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友だちはへん人ばかり  作者: せい
第一話 栖桐華菜乃の純然たる好意
11/92

へん人No.2 栖桐華菜乃 その7

今回もちょい長いです……

あと収まりきらなかったのでラストは次話です……


ゆっくり見ていってね!(古い)

 カラカラカラ……。カラカラカラ……。

 夜の住宅街に乾いた金属質の音が響く。音の正体を確かめるべくじっと目をらすと、全身を黒で統一した大柄な男が手にした金属バットを地面に引きずりながら歩いてくるのがわかった。


「あ、あれって……もしかして噂の……?」


 俺の背中で上着をぎゅっとしながら震えている栖桐すどうに聞いてみたが、返事は返ってこない。

 カラカラカラ……。カラカラカラ……。

 音がどんどん近づいてくる。

 そしてあと十五メートルというところでピタリと止まると、被っていたパーカーのフードを脱ぎ俺達に話しかけてきた。


「こ~~んな時間に生徒が出歩いちゃ~~ダメだろうが~~?」


「ガ、ガチムチ!?」


 金属バットを持って俺達に話しかけてきた大柄な男。それは俺達が通っている高校の体育教師、勝渕かちふちだった。


「な、なんでガチムチがこんなことしてるんだよっ!? お前教師だろっ!! 生徒を守る立場じゃないのかよ!!」


「はぁ~~~~~~~? な~~んで俺がお前らを守らんといけんのだ~~? 俺の事を『ガチムチ』だの『ガチホモ』だの『ただのホモ』だの言ってる可愛げのない生徒なんかな~守る価値ないんだよ~~?」


 左手で左耳に手をえ舌をベロンと出しながら、勝渕は吐き捨てるように言った。


「だからなぁ~~他人ひとの悪口しかいわないような悪~~い生徒にはこの俺が直々(じきじき)に教育的指導してやろうって言うんだよぉ~~!」


 そう言うと勝渕は再びフードを被りバットを引きずりながら俺達にゆっくりと一歩ずつ歩きながら接近してくる。

 相変わらずバットは両手で持たずに右手で地面に引きずりながらだ。


「栖桐……お前は逃げろ。ガチムチは俺が食い止めておくから」


「え、えぇ!?」


 勝渕に聞かれないよう、背中で震えながら俺達のやり取りを聞いていた栖桐にそっと呟いた。


「で、でも……! それじゃ荒木くんが……」


「大丈夫だって。それに俺がコイツをきつけてる間に一一〇(ひゃくとう)番して警察を呼んでくれるだけでいいから」


「で、でも……。でも……!」


「どうして『変態あんな』ことしたのにってか? それはな、お前が女の子だからだよ。女の子に怪我をさせたとなっちゃ男じゃないからな」


「あ、荒木くん……」


 漆黒の瞳に涙を溜めたまま走りだした栖桐を尻目に見送り、俺は勝渕の前に立ちふさがった。


「ほほぉ~~? なんだ~荒木ぃぃ~? ガキの癖に一丁前に紳士気取りかぁ~~?」


「なんとでも言えばいいさ。たとえ変態だったとしても、俺の事を好きだって言ってくれる女の子を危険な目に合わせるわけにはいかないからな!」


「ほほぉ~~言うじゃないか~~。それじゃあお前をボコボコにしたあとで栖桐にも教育的指導をしてやらなくっちゃあなぁ~~! もちろん教育とは言っても『性』教育だがなぁ~~!」


 引きずっていたバットを両手で持ちながら勝渕が向かってきた。


 素手対バット。


 誰が見ても結果は目に見えている。それはもちろん俺の負けで、だ。

 何度も俺めがけて勢いよくバットが振り下ろされ、それを俺は必死で避ける。

 大振りな攻撃なのでよく見てさえいれば当たることはない。が、避ける度に地面を叩くバットからはとても重々しい音が発せられていた。


「よ~~く避けるじゃないか~~? そんなに俺の教育的指導は嫌かぁ~~?」


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


 しかし、度重なる攻撃を避けているとどうしても息が切れてくる。避けきれはするが仮に一発でも当たってしまえば大ダメージは必須だろう。

 俺は息を整え、栖桐が警察を呼んでくれるまでの時間稼ぎをするためにも、勝渕に話しかけてみた。


「……どうして教師であるアンタがこんな事をするんだよ? アンタが毎回ゴリ押ししてくるマイナーなスポーツ……確かに嫌いなヤツもいたかもしれないけど、俺はアンタの授業けっこう好きだったのに!」


「どうして? ハッ、そんなの決まってるじゃ~~ないか! ストレス発散になるかと思ってだよ~~! 男には制裁を、女には『性』裁を! 一方的に俺が蹂躙じゅうりんし、一方的に俺だけが楽しみ、一方的に俺だけがストレスを発散できる!! こ~~んな素晴らしいことをどうして今まで思いつかなかったのかと、悩んでいたあの頃の俺に言ってやりたいねぇ~~」


 自分のストレス発散のためだったら他人に暴力をふるってもいいっていうのか!? そんなの絶対間違ってる!!

