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友だちはへん人ばかり  作者: せい
第二話 朽葉千羽の華麗なる勝負
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へん人No.3 朽葉千羽 その2

「一応、キミの言い分を聞いてあげるよ」


 地面に向かって深々と頭を下げている俺に向かって女の子が語りかけてきたので、先ほどの行為に対する弁明をするために頭を上げた瞬間――

 俺は思わず息を呑んでしまった。

 なぜならそこには、肩口をくすぐる触りごこちがよさそうな栗色の髪の毛に、猫のように丸々とした大きな目がとても印象的な美少女が立っていたのだ。


「あ……えーっとですね……えーっと、そのーー」


『それはもちろん人助けをするためさ! 誰だって目の前で困っている人がいたら救いの手を差し伸べるだろう? 今回もただそれを実践しただけだよ! HAHAHA!!』


 というナイスな答えを用意していたのに、言葉が続かない。俺はこの子が発する圧倒的なまでの美少女力オーラされていた。

 まずい……! 何か……なにか言わないと……!


「……? 何も言えないって言うのなら、このまま警察に通報するしかないようだね」


「ちょ、ちょっと待って! 待ってください! 言います、言いますから!」


 ふところから取り出したスマホを耳にあてようとしていたので、それを慌てて制止した。


「やれやれ、やっと喋ってくれたか。……で、どうしてボクのスカートを覗こうとしたのかな?」


 ……どうしよう。その場の勢いでそう答えてしまったけど、俺が覗こうとしたことは事実なわけだし、それに現行犯で見つかってしまってもいる。

 考えろ、どうすれば俺の行為を正当化できるか考えるんだ……!

 あの時、俺が口走ったセリフは『じゃあ、いつ覗くのかって?』だった。『覗く』コイツをどうにかしないと……。覗く、覗く、のぞく……ハッ!

 その時、俺に電流走るッ……!


「……君は俺がスカートを『覗こう』とした。確かそんなことを言ったね?」


「うん? 言ったよ。けどそれがどうかしたのかい? キミがボクのスカートを覗こうとしたのは事実でし――」


「ところがどっこい!! そもそもそれが大きな間違いなのだよワトソン君ッ」


「え、ワトソンってもしかしてボクのこ――」


「スカートを『のぞこう』となんかしてない。そう、俺は……ッ!」


 喋る暇を与えないよう、食い気味に発言を遮る。

 喋らせたら、突っ込ませたら負けだ! このまま勢いで押し切る!!


「君のスカートにくっついていた、この『毛虫』を『のぞこう』としていただけだったんだよ!!」


 我ながら苦しい、いや見苦しい戯言ざれごとだってことは重々承知している。けれども今はこれで乗り切るしかない。


「えぇぇぇ!? ど、どこどこどこ!? どこについてたの!? やめてよ!! ボク、虫の中でも毛虫が特に苦手なんだよーー!!」


 先ほどまでの毅然とした態度から一転し、途端にアワアワとしだした。

 イケる! このまま押し通せる!!


「その毛虫なら……さっき君に蹴られた時の衝撃でどっか飛んでいっちゃったよ。でもきっと大丈夫、あの毛虫ならきっといつか大きくなって俺たちの前に帰ってきてくれるさ」


 本当は毛虫なんかどこにもいないのだけれど、この虚言を信じ込ませる為、自分の手のひらにフッと息を吹きかけ『もう消えちゃったよ』というアピールをした。

 ……しかし我ながら気持ち悪い。

 それに、よくもまぁこんなにも口から出任せが出るもんだ。

 もしかしたら俺の中に眠っている悪魔(三体)がまた活動し始めてるのかも。

 少しだけ自分の事が嫌いになりそうだったが、顔には出さずに目の前に佇む美少女を確認した。


「そ、そうだったのか……まさか毛虫がいたとは……疑ってゴメンよ、てっきり無防備な女の子のスカートをこっそりと覗く、男の風上にもおけない変態かと思ったよ。ありがとう、キミはボクの恩人クンだね!」


「お、おう! わかってくれればいいんだよ、わかってくれれば! ははははは……はぁ」


 どうやら俺の事を信じてくれたみたいだけど……まさかこんなにも簡単にいくとは。

 こんなにも純朴な女の子のスカートを覗こうとし、あまつさえ、それをもみ消したなんて男のすることじゃない……よな。

 内なる悪魔との戦いで叩きのめされていた天使という名の良心が、『まだだ……まだゴングは鳴っちゃあいないぜ……』とでも言わんばかりに立ち上がろうとしているのを心の奥底で感じた。

