へん人No.1 芦屋春日 その1
春、五月。
俺がここ。小鉢中峰高校に入学してちょうど一年と一ヶ月が過ぎた。
クラス替えも終わって新しいクラスメイト達との距離感も分かり、それなりに穏やかに過ごしていた。
ちなみに距離感というのは精神と肉体のどちらでもという意味であり、ちなみにその距離とは直線距離で半径約二メートル。
昼以降なら全然かまわないのだけれど、朝は誰にも近寄られたくない。
――現在の時刻は午前八時十五分。
あと十五分ほどで朝のHRが始まるのだが……やけにクラスの中が騒がしかった。
「おい、聞いたか荒木! どうやら転校生が俺達のクラスに来るみたいだぞ!」
――鼻息を荒くしながら近づいてくる男が一人。
「朝から騒がしい男だなーお前は。それで……転校生……だって?」
こいつの名前は芦屋春日。
そこそこ整った顔立ちに、そこそこいい成績を持ち、そこそこ運動神経もよくそこそこ声もいい、いい男。
だが、実はかなりのエロスであり性の探究者でもある。
入学当初はそこそこのイケメンということもあって興味を示した女子たちもいたが、全員二分と経たない内にドン引きして二度と近づく事はなかった。
まぁそうは言っても、こう見えて友情には暑苦しいほどに熱いヤツなんだけどな。
「おう! いやー、まさか俺達のクラスに転校生が来るとはなー!」
興奮冷めやらぬ様子でさらに鼻息を荒くしながら芦屋が顔を近づけてくる。
……って近い近い近い! 顔が近いんだよ! 紹介しておいて申し訳ないけど朝からこんなに顔を近づけられると暑苦しいわ!!
「つーか5月に転校生が来るなんて珍しくないか?普通はもうちょっと時期をズラすもんじゃないか?」
芦屋の顔を右手で押しのけた。あぁ、暑苦しい。
「はぁ、確かに珍しいよな。うん、この時期に転校してくるなんて確かに珍しい。……でもなぁ! お前は俺に対して他に聞くことがあるだろ!」
え、いきなり声を荒げられても困る。
うーーん、しっかし他に聞くことねぇ…………急に言われてもわからんぜよ。俺はアドリブに弱いんだ。
しかし俺はここであることを思いついた。
そうか! わかったぞお前が何を言いたいか!
「芦屋、そいつはもしかして新手のスタンド使いなんじゃあないのか……?」
手のひらを上にし右手の人指し指を芦屋に向け少しだけ顎をあげて俺は言った。わからない人は某奇妙な冒険を見てね!
「Exactly(その通りでございます)……って、バッキャローウ! 性別に決まってんだろ!!」
「ですよねー」
でもこういうネタにノリつっこみで返してくれるところがコイツのいい所なんだよな。
「ハハハ、悪い悪い。それにしてもお前のテンションがそんなに高いってことはその転校生はもしかして女子なのか?」
「あぁー! どんな娘かなぁ? お姉さまタイプ? それとも妹タイプ? なんにせよ転校生ってだけで萌えるぜ!!」
「って聞けよっ!」
……まぁ芦屋のテンションから推測するに転校生はきっと女子なんだろうな。転校生かー。どんな娘だろ?
「お、チャイム鳴ったな」
芦屋とくだらない会話をしていると、HRの開始を告げるチャイムが教室に鳴り響き先生が戸を開け入ってきた。
「チャイム鳴ったぞー。席につけー」
出席簿をわき腹に挟みながら担任の先生先生が気だるそうに入ってきた。ちなみに表記すると、『先生先生』とややこしい上に呼びにくい事この上ないので、俺達は相性を込めてナマ先生と呼んでいる。
それにしても、なんかいつにも増してダルそうにしているのは気のせいだろうか?
