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友だちはへん人ばかり  作者: せい
第一話 栖桐華菜乃の純然たる好意
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へん人No.2 栖桐華菜乃 その6

いつもより長いです。

そのかわり書きたいことを書けた!

満足!

 芦屋と別れてから十分ほどが経った。

 自転車に乗って帰っていればとっくに家に着いている時間なのだけれど、立て続けに発生した『やっかいごと』の事を考えながら自転車を運転する気になんて到底なれそうになかったので、俺は自転車を押しながら帰っていた。


「結局なんだったんだろうなぁ……栖桐も芦屋も先生も俺にさせたいんだろう」


 俺の体操服を持って逃げた栖桐。

 『俺が持っていた方がいい』と言って栖桐のカバンを持たせた先生。

 あんな格好でうろちょろしていた芦屋。


「うーーーーーーん……。……さっぱりわからん」


 腕を組んで考えたかったけど両手でハンドルを持っているのでそれが無理なことに気づき、頭だけをかしげながら歩いていると目の前に十字路が見えてきた。

 この十字路を真っ直ぐ進めばあと三分ほどで家に着く……が、俺はこの十字路を真っ直ぐ進むことが出来なかった。


 何故かと言うと――


「どぅわっ!!」


 十字路の真ん中に差し掛かったところで左側から走ってきたであろう『何か』がぶつかってきたのだ。

 衝撃で反対側に吹っ飛ばされる、俺と、自転車と、ぶつかってきた『何か』。

 本日何回目になるかわからないが、頭の中がはてなマークで埋め尽くされる。


 しかしその疑問はすぐに解消された。


「いっってぇ…………」


「いたた……あ、す、すみません! 急いでいたので前を見ていませ……え?」


「まったく……気をつけてくださ……って栖桐!?」


 ぶつかってきた『何か』、それは俺のクラスに転校してきた黒髪の美少女だった。


「あ……荒木くん……!? そ、そんなどうしてここにいるの!? 『いつもなら家にいる時間』なのに!?」


「……? それってどういうことだ?」


 栖桐は漆黒の瞳を大きく見開き明らかに動揺している。しかもそのせいで俺の声が届いていないようだった。


「お、落ち着けよ栖桐。いったん落ち着け」


「なんで……? どうして……? まさかバレた?」


 バレたって……何がだ? いやそれ以前にコイツさっき変なこと言わなかったか?

 とりあえず落ち着くよう何度かなだめてはみたものの、相変わらず同じような反応しか返ってこなかったので、俺は倒れた自転車を起こしカバンを拾うことにした。

 あーあーカバンの中身とかもグチャグチャじゃないか。ぶつかった衝撃で散乱した教科書やノートを一つずつ拾い、一つずつカバンに入れる。

 そこで俺は自分の持ち物ではないものを発見した。


「なんだあれ? 黒い……袋……ゴミ袋?」


 近づいて拾い上げてみるとそれはゴミ袋ではなく、布で出来た手作りの袋だということがわかった。

 何が入っているんだろう? 好奇心にられ、縛ってある紐をほどこうとした瞬間――


「だ、だめーーーー!!」


「うわっ!!」


 飛んできた栖桐に奪われた。

 そ、そんなに大事なものが入っているのか!? それとも俺に見られたくない『何か』……?

 袋の中身が気になってしまったので、俺から奪い取った袋を両手でぎゅっと抱きしめながらしゃがみこむ栖桐に恐る恐る話しかけてみた。


「あ、あのー栖桐さん? もしでよかったいいんだけど袋の中身見せてくれないかな?」


「…………」


「荒木くん、すっごく袋の中身が気になるんだけどなぁ~?」


「…………」


「す、栖桐さーーん?」


「…………」


 俺の言葉が聞こえていないのだろうか? 何度か話しかけてみるも反応がない。つーか……無視!?

 友達の女の子にここまで露骨ろこつに無視をされるとかなり精神的にくるものがある。っていうか俺達友達だよな?

