代わりに大将である千羽が腕を組み座っていた。

 心なしか千羽の背景が歪んで見える。

 千羽とは会ってまだ日が浅いが、今までの経験から察するに――うん、怒っていらっしゃる。確実に怒っていらっしゃる。激おこを通り越してインフェルノしていらっしゃる。


「栖桐サンの代わりにボクが次鋒を勤めるよ。いいよね? うん、ありがとう。感謝しなきゃね。それじゃあ始めようか」


「勝手に話を進めていらっしゃるーー!」


 そして無視でいらっしゃる! もう慣れたけどね!


「あれ? ここの()()()って喋れるのかい?」


「凄いね……! きっと最先端の技術を応用した()()()なんだと思うよ……!」


「みたいだね。――よし、それじゃあボクが勝ったらその()()()を貰うことにするよ。その()()()をね」


 みたいだね。じゃねーよ。


「二人とも、座布団オレを取り返してくれる気満々なのは嬉しいんだけど――とりあえずその手に持った名状し難い凶器カバンを持つのは辞めてくれない?」


 カバンは本来、人の頭を殴るために存在するんじゃないんだからな? 


「二人ともそんなにこの座布団が欲しいんじゃ〜? まぁ、アタシに勝てたら譲ってあげてもえぇよ〜♪ それじゃあ三毛さ〜ん、トランプ配ってくれん?」


「…………了解しました」


 イライラしている友人達をよそに、肩に三毛猫ミケランジェロを乗せた三毛さんがトランプをシャッフルしだした。まずは十数回ほどランダムに山を切り、それを半分に割ってから両手の親指で弾きながらショットガン・シャッフルをし、もう一度山を切って一枚ずつ配っていく。

 天野寺さんに。

 千羽に。

 天野寺さんに。

 千羽に。

 天野寺さんに。

 千羽に――


「…………!?」


 ――三枚目のトランプを配ろうとした瞬間、凄まじい速さで千羽が三毛さんの右腕を掴んだ。


「セカンド・ディール……。手品師マジシャンが使うテクニックをこんな所で披露するなんて、アナタはいったい、どういうつもりなのかな?」


「……………………」


 眉間に皺をよせ、汗を垂らしている三毛さんの左手に握られた山は、上から二枚目のトランプが不自然に飛び出していた。


「アックンと勝負した時――いや、今までここで行われた勝負でもコレをやってたんだろ?」


 千羽が大きな目を細め、睨みながら詰問をする。


「……コレは、今回、私が独断でやった事です。この方の指示ではありませんし、いつもはしておりません」


「……そんな事言われても……信じられません。あなたと……この人は同じ店で働いている仲間なんですよね……? そんなの『信じろ』っていう方が無理です」


 千羽の後ろに立っていた栖桐も、三毛さんの顔を見ながら抗議していた。


「きみらはどうしたいん?」


「アナタが敷いている、その座布団を返してほしい」


「座布団って、俺は――」


「んー、それは出来んねぇ」


「……どうしてですか?」


「だって、アタシは()()()()なんてしてないし?」


「また、随分と可笑しな事を言うね。誰がどう見たって言い逃れなんて出来ない状況だって言うのに、しらばっくれるとはね」


 確かに千羽の言う通りだ。こんな場面で白を切るなんて並の根性じゃ出来ないと思う。

 しかし、俺は脳内にとあるフレーズが思い浮かんでいた。


「――イカサマはバレなきゃイカサマじゃない、イカサマをしてバレる方がまぬけ。……ってことか」


「そういうこと〜♪ 流石はアタシが目をつけた座布団なだけはあるねぇ♪」


「う、うわっ!?」


 何故か頭を撫でられた。ちょっとだけくすぐったかったが、ただでさえピリピリしている人が二人もいるというのに、彼女達から送られてくる視線で顔に穴が空きそうだったので、急いでその手を振り払った。


「芦屋くんからルールは聞いとったんじゃろ? アタシは彼やここに来た人らには等しく同じ説明をしとるよ。もちろん、『イカサマをしてはいけない』なんてルール作っとらんし、そもそも今回の事も最初に確認せんかったきみらが悪いって思わん?」


「そ、それは……」


「……腑に落ちないけど、筋は通ってるね」


 俺たちは、それ以上何も言えなくなってしまった。

 あくまでイカサマをしていたのは三毛さんであり、天野寺さんに至ってはまだトランプに触れてすらいなかったんだ。だから、彼女を糾弾するというのはお門違いというものだ。


「……とりあえず仕切り直さないか? ディーラーは――そうだな、栖桐にやってもらって、勝負はそのまま千羽と天野寺さんがやるってことでどうだ?」


 一触即発の雰囲気に包まれた部屋の空気を変えるために、俺が出来る事は再勝負の提案だった。


 続く

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