せっかく転校生が来るっていうんだから、もっとシャキっとすればいいのに。
「ふぁーーあ」
やっぱり今日もやる気はなさそうだ。美人が台無しですよ、ナマ先生。
「それじゃあ出席を取る前に――」
「ハイハイハーイ! センセー! 転校生はカワイコちゃんですかー!?」
「落ち着け。今まさにその転校生のことを言う流れだっただろうが」
「荒木の言う通りだぞ芦屋ー。それにそんなの私に聞かなくても直接確かめればいいだろーがー」
「ナマ先生……ボカァね、先生の口から聞きたいんですよ。先生の『口』から聞きたいんですよ!」
なぜ二回言った!? 大事な事だからか!?
「はぁ……お前はめんどくさい生徒だな。それで? いったい私になんて言ってほしいんだー?」
「にゃんこ、こにゃんこ、まごにゃんこ……これを早口で三回言ってください」
「……? にゃんここにゃんこまごにゃんこにゃんここにゃんこまぎょなんきょまん――」
「お前は何を言わせようとしているんだーー!!」
「そげぶっ!」
助走をつけ、芦屋の後頭部めがけて思いっきり殴った。え、やりすぎじゃないかって? いやいや、芦屋をナメてもらっては困るんですよ。
「痛ってぇーなー、なにすんだよー」
「お前の暴走を止めてやっただけだっーの」
お前のせいで危うくR指定をつけないといけないところだったんだぞ!
ちなみにわかってるとは思うが、決して女の子には言わせちゃダメだぞ! 大変な事になってもお兄さんは一切責任をとらないからな!
「……? よくわからんが芦屋はあとで反省文なー」
「うぇぇぇぇぇぇ!?」
友人が道を違えたなら一緒に突っ走るのが友情だ!! ってどこかの誰かが言ってたけど今のは流石に無理だわ! 全力で阻止するわ!
「えー、それじゃあ改めて出席を取る前に今日は二つほど報告があるー。まぁ一つはこの後登場する転校生のことなので省略だー」
省略すんのかよ! ちゃんと報告しろよ!
「それでもう一つの件だがー。最近この辺で何やら『物騒なこと』が起きてるみたいなのでー。巻き込まれないように気をつけるようになー。私は巻き込まれても一切関与しませーーん」
「関与しようよ! あんた俺たちの担任だろ! っていうか転校生待たせすぎだろ! さっきから扉の前で転校生らしき人影がそわそわしてるから! そろそろ入れてあげてーーっ!」
「それじゃー私は授業があるので一足お先に失礼するー」
「先生ー! 転校生! 転校生!!」
もう叫ばずにはいられなかった。だってこの人無茶苦茶なんですもの! マイペースにもほどがあるんですもの!
「おー忘れてたわー、そろそろ入ってきてもいいぞー」
教室の戸をゆっくりと開けながら、腰の辺りまで伸びている日本人形のようなサラサラとした黒髪に、吸い込まれそうな漆黒の瞳をした、どこか不思議な雰囲気の女の子が入ってきた。
『わーお!』
『えらいベッピンさんじゃないですかー!』
『かわええええええ!!』
そんな声が教室のあちこち――主に男子――から上がっているが冷やかしにもにた賛辞を聞き、転校生はさらに緊張が高まったみたいで。
「きょ、今日から皆さんとご一緒す、することになりましたす、栖桐華菜乃です。よ、よろしくおにゃがいしまひゅ!」
転校生は、自己紹介から思いっきり噛んでアワアワしていた。まぁしょうがないよな。転校初日だし俺だってこんな風に注目されるとアガると思うし。
「はい、とゆーわけでなー。私は授業に行くので転校生の世話とかなんやかんやは荒木に任せるわー」
ナマ先生がめんどくさそうに頭をかく。
それにしても困ったもんだ。今日が初対面のしかも転校生の世話を任されるなんて『アラキ』くんも大変だなぁおい。
どれ、ここは一つ俺が手伝ってやるとするか。こう見えても『やっかいごと』には慣れているんだからな。
……ん? なんでみんな俺を見てるの?
え、名札? 名札を見ろ?
んーと、A-R-A-K-I……うん、荒木って書いてあるね――
「……って、荒木は俺じゃないですかぁぁぁぁ!!」
続く




