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友だちはへん人ばかり  作者: せい
第一話 栖桐華菜乃の純然たる好意
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へん人No.2 栖桐華菜乃 その10

「はー、食った食った」


「どう……? おいしかった……?」


 栖桐が作ってくれた朝食はとても美味しく、あっという間に平らげてしまった。


「うん、やっぱりめちゃくちゃ旨かったよ。ごちそう様でした」


「ほ、ほんとに? よかったぁ……」


 ここ最近、毎朝コイツの手作り料理を食べているけど驚くほど飽きがこない。

 おそらく俺が飽きてしまわないよう、味付けなどを『かなり』予習しているのだろう。

 愛の力って凄い――もとい、怖い――ね。


「それじゃあ食器片づけちゃうね? 早くしないと学校に遅刻しちゃうし……」


 そういうと、栖桐は慣れた手つきで皿を重ね、台所で食器を洗い出した。

 洗剤の位置や食器を片づける位置も把握しているのか非常に手際がいい。


「ふぅ……とりあえず制服に着替えるか」


 昨日、学校から帰って床に脱ぎっぱなしにしておいた、カッターシャツとズボンが何故か綺麗に畳まれていたが、これも既に恒例の出来事だったので、俺は考える事をやめ畳まれている制服を手に取った。

 と、その時どこからともなく某帝国軍の某黒マントが登場する時のテーマソングが部屋に鳴り響いた。

 直感的に(というかそれ以外あり得ないのだが)携帯電話の着信メロディだと分かったので、辺りを見渡すと、どうやら某黒マントのテーマは、部屋の片隅に置かれていたカバンから鳴っているようだった。


「……いや、着信音に設定するメロディーじゃないだろ! 設定されてる人が可哀想だわ!」


 電話をかけている受話器の向こう側の人に若干の同情をしつつも――あの栖桐が――こんな物々しい着信メロディーにしている人物が誰なのか俺は気になってしまった。

 チラリ、と台所に目をやると栖桐はまだ食器を洗っているようだ。


「毎朝不法侵入されるし、今日は窓ガラスまで割られたんだ! これくらい見たって構わない……よな……?」


「……ゴクリ」


 と、生唾を飲み込み、音を立てないよう四つん這いになりながら、そろりそろりとカバンに近づく。

 気づかれないようゆっくりとカバンのジッパーに手をかけ、後方を確認。

 ……どうやらまだ時間に余裕はあるみたいだ。

 俺はゆっくりと、じっくりと、ジッパーを引っ張ってカバンの封を解き、目視で中身をざっと確認した。


「教科書にノート……それから……弁当箱に筆箱……か。ん? 携帯はどこに入ってるんだ?」


 一通り見渡してみたがそれらしいものが見あたらい。

 やむを得ず教科書をかき分けてみると、カバンの側面に栖桐のものと思われるスマートフォンを見つけることが出来た。ちなみに、俺のスマホと同機種で色違いな所には何も言うまい。

 が、探し出した時には既に着信メロディーは鳴り止んでいた。

 同機種なのでどこをどう操作すればトップ画面が立ち上がるのかは熟知しているのだけれど、電源ボタンを押した瞬間に誤作動を防止するためのロック画面が表示された。


「まぁ……折りたたみ式のガラケーじゃあるまいし、普通はロックをかけるよな……」


 画面に目を落とし改めて確認する。どうやら、ロックを解除するためには四桁の番号を入力するみたいだ。

 普通は自分の誕生日や好きな人の誕生日を解除番号に設定するはず……!


「告白、不法侵入、同機種色違いのスマホ……! ここまでくれば解除番号はきっと俺の誕生日に違いない! いや、むしろそれ以外ありえないッ!!」


 念の為、もう一度だけ栖桐の様子を確認し――


「よろぉしぃくぅお願いしまぁぁぁぁす!!」


 自分の誕生日をスマホに打ち込み――


「いっけぇぇぇぇぇ!!」



 栖桐に聞こえないくらいの大声で叫んだ。




『解除番号が違います』



 ――が、弾かれた。


「…………あれ? 押し間違えたか?」


 自分の誕生日を頭の中で反芻はんすうし、改めて入力したが、無情にもロック画面は『解除番号が違います』と表示するだけだった。そして――


「荒木くん……? どうして私のカバンを開けてるの……? それにそのスマホ、私のだよね……?」


 ロック画面を解除する事に必死だった俺は、栖桐が洗い物を終えた事に気がついてなかった。


「え、あ、いや、そ、そのーーーーーこ、これはですね、興味本位と言いますか好奇心と言いますか……な、なんていうか……そう! 気がついたら勝手に手が動いていたんですよ!」


「気がついたら……勝手に……?」


「そ、そうそう! 気がついたら勝手に……ってあれ!? これってもしかして栖桐のスマホ!? い、いやーいつの間にか持ってたわー! 俺のと同じ機種だったから気づかなかったわー!」


「………………ジーーー」


 栖桐に睨まれ、額から大量の汗が吹き出しているのが自分でもわかった。

 しかもよく見ると右手にフォークを装備している……!! これが包丁じゃないまだマシなのだろうが、それでもフォークは立派な凶器だ。


「…………」


「…………ゴクリ」


 いざとなったらコイツが粉々に破壊しやがった窓から飛び降りるしかない……ここは二階だが、このくらいの高さならなんとかなるはず……!


「……はぁ、もう。今回は許すけど、今度また勝手に漁ったりしたら流石に怒るんだからね……?」


「…………はい」


 そう言うと、栖桐はエプロンを脱ぎ、後ろで纏めていたヘアゴムを取ってポニーテールをほどき、「返して」と言うかの如く右手を出してきたので、スマホを返すと五秒ほど操作した後、栖桐の顔が露骨に曇った。


 続く 


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