 が、しかし天使が立ち上がるよりも先に、誰かの声が公園に響き渡った。


たん!! 騙されているぞッ!! その男の言うことを信じるんじゃない!!」


「え?」


「おいおい、何を言ってるんですか? 俺はただ善意からこの子のスカートに引っ付いていた毛虫をとろうとしてただけで――」


 そう言いながら振り返ると、そこにはさっき俺を通報しようとしたサラリーマンが立っていた。

 

「な!? アンタはさっきの――」


「くそぅ……くそぅ……僕の千羽たんに近づいた挙句スカートまでめくろうとするなんて許せんッッ!! 警察にしょっかれるがいい!! おーーいお巡りさぁぁぁん!! こっちですよぉぉぉ!! 早くこの犯罪者を捕まえてくださぁぁぁぁい!!」


 するとサラリーマンの叫び声に呼応するかの如く、どこからともなく二人組みの警官が現れた。

 いくらなんでも早すぎじゃないか!?

 と、肝を冷やしながらどうして警察の登場がこんなにも早いのか考える。

 そういえばこのサラリーマンは、俺が芦屋のメールに文句をつけている時に警察に通報していた。

 と、いうことはあの時から警官を連れまわしていたのか? なんて迷惑なヤツなんだ!


「あ、君ーちょっといいかな?」


 そう言いながら若そうな警官が近づいてきた。


「ごめんなーこれも仕事だから、ちょっと私達とお話ししてもらえるかな?」


 もう一人のベテランだと思われる年輩の警官は苦笑を浮かべながら、優しく俺たちに話しかけてきた。

 しかしまずい状況だ。スカートの事はまだ有耶無耶にできるけれど、普通この時間に高校生が学校に行ってないことを突っ込まれたら非情にやっかいなことになる。

 どうすれば切り抜けられる……? どうすれば……ハッ!

 その時、再び俺に電流が走る……ッ!


「いーから!! そんな決まりきった問答しなくていいから!! 早くそいつを捕まえろって!! 僕の千羽たんが危うくコイツに汚されるところだったんだ!! おい!! 早く捕まえろよ!!」


 まるで玩具を奪われた子供のようにギャアギャアと喚いている男に向かって、静かに話しかけた。


「なぁ……アンタさっきから千羽たん千羽たんって言ってるけど、それって誰の事言ってるんだ?」


 俺のその言葉がさらにカチンときたのか、先ほどより一オクターブほど高い声で男が更に怒号を飛ばしてくる。


「アァ!? 千羽たんって言ったらお前がスカート覗こうとしてたラブリーでチャーミングなそこの女の子のことに決まってるじゃねーかよぉ!! そんくらいわかれよなぁ!! アァ!?」


「ふむふむなるほど。ところで千羽さん? 千羽さんはこの方とお知り合いか何かかな?」


 ここでもし、『知り合いだ』と言われてしまったら俺が想定していた計画が瓦解してしまう事になる。

 だが、俺は先ほどのやりとりからして、すでに勝ちを確信していた。


「……いや、まったく。見たことも聞いたことも話したことも話しかけられたことすらないよ」


 男がと呼んでいるこの子に確認をとってみると、案の定の答えが返ってきた。

 どうやらこの男は『そういうこと』のようだ。

 先ほどまで穏和な表情をしていた警官達の顔が曇り、若そうな警官は胸に装着している無線に向かってボソボソと呟いている。

 が、男は自分の置かれている立場が変わったことに気づいていないようで、なおも俺たちに対して声を荒げていた。


「当たり前だろうが!! 俺が千羽たんに気づかれないようどれだけ苦労しながらストーキングしてると思ってんだ!! 今日だってお前みたいな危険人物さえ見かけなかったら今頃千羽たんをじっくり眺めながら、このカメラに収めることが出来たっていうのにさぁ!! だいたい――」


「……だ、そうですが?」


 充分な言質が確認できた所で様子を伺っていた三人に俺は問いかけた。


「お巡りさん、コイツです」


「……みたいだね。はーいそこのお兄さーん、ちょーっとお話し聞かせてもらえるかなー?」


「ごめんねー少しお話し聞かせてねー」


「…………はぁ?」


 どうやら未だに状況が把握できていない男は、口をポカーンと開けたまま固まっていた。

 どうして俺の方に来るんだ? アイツを捕まえろよ? と言う心の声が聞こえるようだ。


 ――そして。


『なんで僕が捕まるんだよぉぉぉぉ!! アイツを、アイツを捕まえろよぉぉぉぉ!!』


 応援に駆けつけた白と黒を基調としたパトカーに連れ込まれた男は、断末魔の苦しみにも似た叫び声を上げながら、連行されていった。


「どうしてこの街には禄な大人がいないんだろうな」


 徐々に小さくなっていくパトカーを見つめながら、俺はポツリと呟いた。


 続く



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