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友だちはへん人ばかり  作者: せい
第二話 朽葉千羽の華麗なる勝負
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へん人No.3 朽葉千羽 その3

「ねぇ恩人おんじんクン。さっきのアレって本当なのかい?」


「アレ? アレってどのことだ?」


 ストーカーを乗せたパトカーが、七十メートルほど先のてい字路を曲がって完全に見えなくなった所で、隣に立っていると呼ばれていた女の子が話しかけてきた。

 『恩人クン』という呼び慣れないあだ名が少しだけむずがゆかったが、『アレ』が何なのか気になったので聞き返した。一体『アレ』って何のことだろう?


「さっきのストーカーが言ってたことだよ」


「……と、言いますと?」


 アイツ、何か言ってたっけ? ほんの数分前のことだけど思い出せない。そう、まるで都合が悪いことに目を背けているというかフィルターがかかっているというか――


「キミがボクを『騙してる』って言ってたことだよ。アレは『本当』なのかい?」


「――んなっ!?」


 先ほどまでとは打って変わって、ジト目で俺を睨みつけてくる。

 う、疑われている! マズい、マズい、マズい! このままじゃあ確実にさっきの二の舞だ!! どうする!? どうすれば!?

 危険を知らせる警報が頭いっぱいに鳴り響く中、俺の思考回路が導き出した答えは至って簡単シンプルなモノだった。







「や、やっと見つけた……!! なんでこんなところにあるんだよ……」


 『落とした』という探し物を捜索し始めてかれこれ二時間。

 俺は公園沿いに植えられている五メートルくらいの針葉樹に、まるでクリスマスツリーに付ける装飾品のように『何故か』引っかかっていた『それ』の回収に成功した。


「おー! これだよこれ! これこそボクが探してた落とし物だよ!」


 木陰でジュースを片手に休憩していた女の子が駆け寄ってきて、俺の手から真っ赤な『お守り』を摘まみあげると、それを鞄のチャックに結び直す。


「じゃ、じゃあお守りも見つかったことなんでぇ……ワタクシはそろそろおいとまさせてもらいま――」


「ん? 一体全体どこに行くつもりなのかな? まさか、これだけでボクがキミに受けた精神的苦痛が紛れるとでも思っているのかい?」


「で、ですよね……」


 どさくさに紛れて逃げ出そうとしたがダメだった。ぐぬぬ……。


「少なくとも、今日一日はボクに付き合ってもらうからね。ヘ・ン・タ・イ・クン」


「りょ……了解しました」




 あのあと――俺は理性を支配していた三体の悪魔達から再び、


 『フッ、取るべき行動は一つ! もちろんわかってんだろぅ?』『一回騙せたんだから次もイケるって!』『いつ騙すの……? 今でしょ!!』


 と、悪魔の囁きを聞かされ『まぁ……もう一回くらいなら……』と、心を悪魔に委ねようとした瞬間――


 『やらせはせん、やらせはせんぞぉぉぉ!!』


 不死鳥の如く復活した良心エンジェルが破竹の勢いで俺の心に巣くう悪魔達をなぎ払ったのだった。


 『邪魔者は消えた……後はお前が自分で考えるんだな……』


 復活する前とは随分キャラが変わっている!? 前までは如何にも『天使』って外見だったのに、今ではサングラスと葉巻と夕日が似合いそうなダンディーな……そう! 例えるなら十三サーティーン的な外見へと俺の良心エンジェルは進化していた。

 そして俺は良心に従うままに今までの非礼を詫び、犯してしまった罪をゆるしてもらえるよう、J・S・D(ジャンピング・スライディング・土下座)を決め込みながら必死に懺悔をした。

 すると女の子は、あやしくニヤッと笑いながら、


「じゃあーボクの替わりにお守りを探してよ。一応『未遂』だった訳だし、見つけだしてさえくれればこの一件は『無かったことには』してあげるよ。ヘンタイクン」


 と、言ってきた。だから俺は一人で公園の中を探していたのだった。

 それにしても木の枝に引っかかってるとは思わなかった。落としてないよね? どう考えてもおかしいよね?

 ……まぁ、警察や学校に連絡されるわけでもなく、あだ名が恩人クンからヘンタイクンへと転職ジョブチェンジしただけで、さっきのアレをチャラにしてもらえたんだ。これ以上の贅沢は言えないし言っちゃあいけないよな。


 公園を後にし、学校とは正反対の方向へとズンズン進んでいくので慌てて後を追いかける。

 そして、俺は会った時から気になっていたことを聞くことにした。


「あのー? ところでなんですけど、一つお聞きしたい事があるのですが」


「うん? なんだいヘンタイクン? ボクの何を知りたいのかな? 先に言っておくけどスリーサイズなら教えないよ?」


「聞かねぇわ! それに聞いたら聞いたで、更に変態扱いする気だろーが!!」


「フフッその通りさ。よく勘づいたね。で、一体ボクの何を知りたいって言うんだい、ヘンタイクン?」


 相も変わらず変態ヘンタイのレッテルを貼られ続けているわけだが、全て自分の愚行が原因であり自業自得なのでグッとこらえ俺は口を開いた。


「はぁ……。いや、知り合ってばかりだけどさ、よく考えてみると俺たちまだ自己紹介も済んでないよな? だからお互いを知るためにもお前の名前を教えて欲しいんだよ」


 流石にって名前が名字じゃあないだろうしな。ここいらでハッキリさせておかないと。


「うーん……まぁ、それもそうだね。本当はヘンタイに教える名前なんて無いんだけどね、ヘンタイクンは色々とボクの為にガンバってくれたから特別に教えてあげるよ」


 そう言うと俺の耳元で、まるでヒソヒソ話をするかのように両手でトンネルを作り、俺にしか聞こえないような小さな声で囁いた。


「ボクの名前は、くちだよ。よろしくね、ヘンタイクン」


 続く


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