へん人No.2 栖桐華菜乃 その9
本当は新キャラの名前だったんですが、全然絡みがないのでこっちにしました。
スマホからだから誤字脱字があるかも……
もしあったら指摘してくださいTT
六月。
暖かな太陽の光が瞼を通り過ぎ、俺の瞳と脳に朝が来たことを告げているのだが、俺はなかなか起きる気になれなかった。
「……うーん、あと五分」
誰に言うでもなく、一人呟く。……どうして朝はこんなに眠いのだろう? 出来ることならこのまま惰眠を貪っていたい。昼過ぎまでずっと布団にくるまったまま眠っていたい。眠いから学校行きたくない。
「……今日は四時間目くらいから授業出ようかな」
四時間目から出れば、授業を受けるのは半分の三時間で済む。しかも四時間目が終われば直ぐに昼休憩だ。
授業を受けて、飯を食べて、授業を二時間だけ受けて帰る。
なんというエコロジーだろう。これならいつもの半分の労力で学校に通えるじゃないか。
先生たちも、一時間目から机に突っ伏して堂々と授業中に睡眠をとられるより、途中から万全の状態で参加される方がよっぽどいいはずだ。
これが俗に言う『Win-Win』というやつだろう。
どちらも損をしない、お互いが得をする。
皆が笑ってハッピーな結末を迎えられる最良な方法というわけだ。
「よし……二度寝しよう」
『やっぱ、ちゃんと学校行った方がいいんじゃない?』
俺の中の天使が囁きかけてきたが、完全に無視してもう一眠りすることにした。
こういう時、『一人暮らし』って便利だよね。
もう一度、布団にくるまり再び深い眠りに誘われようとした時、俺の鼻が微かな匂いを捕らえた。
暖かくも優しい……まるで全てを包み込むかのような故郷の母を思い出す、懐かしい匂い。
気がつくと俺はモソモソと布団から這い出しながら、匂いを頼りに居間へと向かっていた。
そのどこか懐かしい匂いに、睡眠欲に抑えられていた食欲が「お腹すいた!」とでも言うかの如く、ぐぅ〜と鳴る。
そして、食べ物を欲している腹を抑えながら居間の扉を開けると、そこには絢爛豪華な朝食の数々がテーブルの上に並べられていた。
チラリと台所に目をやると日本人形のようなサラサラな黒髪を後ろで纏め、制服の上からエプロンを装備した女の子が、味噌汁の味見をしているようだ。
「…………はぁ。おはよう、栖桐」
多種多様な料理が並べられたテーブルの前に座り、とりあえず挨拶をする。
俺の声を聞いた黒髪の女の子は、くるっとこちらを振り向き「お、おはよう。荒木くん」と言いながらにっこりと微笑んだ。
そして慣れた手つきでガスコンロの火を止め、慣れた手つきで食器棚からお椀を取り出し、慣れた手つきで味噌汁をおたま二杯分くらい注ぐと、慣れた手つきでテーブルの上に置く。
「きょ、今日はね……? 荒木くんが好きな玉子尽くしにしてみたんだよ……?」
顔を赤らめモジモジとしている栖桐は大変可愛らしい。
しかも今日は俺の好物である玉子料理を作ってくれたそうで、改めてテーブルに置かれた料理の数々を見ると、確かに、どの料理にも玉子がふんだんに使用されていた。
「おー、こりゃ見事な料理だな。どれもおいしそうだ」
「え、えへへ……」
首を傾げながら、照れくさいのか頬をポリポリとかく栖桐は大変可愛らしい。
『料理も出来る黒髪の美少女に好意を持たれている』
この単語を聞くだけで世の中の男子高校生はほとんどが嫉妬するだろうし、もし俺が逆の立場だったら間違いなく嫉妬していることだろう。
だが、この目の前の美少女は『それだけではない』のだ。
「…………今日はどこから『入って』きたんだ?」
「あ、あそこからだよ……?」
片手で頬を抑えながら空いた手で栖桐が指を差した方向には粉々になった『窓だったもの』があった。
「あ、あそこからだよ……? じゃないわー! え、おま、これどうしてくれんの!? ガラスって高いんだぞ!?」
「だ、だって玄関開いてなかったんだもん……」
「だってもクソもあるか! 弁償しろ弁償ー!!」
「うぅー……だってぇ……」
勝渕が逮捕され、足がやっと治ったあの日。俺はこの美少女に二回、告白をされた。
一つは『俺の事が好き』と言うこと。
そしてもう一つは『俺のストーカー』だと言うこと。
好きでいてくれる事は非常にありがたいことなんだけれど……いくら何でも二つ目の発言は容認できない。そう告げると栖桐は――
『め、迷惑はかけないようにするから……いままで通りの関係でいさせて下さい』
と俺に言ってきた。その言葉に対して俺は「あぁ、今までの関係だったらいいぞ」と言ったが……その結果がこれですよ。
毎朝勝手に家に侵入しては朝食を作り、朝の情報番組を見ながら一緒に食べる。
なんだこれ? どうしてこうなった?
あの日の事を思い出しているとまた俺の腹がぐぅ~と鳴った。おそらく「こまけぇこたぁいいんだよ!!」とでも言いたいのだろう。
「はぁ……まぁいいわ。割ったガラスはお前がなんとかしとけよな。とりあえず今は飯を食おうぜ」
「……はい」
俺達は二人同時に手を合わせ「いただきます」と唱和し、豪勢な朝食を食べることにした。
続く