 話しかけては無視される度にライフポイントがガリガリと削れる音がしたので、俺は話しかけるのを辞め倒れた自転車に異常がないか確認しようとしたら、しゃがみこんでいた栖桐が顔の下半分を袋で隠し顔を赤らめながら話しかけてきた。


「お、怒らない……?」


「怒るって何をだよ?」


「ふ、袋の中を……見て……」


「俺が怒りそうなものを入れてる……のか?」


 ……こくり。とうなずきながらも顔を赤らめたままの栖桐を見ていると、とてもじゃないが怒る気になんてなれなかった。それに……。


「まぁ、正直言うとさ。お前の持ってる袋の中身、なんとなく分かる気がする」


「…………ホント?」


 俺の考えが正しければ十中八九『アレ』なはずだ。さっき栖桐が教室で持ち逃げした『アレ』。

 どうして栖桐が俺の『アレ』を持ち逃げしたのか真相は定かではないけれど、本人が目の前にいるんだ。洗いざらい吐かせてやろうじゃないか。

 そう決心する俺を知ってか知らずか。栖桐は縛っていた紐をスルスルと解くと袋の中に手を突っ込むと『何か』を取り出した。


「か、隠し撮りしてごめんなさい!!」


「まったく……隠し撮りなんかしやがって。いったい俺なんかを撮って何がしたいん……だ、ってえええええええ!? か、隠し撮りぃ!? おまっ、ちょっ、これっ、いつの間に!?」


 栖桐が取り出した写真には、学校で勉強している俺や、家で音楽を聴きながら熱唱している俺などが写っていた。つーか学校での写真なんてどうやって撮ったんだよ!

 栖桐に渡された写真の中にはどう考えても不可能なアングルから撮られたものもあった。いや、マジでこれどーやって撮ったんだYO!


「あ、ち、違った? じゃあ……こっちかな?」


 俺の反応に『しまった!』という顔をしつつも、栖桐は再び袋の中に手を突っ込むとさっきとは別の『何か』を取り出した。


「あ、合鍵作ってごめんなさい!!」


「まったく……合鍵なんか作りやがって。いったい合鍵なんかを作って何がしたいん……だ、ってえええええええ!? あ、合鍵ぃぃぃ!? おまっ、ちょっ、これっ、いつの間に!?」


 合鍵て!! 合鍵て!! 俺んちでいったい何をする気やねん!!

 俺の反応に再び『しまった!』という顔をした栖桐が三度みたび袋の中に手を突っ込むと改めて別の『何か』を取り出した。


「頼むで栖桐……!」


 自分の口調が浪速の高校生探偵になっていることに気づき、慌てて直すと改めて取り出した『何か』を確認した。


「た、体操服盗んでごめんなさい!!」


 そうそう、これこれ! 俺が求めていたのはこれですよこれ!

 栖桐が取り出した俺の『汗が染み込んだ体操服』を回収しようとした……時に俺は気がついた。


「…………なぁ、栖桐」


「は、はい?」


「体操服を返してくれてありがとう。……けどな?」


「は、はい……」




「なんで体操服を真空パック(大)に入れてるんだよぉぉーー!?」


 俺の『汗が染み込んだ体操服』は真空パックに入れられていたのだ。


「え……えーっと……」


「どうして真空パックに入れる必要があったんだい栖桐さん?」


 頭に怒りマークを浮かべつつも、にっこりと微笑みながら聞いてみた。


「だ、だって……」


「だって?」


「……ンク……した……て」


「聞こえないっ! 大きな声でハッキリと言いなさい!! 怒らないから!!」


「ク……クンクンしたかったんです!!」


「――へっ?」


「あ、荒木くんの体操服をクンクンしたかったんです!! クンクンしてモフモフしたあとハスハスするつもりでした!! いやしました!!」


 ……へ、変態だぁぁぁぁ!! 変態が出たぞぉぉぉぉ!! なんだよハスハスって!! いったい俺の体操服でナニをするつもりだぁぁ!?


「で、でもペロペロはしてないよ……?」


「してたら引くわああああ!! いやすでにドン引きだけども!! これ以上ないくらい引いてるけど!!」


 限度額のない変態とはこのことだろうか? 美少女で変態なんてどこに需要があるのだろうか?

 上目遣いで体をモジモジさせる黒髪美少女を前にして、俺のライフポイントが再びガリガリと削られていく気がした。

 どうして俺の周りにはこういう人間しか集まってこないのだろうか。

 そんなことを思っていると。


「あ、荒木くん!!」


 先ほどまでモジモジしていた栖桐が俺の背中に隠れぎゅっとシャツを掴み、カタカタと震えだした。


「ど、どうした!?」


「あ……あれ……!!」


「あれってなんだよ……ん?」


 栖桐が走ってきた方角に指を差しているので、じっと目をらして見ると誰かがゆっくりと歩いてくるのがわかった。

 しかしその人物はただ歩いてくるだけじゃなかった。


 カラカラカラ……。カラカラカラ……。金属質なものを引きずっているのだろうか、歩幅に合わせてカラカラカラと鳴る音が住宅街に響き、それが恐ろしく感じた。



 そして――、『それ』は俺達の前に姿を現した。



 続く

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