 俺は左手に着けている腕時計にチラリと目を落とし、どれだけ時間が経過しているかを確認した。どうやら栖桐を逃がしてからまだ数分しか経ってないらしい。

 栖桐が警察を呼んでくれたとして、ここまで来るのにはあと何分掛かるのだろうか? 警察は本当に来てくれるのだろうか? 果たして俺は警察が到着するまで立っていられるのだろうか? 

 俺は勝渕と一定の距離を保ちつつも少しずつあと退ずさりしていた。最悪は走って交番まで逃げるしかない。逃げ切れるかどうかは分からないが、俺は勝渕と話しながら頭の中で逃走ルートを思い浮かべていた。


「それになぁ……見え見えの嘘をついて時間稼ぎしようったってそうはいかないんだよ~~!!」


「……っ!!」


 そう言うといきなり勝渕がダッシュして俺との間合いを詰めてきた。おもわくがバレていたこと、そして突然の攻撃に俺は思わずひるんでしまっていた。

 頭めがけて振り下ろされたバットを後ろにって何とか避けるも――


「うぐぁぁぁっ!!」


 完全に避けきることの出来なかったバットは俺の靴に当たっていた。

 あまりの激痛にたまらず足を押さえてしゃがみこんでしまう。そしてそんな俺を見下ろしながら、早くも勝利の余韻に浸っているらしい勝渕はバットを片手で担ぎながら鼻歌を歌っていた。


「よ~~やく当たってくれたなぁ~~荒木ぃ~~? 先生は嬉しいぞぉ~~? でもなぁ……嘘をついてまで先生を足止めしようとしたことだけは許せんなぁ~~」


「う……嘘なん……てついてない……!」


 ズキズキと鈍く痛む右足を押さえながら睨みつけるも、勝渕はニタニタと下卑げびたにやけ顔を俺に向けていた。もうコイツの中では勝利を確信しているのだろう。


「荒木と~~栖桐には~~正体バレちゃったからな~~。荒木には悪いが……ここで死んでもらうかぁ~~♪」


 振り上げられたバットは今度こそ確実に俺の頭を捕らえるだろう。栖桐は間に合わなかったか……。俺はここで死んでしまうのか……。


「じゃあなぁ~~荒木ぃ~~♪」


 片手で振り上げたバットを両手で持ち直した勝渕が満足げな顔と声で俺に告げる。すべてを諦め、ぎゅっと目をつぶり、歯を食いしばる……その時、聞きなれた男の声が耳に入ってきた。


「荒木ぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 男の声に気がつき勝渕は後ろを振り返るも、男が投げたであろう『何か』を防御することは出来なかったらしく、それをもろに顔面に食らうとそのまま俺の横に倒れた。起き上がってこないところを見ると、どうやら今の一撃で気を失ったみたいだ。


「荒木っ!! 大丈夫かっ!?」


「芦屋……? お前どうしてここに……?」


「栖桐が泣きながら電話してきたんだよ。『荒木くんを……! 荒木くんをお願いだから助けてあげて!!』ってな!」


「そうだったのか……ありがとうな芦屋。お前は俺の親友だよ」


「心の友と書いて心友でもいいんだぜ?」


「うーんそれはちょっと……」


「ひでぇ!!」


 口ではそう言ったが俺は心の底から芦屋と栖桐に感謝していた。もし栖桐が芦屋を呼んでくれていなかったら、もし芦屋があと数分遅れていたら、おそらく俺はこの世にいなかっただろう。


「荒木くん!!」


 芦屋と話していると、栖桐が警官を二人連れてこちらに走ってくるのが分かった。


「荒木くん!! 大丈夫!? 怪我してない!? 骨折れてない!? 大丈夫!? 大丈夫!?」


「だ、大丈夫だからっ、肩をっ、掴んっ、で、揺さっ、ぶらないっ、でっ」


「そ、そんなに息を荒げて……! は、早く病院に連れていかないと!!」


「い、いやっ、大丈夫だからっ! それより、揺さぶるのやめてっ……」


「荒木くんが死んじゃうーーーーっ!!」


「死なねぇから!! どっちかと言えばお前に殺されるわ!!」


 ぐわんぐわんと肩を揺さぶる栖桐の手をほどき、一喝した。


「だってぇ……だってぇ……」


「……心配かけてゴメンな。お前が芦屋を呼んでくれてなきゃ多分死んでた」


「……ぐすっ……本当に……間に合ってよかった」


「あぁ、ありがとな」


 ぼろぼろと涙を流す栖桐の頭を撫でてやると、芦屋がヤレヤレといった感じで首を振っていた。


 続く


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