へん人No.4 藤吉乙女 その1
一週間ぶりの更新んんん!!
「財布……よし、教科書……持った、弁当は……まぁ学校で買えばいいか」
太陽の暖かな日差しを全身に浴びつつ、俺は鞄の中に入れたノートやら教科書やらを確認しながら歩いていた。
「忘れ物はない……?」
俺のカバンを覗きこみながら、栖桐が聞いてくる。
「あぁ、昨日の課題も出された宿題もちゃんとカバンに入ってる。とりあえず、提出すればいいのは古典のプリントと、数学のノートだけでいいんだろ?」
「うん。確かその二つだけだったはずだよ……?」
「ん? どうして疑問系なんだ?」
「昨日は色々あったの……」
「色々?」
「うん、色々。……でも、それ以上は私のプライバシーに関わるから教えてあげれないの」
「ちょっと待て、俺の個人情報や不法侵入・窃盗・その他諸々を犯しているお前に、プライバシー云々を言う資格なんてない」
「それとこれとは話が別だよ……?」
「一緒だよ! お前マジでガラス代請求すっぞ!?」
「……はい」
まったく、栖桐にも困ったもんだ。それに昨日今日と晴れたからいいものの、雨が降ってきたら部屋がずぶ濡れになるから早いところなんとかしないとな。
それに網戸とカーテンは無事だったから外から中が見えないように閉めてはいるけど、あれじゃあ防犯の『ぼ』の字も無い。
盗られて困るようなものは置いてないけど、やっぱり不安だ。
うん。やっぱり業者の人になるべく早く届けてもらうようにお願いしてみよう。
……あ、言わなくても分かるかもしれないけれど、本日の栖桐さんの侵入経路はもちろん窓から。
本人曰く、ここ数日で一番楽だったらしい。まったくもって不名誉なことだ。
「新しいガラスにしてもまた割られるだけだろうし、今度は割れにくい防犯に特化したガラスにするかなー」
「え、えぇ!? そ、それじゃあ窓から入れないよ……」
「いや、そもそも窓から入ることがすでに間違ってるから」
「あ、窓がダメなら合鍵を使えば……」
「お前はどこのアントワネットだよ!」
裏から入れないのなら、表から入ればいいじゃない。ってか!
「じゃ、じゃあ……普通の窓ガラスにしてくれない?」
と、言いながら栖桐は黒曜石のような瞳を潤わせ、まるでエサを欲しがる子犬の様に見つめてきた。
あまりの可愛らしさに思わずたじろいでしまう。
あぁ、これだから女の子って生き物はズルい……!
「むむむ…………はぁ、わかったわかった。わかったから、そんな目で俺を見ないでくれよ」
「本当……?」
「あー本当だ。でもな、今度からは昨日みたいに窓を破壊するんじゃないぞ? 次やったらマジで請求するからな」
「……うんっ!」
どうして俺はこうも女の子に弱いんだろう? 学校についたら芦屋に相談してみるか。少なくとも俺より女の子の扱いには慣れてそうだし。
嬉しそうに鼻歌を奏でながら歩き出した栖桐と一緒に、俺は学校へと向かった。
「……え、芦屋のヤツまだ来てないのか?」
自分の席に座りカバンを置いたところで、俺は芦屋がまだ学校に来ていない事を学級委員長の口から聞かされた。
「そうなのよ。いつもなら七時半には学校で課題とか予習をしてるんだけど、今日はまだ学校に来てないみたいなの」
へぇーそうだったのか。アイツと友達になってから一年近く経つけど、全然知らなかったな。
でも、今思い返すと確かに俺が教室に着いた時には既に席に座ってたな。
「っていうか、荒木なら下駄箱で靴を入れる時に分かるでしょーが」
「……? あぁ、そういえば俺の上がアイツだったっけ」
『あしや』の次が、俺こと『あらき』だ。出席番号はもちろん二番。
「今日は栖桐と大事な話をしてたから、そこまで気が回らなかったんだよ」
「大事な話……? それはどんな話なのかしら?」
「うん、それはね……? 私と荒木君にとっての大事な将来の事……だよ」
「誤解を招くような表現はやめなさいッ!」
「いた……ッ」
とりあえず突っ込みという名のチョップをお見舞いしておいた。
叩かれた部分を両手で抑え、今にも泣き出しそうな目で俺を見つめてくるが、敢えて無視。
「もう、友達なんでしょ? しっかりしなさいよ」
赤いフレームの眼鏡を片手でクイッとさせながら、我がクラスの学級委員長である藤吉乙女は眉を顰めながら呆れたようにため息をついていた。
「そうは言われてもさぁ委員長。確かに俺と芦屋は友達同士だけど、まだ知り合って一年しか経ってないんだぜ? 事前に『今日は休むー』とか、『今日は遅れていくわー』とか連絡でもくれないと分からないっつーの」
「連絡がないのなら荒木からすればいいじゃない。それが友達ってものでしょう?」
「そうかぁ?」
「そうよ! さぁ、早くメールを送りなさい! きっと芦屋は荒木からのメールを今か今かと待ちわびているわッ!!」
「そ、そうかなぁ……?」
「栖桐さんまで何を言っているの? そうに決まっているわ! さぁ、早くメールを作成しなさい!」
まるで油紙に火が付いたように興奮しながら委員長が詰め寄って来るので、慌ててポケットからスマホを取り出しメールを作成した。
【件名】なし
【本文】今日は学校に来ないのか?
