へん人No.2&3 栖桐&朽葉 その2
「オーケィ、オーケィ。そんな理由があったんだね」
「分かって頂けたでしょうか……?」
額から頬へと向かって、冷や汗が滴り落ちるのを感じつつ、俺は顔を上げた。
「正直、ちょっとガッカリしたかなー」
……どうやら失望させてしまったみたいだ。
「あ、荒木くんの事をイジメないで……!」
「イジメてなんかいないさ。これはただの質問であり詰問だよ」
座っている俺の目の前で、二人の女の子が言い争いをしている。
もしや……!? これが噂に聞く修羅場ってやつか!?
「俺のクラスメイトと同級生が修羅場す――」
「何か言ったかい?」
「イエ、ナンデモナイデス」
――俺、撃沈。
時はほんの数分前に遡る。
授業が終わり、帰りのHRを済ませた俺たちは、待ち合わせ場所である、小中公園に栖桐と二人で向かった。
「あ、来た来た! おーーい♪」
「オーッス。待ったか?」
公園を入ってすぐ横にあるベンチに座っていた千羽が立ち上がり、こっちへ向かってくるので、俺も片手を上げて挨拶をした。
「おりゃーー!」
だけなのに――突如走り出した千羽から繰り出された、猛烈で・強烈で・苛烈で・熾烈なローキックを弁慶の泣き所にお見舞いされた。
「あ、足があああああああっ!!」
「あ、荒木くん! 大丈夫!?」
安否を気遣ってくれる栖桐には悪いけど……今の俺は、とてもじゃないが言葉を返せる状態ではなかった。
「とりあえず……そこに座りたまえ」
「痛て……ちょっ、千羽! いきなり何するんだよ!?」
「いいから座って」
「無視ですか!?」
「正座」
「せ、正座っ!? そんなっ! まだ足の痛みが全然ひいてないってのに!!」
「いいから正座」
「……ハイ」
あまりの剣幕に気圧された俺は、千羽の言うがまま、ベンチの上に正座した。
そして、時は動き出す。
俺は正座しながらもおずおずと顔を上げ、二人の表情を確認してみた。
黒髪の女の子は、あまりにも衝撃的な展開に戸惑っているようだ。
もう一人の女の子は……
「…………」
両腕をがっしりと組み、大きな目を薄め、正座した俺を見下ろしながら立っていた。
うん、これは十中八九、怒っていらっしゃる。激おこ的なアレでいらっしゃる。
「だいたいキミ……えっと栖桐さん、だっけ? キミはカレのなんなんだい?」
「わ、私は……。そ……そういう朽葉さんこそ、荒木くんとはどういう関係なの……?」
一瞬、栖桐の口から千羽の名字が出たことに驚いたが、よくよく考えなくても、同じ学校に通う生徒同士なんだからそれくらいは知ってるよな。
俺も名字くらいは知ってたしね。
「ボクかい? そんなの言わなくても分かるだろう? ボク達は……」
そう言うと千羽は、正座している俺の元へズイズイと近づいてきて――
「うおっ!?」
「えっ……?」
「こういう関係だけど?」
――突然。正座している俺の横に座り、腕を半ば強引に絡めてきた。
しかも、結構キツめに巻き付けているので、『アレ』が腕にグイグイ当たっている。
「え!? え!? ええええ!?」
俺も一人の健全な男子だ。正直言って……やばいっ!
俺の煩悩がロイヤル・ストレート・フラッシュしそうだっ……!
「ちょ! 千羽さん! 当たってる当たってる!」
このままじゃ、公衆の面前でどうにかなってしまそうだったので、俺は千羽に訴えずにはいられなかった。
しかし――
「当たってるんじゃないよ。当ててるんだ」
「ファ、ファンタスティーーーーック!!」
そんなことを言われちゃあどうしようもない。これは……あれだわ。不可抗力だわ。不慮の事故だわ。
「さ、そういうことだから『部外者』さんはさっさと帰りたま――えっ!?」
見せつける様に押し当てられる幸せを左腕に感じていると、突然、体がぐいっと右方向に引っ張られた。
「うわっ!? って、これは!!」
「わ、私だって荒木くんとは、こういう関係なんです!!」
「――くっ、まさかボクの真似をしてくるとはっ……!」
「マーーーベラーーーースッ!!」
左腕にだけ感じていた幸せが…………右腕にも訪れた。
「は、離れたまえ! キミまでくっつく必要はないだろう!?」
「そ、それを言うなら……朽葉さんの方こそ、くっつく必要はないと思う……!」
「いーの! ボクはくっついててもいーの!」
「それなら私だって……!」
二人の声がどんどん大きくなっていく……俺的には、このままでも全然構わないんだけど、如何せん今は夕方だ。
俺たちが騒いでいるせいで、遊んでいる子供達や、行き交う人々が怪訝な表情でこっちを見てくる。
ベンチの上に正座させられているというだけでも、かなりの注目を浴びるというのに……!
よし。ここは一つ、宥めてみるしかないっ! もし俺の聞かないようならガツン! と言ってやればいいんだっ!
「あ、あのーー」
「……何だい?」
「どうしたの……?」
「いやな、そろそろお互いの事もそれなりに知れたと思うし、ここら辺で歩みよったらいいんじゃないかなーーなんつっ--」
「アックン、キミは少し黙っててよ。これはボクと栖桐さんのハナシなんだ」
「そうだよ……荒木くんはちょっとすっこんでて……」
「ゴメンナサイ」
――俺、再び撃沈。
俺が撃沈しているのを無視して、二人は再び騒ぎ出していた。気のせいか、止めに入る前より激しくなってる気がする。
「…………どうすればいいんだ」
本当なら頭を抱えて悩みたい所だったけれど、生憎、両腕は塞がっているので、とりあえず空を見上げることにした。
六月にしては珍しく、雲一つない、カラっとした気持ちのいい空が一面に広がっている。
俺はいったい何をしているんだろう。こんなところで女の子二人に腕を組まれながら、いったい何がしたいんだ?
気がつけば、俺はそんな事を考えていた。
――俺が現在するべき事は何だ?
――俺が今日するべき事は何だ?
――俺がいまやりたい事は何だ?
――そんなの決まっている……!
俺がいまやるべき事は――――ラブコメの主人公じゃない!
「俺は……俺はっ……! 友達の敵を討ちに行くんだあああっ!!」
「わわっ!」
「きゃっ!」
腕に組み付いている千羽と栖桐を二人ごと持ち上げる。
タイミングよく、公園前に設置された停留所へとバスが近づいてきたので、二人を抱えたまま、俺はバスに飛び乗った。
『次はーー小鉢中峰三丁目ーー小鉢中峰三丁目ーー』
バスのアナウンスが車内に鳴り響く。
俺はカバンを持ち、立ち上がると空いている座席のボタンを押した。
芦屋の話によると、降りてからもしばらく歩かないといけないみたいだ。
「がんばろう……」
誰に言うでもなく、俺は一人ごちた。
続く




