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友だちはへん人ばかり  作者: せい
第二話 朽葉千羽の華麗なる勝負
20/92

へん人No.3 朽葉千羽 その6

 現在の時刻は午後三時。


 俺たちはゲーセンを後にして、二人で肩を並べながら歩いていた。

 満足げに微笑みながら、ぬいぐるみを両手で抱き抱えているくちを見ているだけで、俺の心はポカポカと暖かくなる。

 が、そんな心模様とは裏腹に俺の財布には一足ひとあし二足ふたあしも早い冬が訪れていた。


「どうしたんだい? なんか浮かない顔をしてるけど?」


「いや……お前が嬉しそうにしてるんならそれでいいんだ……」


 一回ワンプレイ五百円の高級UFOキャッチャーを攻め落とすのに「今月の雑費で使う予定だった『樋口ごせんえん』を全部使っちゃったーHAHAHA!!」……なんてかっこ悪くて言えやしない。

 大寒波が絶賛到来中である。

 そんな俺の複雑な心境を知ってか知らずか、朽葉は「まーいっか♪ んー♪ しかしキミは可愛いねー♪」と言いながら、ぬいぐるみの顔に頬ずりをしていた。


「……!」


 ただでさえアイドルの様に可愛らしい女子だというのに、並の女子には出来ない事を平然とやってのける朽葉に思わず見とれてしまう。

 危ない……なんという女子力の高さだろうか。

 俺は『至って』健全な男子なので、そんな事をやってのける朽葉に憧れこそはしないが、思わずこのままその小さな体を抱きしめてしまいそうになったので、慌てて思考を切り替える。


「せっかくあだ名を『恩人クン』に戻してもらえたっていうのに、本能のままに行動してどうすんだよ」


 朽葉に聞かれないよう呟く。

 すると、ハードボイルドの化身と化した天使にボコボコにヤられたはずの悪魔たちが、ブツブツと何か言っているのが聞こえてきた。


 『チッ……ダメだったか』『ヘタレが』『HEY! AKIRA! CHICKEN!!』


 何なのコイツら。

 全くもって酷い言われようだ。が、コイツらは『あくまで』俺が生み出した悪魔たちな訳で、悪魔の囁きとは言ったもののコレも俺の本心だ。

 どうやってコイツらを鎮めるべきか……いや、こういうときはコイツに任せよう。

 ハードボイルドな良心に……!


 『死にたいヤツから前に出ろ……』


 『ギャアアアアアアッ!!』『いやぁぁぁぁぁ!!』『あべしッ!!』


 心の中で第二次だいにじ葛藤かっとう対戦たいせんが勃発し、どうやら悪魔達は世紀末覇者エンジェルに駆逐されたようだ。

 何か、今日だけでかなり理性が鍛えられた気がする。


「――ぇ……――ねぇってば!!」


「うぉッ!?」


「ボクの話、ちゃんと聞いてたかい?」


「あー……ごめん。ちょっと考え事してた」


「もーーッ!!」


 頬を膨らませながら、ぬいぐるみの腕を使ってペシペシと叩いてくるので、今度は気持ちを切り替えた。


「で、なんの話だっけ?」


「まったく……ほら、ボクたちって出会い方が『アレ』だったしょ?」


「うぐ……ッ」


 まさか俺がよこしまな事を少しでも考えていたのがバレていたのか!? これ以上俺に何を要求すると言うんだ!?


「だからさ、よく考えてみるとボク達ってまだちゃんと自己紹介してないなーーって思って」


「自己紹介……あ、確かに」


 朽葉の名前は教えてもらってるけど、俺はまだ名乗っていないし、それに会った時から一貫してあだ名でしか呼ばれてない。


「だから……さ、そろそろキミの事をちゃんと名前で呼んであげたいんだけど……ダメかな?」


「だ、ダメなわけないじゃないか! むしろオッケーというか、その、大歓迎というか、えっと、お、お願いしますッ!!」


 何故だろう、ただの自己紹介ってだけなのにドキドキする……!

 このまま心臓が燃え尽きてしまうんじゃないかってぐらい震えている……!

 落ち着け、落ち着けよ俺の心臓……!


「そ、それじゃあまずはボクから自己紹介させてもらおうかな」


「……え、いやもう朽葉の名前フルネームは聞いてるし、わざわざやり直さなくても――」


 と、言いかけたところで唇に指を当てられ「いいから、いいから」と言われた。


「人に名前を聞くときは、まず自分からって教わらなかったかい?」


 ごもっともな意見だったので黙って頷く。


「それじゃあ改めまして……ゴホン。ボクの名前はくちだ。千の羽と葉が朽ちるって覚えてね」


 朽ちるって! 随分と不吉な語呂合わせだなぁおい!

 一応、心の中でツッコんどいた。流石にこの場で口に出してこの空気を壊してしまうほどKYじゃないし。


「それじゃあ今度は俺の番だ。初めまして朽葉さん、俺の名前はあらあきらだ。」


「うん、こちらこそよろしくね。アックン」


「へッ!?」


 アックン!? アックンって誰!?

 辺りをキョロキョロと見渡す。うん、俺たち以外には小学生しかいない。

 もしかしてあの中に『アックン』が……!? とも思ったが、誰一人として俺たちの方を向いてはいない。

 と、言うことは――


「もしかして……いや、もしかしなくてもアックンって俺のこと?」


「……随分とおかしな事を聞くね。この状況でキミ以外に誰がいるというんだい、アックン?」


 ……ですよね。

 しかし『アックン』か。あしどうも『荒木』としか呼ばれなかったし、そもそもあだ名らしいあだ名を付けてもらったことが皆無だったので、なんだか背中の辺りがむず痒くなった。


「そ、そうだよな。よろしくな朽葉――」


「違う」


「へッ?」


 『NO!』とでも言いたげに片手で俺の言葉を遮る。 


「な、何が違うんでしょうか?」


「千羽だ」


「えっ?」


「これからボクの事は千羽って呼ぶように。アンダスタン?」


「オ、オウイエー」


 俺がそう言ったのを確認すると朽葉ーーもとい、千羽は「よしっ」と嬉しそうに頷いた。


 続く  


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