どうしてかはわかんないけど、
委員長が心配してるぞ。
とりあえずコレ見たら連絡くれ
「どうだ委員長、こんなもんでいいか?」
「全然ダメね。インパクトが足りないわ」
「い、インパクト……!?」
「そう、このメールにはインパクトが圧倒的に足りないのよ! ちょっとスマホを貸しなさい! 学級委員長であるこの私が、どーーーーしても学校に来たくなるようなメールを送ってあげるわ!」
そう言うと、委員長はスマホを俺の手から奪い取り、凄まじい速度でディスプレイを指で叩き出した。
「い、委員長? そんなに強く叩かれたら壊れそうなんだけど」
「心配はいらないわ! こう見えて私って結構丈夫な体してるから!」
「いや、お前の心配じゃねーよ!! せめてもうちょっとソフトに扱って――」
「出来たー!」
「聞けよッ!」
「送信〜♪」
「聞けよッッ!!」
お前の両耳はただの飾りなのか!?
「ふぅ……我ながらなかなか素晴らしい文章だと思うわ。もう送っちゃったけど、内容確認してみる?」
「俺はどうしてお前が委員長に選ばれたのか不思議だよ……はぁ、えーとどれど――」
「あ、私も見てみた――」
【件名】こらぁ〜〜(はぁと)
【本文】ねぇねぇ、いまなにしてるのぉ〜??
オレっちはお前が学校にいないから
メチャさみしぃよ〜〜TT
早く学校に来てくれないとぉ……
おこだゾッ☆
「……………………」
「うわぁぁ…………」
「インパクト抜群でしょ? これで芦屋も学校に来てくれること間違いないわねッ!」
「来ねーよ!! 来たとしてもぶん殴られるわッ!!」
「そんな事ないわよ〜〜」
「そんな事あるよッ!! 少なくとも俺だったら、例え地球の裏側だろうが、平行世界だろうがどこからでも殴りにいくわッ!!」
「つまり、それは愛の前には国境も次元の壁も関係ないって事ね?」
「違ぇわ!! そもそもなんで愛が出てくるんだよ!?」
「え? なんでって、そりゃもちろん私の目からは二人の関係はそう見えるからだけど?」
「ハァ!? お前の網膜はどうなってるんだよ!? 腐ってるんじゃないのか!?」
「男と友人のただならぬ爛れた関係……最初はただの友情だった。でもいつしかそれは愛情に変化し、戸惑いながらも自分の気持ちを受け入れた荒木は放課後の体育倉庫に芦屋を呼び出し……ハァハァ……」
コイツ……腐ってやがる……!! 本当よく学級委員長になれたな!?
「『あ、荒木……そこは……』『そこ……? そこってどこかな?』『あぁ……! そこは……! そこはぁ……!!』グフフ……グフフ……」
「って一体頭の中で俺と芦屋に何をさせてるんだ!?」
「ハハハッ何って、そりゃあナニに決まってるじゃないの」
「ちょ……俺たちで妄想するな!!」
「いいや、限界だッ! 妄想るねッ!!」
「黙れこの変態ッ!! この色魔ッ!! この腐女子ィィィ!!」
「腐女子で結構ッ!!」
限度額のない変態だーー!!
「……あ。ね、ねぇ荒木君?」
すると、いつの間にか席に座っている栖桐に制服の袖をちょいちょいと引っ張られた。
「悪い栖桐、今ちょっと取り込んでるんだ。話なら後に――」
「せ、先生来てるよ……?」
栖桐の言葉で我に返ると、いつの間にか先生先生――通称『ナマ先生』――が黒板の前に立っていた。
更に周囲を見渡すと、席に座っていないのは俺と委員長だけのようで、教室中から「クスクス……」と微かな笑い声が聞こえてくる。
「とりあえず……席に座ろうぜ」
「決着は昼休憩でつけるわよ」
「つけねーよ!!」と、叫びたかったが、これ以上朝から無駄な体力を消費したくなかったので、無視して席に座る。
すると「やっとHRが始められる」とでも言いたそうに、ナマ先生が大きなため息をついた。
そして――
「よーし、それじゃー出席をとるぞーー」
事件は起こった。
続く




